培養細胞にプラスミドDNAをトランスフェクションした場合、翌日には導入遺伝子の確認をすることができます。表現型の変化をしっかり捉えるため、場合によってはさらに時間を置くこともあります。それでは逆に、トランスフェクションの何時間後くらいから遺伝子発現が確認できるのでしょうか。ひょっとしたら翌日まで待たなくても、意外に発現しているかも知れません。トランスフェクション実験の時短の可能性を探るべく、実際に試してみました!
材料と方法
材料:
- ヒト子宮頸がん由来細胞株HeLa
- Invitrogen™ Lipofectamine™ 3000 Transfection Reagent
- Invitrogen™ pcDNA™ 6.2-GW/EmGFP(EmGFP発現ベクター)
- 幅広い細胞タイプで高い発現活性を示すCMV(サイトメガロウイルス)プロモーターにより、緑色蛍光タンパク質Emerald GFPが発現する標準的なベクター
- Invitrogen™ EVOS™ M5000 Imaging System(蛍光顕微鏡)
- Invitrogen™ Attune™ NxT Flow Cytometer(フローサイトメーター)
方法:
- HeLa細胞を4×104 cells/wellで24 wellプレートに播種
- 翌日にLipofectamine 3000 Reagentの製品説明書に従い、500 ngのEmGFP発現ベクターをLipofectamine 3000 Reagentを用いてトランスフェクション
- トランスフェクションの直後(0時間)から3、5、6、7、8、10、24時間後にEmGFPを蛍光顕微鏡のEVOS M5000 Imaging SystemとフローサイトメーターのAttune NxT Flow Cytometerで検出
結果
まずは蛍光顕微鏡の画像を見てみましょう。図1をご覧ください。トランスフェクションの直後は当然ながら、3時間後でもGFP(EmGFP)の蛍光を示す細胞を見つけることができませんでした。しかし5時間後になると、少ないながらも視野を移して探せば明らかにGFPが光っている細胞を見つけることができました。さらに6、7、8時間と経過するごとに、視野を移す必要もなく容易にGFP陽性の細胞を観察することができました。

図1. EmGFP発現ベクターをトランスフェクションした後の経時的な蛍光画像
撮影条件は一定だが、視野は異なる
5 hの画像では少ないながらGFP発現している細胞の蛍光が確認できる(矢印)
蛍光顕微鏡では光っている細胞が多いか少ないか、なんとなく分かりますが、フローサイトメトリーのデータをみることで、より詳細にGFP陽性率や輝度を測定することができます。図2はフローサイトメトリーのヒストグラムデータですが、時間経過とともにGFP陽性率が増加していることが分かります。蛍光顕微鏡ではGFPの蛍光が確認できなかったトランスフェクションから3時間後のサンプルでも、わずかながら(1.1%)GFP陽性細胞が検出されています。フローサイトメーターは一般的に蛍光顕微鏡よりも感度が高いため、少数かつ低輝度の細胞が検出できたためと考えられます。

図2. EmGFP発現ベクターをトランスフェクションした後の経時的なフローサイトメトリーデータ
緑文字の%表示はGFP陽性率を示している
表1は、フローサイトメトリーのデータを元に陽性率(何%の細胞で発現しているか)や蛍光強度(個々の細胞でどれだけ強く発現しているか)をまとめたものです。これを見ると、陽性率だけでなく、GFP陽性細胞の蛍光強度の平均値を見ても時間経過とともに増加しており、1細胞あたりのGFP発現量も増加していることが分かります。
トランスフェクション後 の経過時間 |
GFP陽性率 | GFP陽性細胞の蛍光強度の 平均値(MFI) |
0 h | 0.1% | – |
3 h | 1.1% | 4,178 |
5 h | 11.5% | 26,545 |
6 h | 20.4% | 43,896 |
7 h | 24.4% | 54,496 |
8 h | 29.0% | 85,202 |
10 h | 36.7% | 136,841 |
24 h | 58.9% | 125,779 |
MFI: Mean of Fluorescence Intensity(GFP陽性細胞の蛍光強度の平均値) |
以上の結果から、朝一番でトランスフェクションをすることができれば、夕方ごろには20~30%の細胞で遺伝子発現することが確認できました。もちろん翌日まで粘った方がより強く、多くの細胞で発現が確認できますが、目的によっては2日かかる作業が1日に短縮できるかも知れません。例えば、遺伝子導入できた細胞をセルソーターで濃縮し、再度播種したり限界希釈したりしてクローニングするなどであれば、翌日まで待たずにトランスフェクション当日に完了できそうです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
筆者はやってみるまで、当日にGFPの発現が確認できるとは思っていませんでしたが、意外にも早い段階で検出できたことに驚きました。実験系によっては丸1日短縮できる可能性もお示しできたのではと思います。
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