ウェスタンブロッティングの「選び方」について連載している本シリーズ、前回は抗体についてご紹介しました。次はいよいよ検出のステップです。長い工程を経て、ようやくバンドが確認できます。
本ブログでは、検出試薬を選ぶときに知っておきたいポイントについて、ご紹介します。
発色検出
ウェスタンブロッティングの検出方法は、大まかに発色検出、化学発光検出、蛍光検出に分かれます。
それぞれ、どのようなときに選択するのか、表1を見てみましょう。
検出方法 | 検出の流れ | どういうときに使用? | デメリット |
発色検出 | 酵素標識二次抗体に対して、発色用の基質を用いる | 発光や蛍光の検出器がないときや、目視でバンドを確認したいとき | 感度が低いことが多い |
化学発光 検出 |
酵素標識二次抗体に対し、化学発光用の基質を用いる | 高い感度が必要なとき | CCDイメージャーやX線フィルムなどで検出が必要 |
蛍光検出 | 蛍光色素を標識した二次抗体を用いる | 複数の異なるバンドを同時に検出したいとき | 蛍光検出器が必要 |
まずは最も歴史が古い発色検出から、詳しく説明しましょう。
<発色検出>
発色検出は、名前のとおりメンブレン上で発色させてターゲットタンパク質を検出する方法です。基質により感度が異なりますが、たいていの場合、化学発光と比べると感度は劣ります。
しかし、機器を用いずにバンドを可視で確認できる大きなメリットがあります。
表2と表3に発色試薬を一覧にまとめました。二次抗体にHRP(西洋わさびペルオキシダーゼ)標識二次抗体を用いた場合は、発色基質としてDABやTMB、二次抗体にAP(アルカリフォスファターゼ)標識二次抗体を用いた場合は、発色基質としてNBTやBCIPなどがあります。基質によって色や感度が異なりますので、表2、3の情報を元に選びましょう。
発色用検出試薬 | 色 | 検出限界 | 推奨の抗体希釈倍率※ |
Thermo Scientific™ Metal Enhanced DAB Substrate Kit |
茶~黒 | 17 pg | 1°: 1:1,000 2°: 1:5,000~1:50,000 |
Thermo Scientific™ 1-Step™ Ultra TMB Blotting Solution |
暗青 | 20 pg | 1°: 1:1,000 2°: 1:5,000~1:10,000 |
Thermo Scientific™ Pierce™ CN/DAB Substrate Kit |
黒 | 500 pg | 1°: 1:500 2°: 1:2,000~1:20,000 |
Thermo Scientific™ Pierce™ DAB Substrate Kit |
茶 | 1 ng | 1°: 1:500 2°: 1:2,000~1:20,000 |
Thermo Scientific™ 1-Step™ TMB-Blotting Substrate Solution | 暗青 | 1 ng | 1°: 1:500 2°: 1:2,000~1:20,000 |
Thermo Scientific™ 1-Step™ Chloronaphthol Substrate Solution | 青~紫 | 5 ng | 1°: 1:500 2°: 1:2,000~1:20,000 |
※抗体1 mg/mLを用いた場合の希釈倍率です。 |
発色用検出試薬 | 色 | 検出限界 | 推奨の抗体希釈倍率※ | 注意事項 |
Thermo Scientific™ 1-Step™ NBT/BCIP Substrate Solution | 黒~紫 | 30 pg | 1°: 1:500 2°: 1:5,000~1:50,000 |
バッファーとしてPBSは使用できない |
※抗体1 mg/mLを用いた場合の希釈倍率です。 |

図1. Thermo Scientific™ 1-Step™ Ultra TMB-Blotting Solutionで検出した結果
サンプル:HeLa Cell Lysate、一次抗体:Invitrogen™ Heat Shock Protein 86 Polyclonal Antibody (Hsp86)
化学発光検出
現在、最もよく利用されているのが、この化学発光検出です。特に二次抗体にHRP(西洋わさびパーオキシダーゼ)を標識させて検出することが多いです。HRPと過酸化水素の存在下でルミノールが酸化されると、3-アミノフタル酸という励起状態の生成物が算出されます。これが基底状態に戻るときに発する光が「化学発光」です。この化学的な発光現象のことを化学発光、またはケミルミネッセンス(Chemiluminescence)、略して「ケミルミ」などと呼ばれています。
化学発光検出試薬は、一般的に発色試薬よりも感度が高いです。表4、5に各基質の感度や発光持続時間などをまとめました。
化学発光検出試薬 | 略称 | シグナル持続時間 | 検出限界 | 推奨の抗体希釈倍率※ |
