ウェスタンブロッティング向けの製品選びのポイント、5回目はブロッキングです。
抗原抗体反応に直接関わる部分ではないものの、適さないブロッキング試薬を選んでしまうとバックグラウンドが上がったり、検出感度に影響したりすることがあります。果たしてスキムミルクでよいのか、それとも市販の試薬がよいのか、悩んでしまいますよね。このブログでは、ブロッキングの選び方のポイントをご紹介します。
たかがブロッキング、されどブロッキング
ウェスタンブロッティングのブロッキングとは、メンブレン上のタンパク質がない場所をマスクして、続く抗体反応時に、抗体がメンブレンに非特異的に結合してしまうのを防ぐ作業です。ウェスタンブロッティングで用いるPVDFやニトロセルロース膜は、タンパク質が非常に吸着しやすい性質を持っていますので、ブロッキングをしないと、タンパク質がない部分にどんどん抗体が結合し、メンブレン全体が真っ黒に検出されてしまいます。
ブロッキングは抗原抗体反応に直接関与するわけではないため、「メンブレンに結合さえすれば、どんなブロッキング試薬でもよいのでは?」とお考えの方もいるかもしれません。これは正解のときもあり、不正解のときもあります。
例えば安価で広く使われているスキムミルクは、それなりに効果のあるブロッキング試薬で、良好なデータが得られることもあります。しかし、スキムミルクにはカゼイン(リン酸化タンパク質)やビオチンが含まれていますので、これらの検出系でスキムミルクを使用すると、バックグラウンドが上がってしまいます。また、リン酸化タンパク質やビオチンの系※ではなくても、バックグラウンドが上がったり、逆に抗原抗体反応が邪魔されてうまく検出ができなかったりすることもあります。
※「ビオチンの系」とは、ビオチン標識二次抗体と酵素標識アビジンを用いて、感度を高めて検出する実験系のことを指します。
つまり、ブロッキング試薬の選択には、ターゲットや検出に関与する物質を含まないことが大前提であり、かつ、ターゲットを含んでいなくても、個々の抗原抗体反応とブロッキング試薬には、相性のようなものが存在するとイメージしてください。この相性は、理屈で考えてもなかなか答えが見いだせないので、試してみるのが一番です。全ての実験に適したなブロッキング試薬というものは存在しないので、その実験に合ったブロッキング試薬を用いることが大切です。
実験に合ったブロッキング試薬を用いると、バックグラウンドを抑えるだけでなく、より微量のタンパク質を検出できることもあります。一例を図1に示しました。左右でブロッキング以外の実験条件は同一です。左図のThermo Scientific™ StaringBlock™ Blocking Bufferというブロッキング試薬を用いた場合の感度が、右図のスキムミルクを用いた場合よりも高いのは、ブロッキング試薬によって、シグナル-ノイズ比(SN比)を上げることができているためです。

図1:ブロッキング試薬の違いによる検出感度の違い
(左:StartingBlock Blocking Buffer、右:市販のスキムミルク)
このように、適切なブロッキング試薬を選択することは、バックグラウンドや非特異反応を抑えるだけでなく、SN比を上げ、より微量のタンパク質を検出できることにつながります。
たかがブロッキング、されどブロッキング。ステップ数の多いウェスタンブロッティングにとって、ブロッキング試薬の選択も重要な要素の一つなのです。
ブロッキング試薬の選び方
さて、それでは、実験に適切なブロッキング試薬を選んでいきましょう。
しかし、そう言われても、市場にある試薬の種類が多すぎて、どれから手をつければよいのかわからないですよね。そこで、ブロッキング試薬の選択ポイントをまずは3つご紹介します。
<ブロッキング試薬 選択のポイント>
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- ブロッキング効果が高く、かつ汎用性が高いとされているブロッキング試薬から順に試していく
- ターゲットや検出に重要な物質が含まれているブロッキング試薬は選ばない
- リン酸化タンパク質検出の場合、PBSベースではなくTBSベースの試薬を選ぶ
1については、試してみなければわからないからこそ、ブロッキング効果が高く、かつ幅広く使用できるものがおすすめです。2と3は実験系によって「使用NGの組み合わせ」を把握しておけば問題ありません。サーモフィッシャーサイエンティフィックのブロッキング試薬を、おすすめ順に示したのが表1です。
おすすめ順 | ブロッキング試薬 | 特徴 |
1 | StartingBlock Blocking Buffer (TBS/PBS/TBS-T/PBS-T) |
精製済みタンパク質を使用、ビオチンフリー、ヒト血清フリー、Tween 20を含むTBS-T/PBS-Tタイプも選択可 |
2 | SuperBlock Blocking Buffer (TBS/PBS/TBS-T/PBS-T) |
精製済み糖タンパク質を使用、ビオチンフリー、ヒト血清フリー、Tween 20を含むTBS-T/PBS-Tタイプも選択可 |
3 | Fish Serum Blocking Buffer | サケ血清由来、哺乳類タンパク質フリー、PBSベース |
4 | Thermo Scientific™ Pierce™ Protein-Free Blocking Buffer TBS/PBS/TBS-T/PBS-T |
タンパク質フリー、ビオチンフリー、Tween20を含むTBS-T/PBS-Tタイプも選択可 |
Thermo Scientific™ Pierce™ Fast Blocking Buffer |
わずか5分でブロッキングが完了、TBS-Tベース | |
5 | Thermo Scientific™ Blocker™ BSA TBS/PBS |
