前回は、ウェスタンブロッティング向けのタンパク質抽出試薬の選び方についてご紹介しました。次のステップとして、どのくらい抽出されたか確認をするために、タンパク質の濃度を測定する必要があります。しかし、総タンパク質定量キットも市場にさまざまなものがあふれており、果たしてどれが良いのか迷ってしまいますよね。
その悩み、このブログが解決します!第2回では、総タンパク質定量キットの選択方法についてご紹介します。
各抽出試薬に適した総タンパク質定量キット
総タンパク質定量キットにはさまざまなものがありますが、全てのサンプルに使える万能なキットは存在しません。どんなキットにも、測定に影響を与えてしまう物質が存在するからです。このような物質が含まれていると、実際の濃度よりもはるかに低くなったり、高くなったりします。そのため、サンプルの抽出方法に合わせた総タンパク質定量キットを選ぶ必要があります。
前回は、ウェスタンブロッティング用の抽出試薬としてSDSサンプルバッファーをおすすめしました。もしかすると、疑問に思う人がいるかもしれません。「SDSサンプルバッファーに溶かしたら、濃度の測定ができないんじゃないか?」
そのとおりです。市場にあるほとんどのキットではSDSサンプルバッファー中のタンパク質濃度測定ができません。しかし、SDSサンプルバッファーに溶かしたタンパク質濃度を測定できるキットは、ちゃんと存在します。
まずは前回のブログでご紹介した、ウェスタンブロッティングにおすすめの抽出試薬ごとに総タンパク質定量キットをご紹介しましょう。
表:ウェスタンブロッティングおすすめの抽出試薬に適合する総タンパク質定量キット
まず、SDSサンプルバッファー(Laemmli SDS Sample Buffer)に適しているのは、Thermo Scientific™ Pierce™ 660nm Protein Assay Kitです。原理はこちらをご覧ください。このキットと、Thermo Scientific™ Ionic Detergent Compatibility Reagent(IDCR)を使用すれば、従来法では測定が難しかったSDSサンプルバッファー中のタンパク質を、10倍希釈で測定できます。反応時間が5分と短く、操作が簡便で、界面活性剤や還元剤との共存性が高いため、SDSサンプルバッファーにとどまらず活躍の場が多いキットです。
なお、ここでご紹介しているSDSサンプルバッファーは、最も一般的に使用されている、Laemmli法による下記組成のバッファーです。
<Laemmli SDS Sample Buffer組成>
65 mM Tris-HCl, 10% glycerol, 2% SDS, 0.025% bromophenol blue
※これに終濃度50 mMとなるようDTTを添加して用います。
SDSサンプルバッファーにはさまざまな種類がありますが、サーモフィッシャーサイエンティフィックで販売しているInvitrogen™ Bolt™ LDS Sample BufferやNuPAGE™ LDS Sample Bufferは、中に含まれている色素は660 nmに吸収があるため、Pierce™ 660nm Protein Assayが使用できませんのでご注意ください。
次に、RIPAバッファーやThermo Scientific™ NE-PER™ Nuclear and Cytoplasmic Extraction Reagents、Mem-PER™ Plus Membrane Protein Extraction Kitは、Pierce 660nm Protein Assay KitやBCA法の複数のキットも適合しています。BCA法の原理や各キットの特徴はこちらをご覧ください。BCA法は、タンパク質による発色のばらつきが少なく、界面活性剤との共存性が高い点が特長で、多くの研究者に非常によく使用されてきた歴史の長い手法です。
総タンパク質定量キットの探し方
では、前章で紹介した抽出試薬以外の方法でタンパク質を抽出した場合、どのようなキットで測定すればよいでしょうか。やみくもにキットを選んでしまうと、抽出試薬の成分が測定値に影響を与えてしまうかもしれません。そのため、こちらの表を参考にして、抽出試薬に適した総タンパク質定量キットを探しましょう。
表は、生化学実験でよく使われる成分と、さまざまな総タンパク質定量キットの適合性を調べたものです。この表を用いた確認方法は簡単。まずは、ご自身のサンプルが溶けているバッファー組成を確認しましょう。次に、そのバッファー成分が各キットに適合しているか、表から適合性を確認します。
なお、表に記載されている濃度は、各試薬法における最大許容濃度ですので、複数の成分が混合している場合は許容濃度が記載値よりも低いことがありますので、ご注意ください。
ところで、「表を見たけれど、知りたい物質の適合性が載っていない!」こんなお問い合わせをいただくことも多いです。このようなときはタンパク質を含まないサンプルバッファーで検量線を引くことで、影響を検証することができます。
ウェスタンブロッティングのための総タンパク質定量キットの選び方
総タンパク質定量キットに、どんなサンプルにも適合できる万能なものはありません。例えばSDSサンプルバッファーで抽出した場合はPierce 660nm Protein Assay Kitを用いるように、抽出試薬に合わせて選択することが大切です。
次回は、測定した濃度に応じて、いよいよ電気泳動を開始しましょう。ウェスタンブロッティングの最初の山場、「SDS-PAGEのゲルや試薬の選び方」についてご紹介します。
ウェスタンブロッティングの選び方シリーズはこちら:
ウェスタンブロッティングの製品選びにもう困らない!第1回:タンパク質の抽出方法
ウェスタンブロッティングの製品選びにもう困らない!第2回:総タンパク質定量キット
SDS-PAGEの選び方:ウェスタンブロッティングの製品選びにもう困らない!第3回
転写条件の選び方:ウェスタンブロッティングの製品選びにもう困らない!第4回
ブロッキング試薬のポイント:ウェスタンブロッティングの製品選びにもう困らない!第5回
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