Thermo Scientific™ SuperSignal™ West Atto Ultimate Sensitivity Substrate |
West Atto | 6時間 | フェムトグラム低域~アトグラム高域 | 1°: 1:5,000 2°: 1:100,000~ 1:250,000 |
Thermo Scientific™ SuperSignal™ West Femto Maximum Sensitivity Substrate |
West Femto | 8時間 | フェムトグラム低~中域 | 1°: 1:5,000 2°: 1:100,000~ 1:500,000 |
Thermo Scientific™ SuperSignal™ West Dura Extended Duration Substrate |
West Dura | 24時間 | フェムトグラム中域 | 1°: 1:5,000 2°: 1:50,000~1:250,000 |
Thermo Scientific™ SuperSignal™ West Pico PLUS Chemiluminescent Substrate |
West Pico PLUS | ~24時間 | ピコグラム低域~フェムトグラム高域 | 1°: 1:5,000 2°: 1:20,000~1:100,000 |
Thermo Scientific™ Pierce™ ECL Plus Western Blotting Substrate |
Pierce ECL Plus | 5時間 | ピコグラム低域~フェムトグラム中域 | 1°: 1:1,000 2°: 1:25,000~1:200,000 |
Thermo Scientific™ Pierce™ ECL Western Blotting Substrate |
Pierce ECL | 1~2時間 | ピコグラム低域 | 1°: 1:1,000 2°: 1:5,000~1:10,000 |
※抗体1 mg/mLを用いた場合の希釈倍率です。 |
発色用検出試薬 | 検出限界 | 推奨の抗体希釈倍率※ | 注意事項 |
Invitrogen™ Novex™ AP Chemiluminescent Substrate (CDP-Star™) |
フェムトグラム低域~中域 | 1°: 1:500~1:5,000 2°: 1:2,000~1:10,000 |
・PVDF メンブレン用 ・バッファーとしてPBSは使用できない |
Invitrogen™ CDP-Star™ Substrate with Nitro-Block-II™ Enhancer |
フェムトグラム低域~中域 | 1°: 1:500~1:5,000 2°: 1:2,000~1:10,000 |
・ニトロセルロースメンブレン用 ・バッファーとしてPBSは使用できない |
※抗体1 mg/mLを用いた場合の希釈倍率です。 |
検出試薬の感度は表4、5のように試薬によって異なりますが、感度は高ければ高いほどよいというわけではありません。感度が高い試薬の場合、感度が低い試薬と比べて条件検討が難しくなるからです。そのため、例えば通常の検出にはPierce ECL PlusからWest Dura程度の感度のものを用いて、検出できないときにだけ、さらに高感度のWest FemtoやWest Attoを使用するといったように、使い分けをおすすめしています。
また、検出試薬の感度が高ければ高いほど、推奨の抗体の希釈倍率が高く(つまり、抗体濃度が薄く)なる点にも注意しましょう。つまり、検出試薬を低いものから高いものに変更した場合、抗体希釈濃度がそのままだと、バックグラウンドが上がるなど、トラブルの原因になります。抗体は、検出試薬の感度に合わせて希釈してください(抗体の希釈倍率については、こちらも参考にしてください)。貴重な抗体の場合は抗体量を少なくできるメリットもあります。
最後に、化学発光の検出方法についてです。
化学発光の検出には、CCDカメラを搭載したイメージャーやX線フィルムでの検出が必要になります。現在は、X線フィルムよりも、デジタルデータとして画像が入手できるCCDカメラが主流です。また、CCDカメラであれば、露光時間の調整も容易です。露光とは、X線フィルムやCCDなどの撮影素子に光を当てることを言いますが、各メンブレンに最適な露光時間をX線フィルムで探し出すのは、手作業で現像を繰り返せねばならず、どうしても手間がかかります。
ウェスタンブロッティング検出用のInvitrogen™ iBright™シリーズは Smart Exposure™テクノロジーにより、最適な露光時間を機器が算出してくれるだけでなく、露光時間に応じた仮想画像を表示できるため、的確な露光時間が設定しやすく、過剰露光や露光不足を防ぐことができます。核酸の検出や蛍光検出※も可能で、無料の解析ソフトウエアが付属しています。ユーザーインターフェースが高く、感覚的にボタンをタップしていくだけで手軽に手早く、的確な画像撮影ができる点がこの装置の大きなメリットです。
※機種によります。