精製BSAを使用 |
Thermo Scientific™ Blocker™ Casein TBS/PBS |
精製カゼインを使用 ※リン酸化タンパク質検出にはおすすめできません |
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Thermo Scientific™ Blocker™ BLOTTO Blocking Buffer |
1倍濃度ですぐに使用できるミルクベースの試薬 ※アビジン-ビオチン系の検出にはおすすめできません |
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Thermo Scientific™ Pierce™ Clear Milk Blocking Buffer |
スキムミルクからの切り替えに適したバッファー ※アビジン-ビオチン系の検出にはおすすめできません |
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Thermo Scientific™ Blocker™ FL Fluorescent Blocking Buffer |
蛍光検出時のバックグラウンドを低減 (化学発光でも使用可) |
ファーストチョイスとしておすすめしているのは、StartingBlock Blocking Bufferです。精製済みタンパク質を使用したブロッキング試薬で、ブロッキング効果が高く、かつ幅広い実験系に対応しているためです。もしStartingBlock Blocking Bufferで良好な結果が得られない場合は、Thermo Scientific™ SuperBlock™ Blocking Buffer、次にFish Serum Blocking Buffer…のように、表1の1→2→3→4→5の順でのご試用をおすすめします。
なお注意点として、リン酸化タンパク質を検出する場合は、PBSをベースとした試薬は避けてください。カゼインの使用もおすすめできません。またミルクベースの試薬は、ビオチンを含んでいるため、アビジン-ビオチン系には使用できませんので、ご注意ください。
また、「TBS」や「PBS」などの表記は、そのブロッキング試薬がどんなバッファーに溶けているかを示すものです。このうち、TBS-TやPBS-Tは、界面活性剤Tween™ 20を含んでいるTBSやPBSで、Tween 20には非特異反応を抑える効果があります。
ブロッキングの条件検討
ブロッキング試薬が決まったら、実験条件を決めましょう。
まずは選んだブロッキング試薬の推奨条件(濃度、温度、時間)で試してみてください。例えばStartingBlock Blocking Bufferの場合、転写後のメンブレンを5分間蒸留水で洗浄した後、メンブレンが十分浸る量の StartingBlock Blocking Bufferを添加し、15~30分、常温で振とうします。また、例えば市販薬ではないスキムミルクの場合は、5%で室温1時間か、4 ℃でオーバーナイトの条件がよく使われます。
もしも推奨条件でブロッキングが不十分なら、手っ取り早いのは時間の延長です。例えばStartingBlock Blocking Bufferの場合、最大の30分まで延長します。ブロッキング時間を長くすることで、効果を高められることがあります。
しかし、ブロッキング条件やブロッキング試薬の検討だけでは限度があることを知っておきましょう。バックグラウンドに影響するのは、ブロッキング試薬以外にも、酵素が標識された二次抗体濃度などがあります。二次抗体濃度が高すぎる場合、いくら実験に合ったブロッキング試薬を使っても、時間を延ばしても、改善しないことも多いです。そのため、例えばStartingBlock Blocking Bufferを使用してもバックグラウンドが真っ黒でまったくバンドが見えない場合は、二次抗体の希釈も検討しましょう。
ウェスタンブロッティングの検出には、泳動時のサンプル添加量、転写、ブロッキング、抗体反応、洗浄条件、検出試薬の感度などさまざまなファクターが絡みます。そのため、うまくいかないときは、ブロッキングのみにこだわらず、泳動から検出までの一連の流れの中で考えられる原因をピックアップし、対策を講じることが大切です。
ブロッキング試薬の選び方
ブロッキング試薬の選び方について、まとめです。
- 実験に適したブロッキング試薬を選ぶことで、バックグラウンドを抑え、より微量のタンパク質を検出できることがあります。
- ブロッキング試薬は、まずは効果や汎用性が高いものを選びましょう。また、カゼインはリン酸化タンパク質で、スキムミルク中にはビオチンが含まれていますので、ターゲットの検出に影響しない試薬を選びましょう。
- ブロッキング試薬だけではバックグラウンドの軽減に限度があります。トラブル時はウェスタンブロッティング一連の流れの中で原因を考えましょう。
次回は、抗体選択のポイントについてご紹介します。
ウェスタンブロッティングの製品選びのポイントシリーズはこちら:
ウェスタンブロッティングの製品選びにもう困らない!第1回:タンパク質の抽出方法
ウェスタンブロッティングの製品選びにもう困らない!第2回:総タンパク質定量キット
SDS-PAGEの選び方:ウェスタンブロッティングの製品選びにもう困らない!第3回
転写条件の選び方:ウェスタンブロッティングの製品選びにもう困らない!第4回
ブロッキング試薬のポイント:ウェスタンブロッティングの製品選びにもう困らない!第5回
抗体を選ぶときに知っておきたいこと:ウェスタンブロッティングの製品選び第6回
化学発光とマルチプレックス検出の選択ポイント:ウェスタンブロッティングの選び方 第7回
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