図2. West Duraで検出した結果 (左:反応終了後1分後の検出結果、右:反応終了後4.5時間後の検出結果)
サンプル:A431 Lysate、一次抗体:抗β-カテニン(製品番号 MA1-300)
蛍光検出
長年、ウェスタンブロッティングの主流は化学発光検出でしたが、蛍光に関する技術が成熟し、ウェスタンブロッティングで蛍光検出をする研究者は増加の傾向にあります。蛍光検出は、同一メンブレン内で複数の抗体を用いて多重検出が容易という大きなメリットがあります(マルチプレックス検出)。つまり、ターゲットタンパク質とローディングコントロールの同時検出や、分子量が近いタンパク質の識別、リン酸化タンパク質などの検出が容易にできるのです(図3、図4)。さらに、化学発光よりも蛍光の方がダイナミックレンジが広く、定量性が高いという利点もあります。

図3. ターゲットタンパク質とローディングコントロールタンパク質の同時検出

図4. 分子量が近接したタンパク質の検出
では、ウェスタンブロッティング蛍光検出時の選択のポイントをご紹介します。
◆サンプルバッファー
よく利用されるBPB(bromophenol blue)は蛍光を発するため、トラッキングダイとして使用すると、ゲルボトム付近でバックグラウンドが生じることがあります。サンプルバッファーに蛍光成分を含まないInvitrogen™ Fluorescent Compatible Sample Bufferがおすすめです。
◆メンブレン
PVDFメンブレンは自家蛍光を持っていますので、蛍光検出のときは低蛍光PVDFメンブレンか、ニトロセルロースメンブレンを使用しましょう。
◆ブロッキングバッファー
微粒子を含まないブロッキングバッファーを用います。微粒子がメンブレンに付着し、バックグラウンドの原因になるためです。例えば、蛍光ウェスタンブロッティング用に開発されたThermo Scientific™ Blocker™ FL Fluorescent Blocking Buffer (10X)があります。
◆分子量マーカー
着色済の分子量マーカーは、使用されている色素によって、特定の波長の蛍光を示し、蛍光検出用の分子量マーカーとして使用できることがあります(表6)。
分子量マーカー | 泳動像と、iBright FL1500 Systemでの検出条件 ※クリックすると拡大します |
Thermo Scientific™ Spectra™ Multicolor Broad Range Protein Ladder |
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Thermo Scientific™ PageRuler™ Prestained Protein Ladder |
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Thermo Scientific™ PageRuler™ Plus Prestained Protein Ladder |
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Invitrogen™ iBright™ Prestained Protein Ladder |
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Invitrogen™ HiMark™ Pre-stained Protein Standard |
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Thermo Scientific™ Spectra™ Multicolor High Range Protein Ladder |
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Thermo Scientific™ Spectra™ Multicolor Low Range Protein Ladder |
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◆抗体
蛍光検出時は、蛍光標識二次抗体を用いることが多いです。
選出時は、次のような点に注意しましょう。
- ウェスタンブロッティング用の抗体を用いる(第6回も参考にしてください)
- マルチプレックス検出の場合、各ターゲットの一次抗体はホストの生物種が異なるように選ぶ
※可能な場合は、さらにホスト生物種としてなるべく離れた組み合わせにすると、交差反応を抑えやすい
(例えばマウスとラット、ヤギとヒツジの組み合わせよりは、ラットとラビットにするなど) - マルチプレックス検出の場合、二次抗体に標識された蛍光色素はクロストークが抑えられる組み合わせを選ぶ
マルチプレックスでの蛍光色素は、ラインアップが豊富なInvitrogen™ Alexa Fluor™抗体がおすすめです。それぞれの蛍光色素の励起・蛍光波長と、蛍光検出機器のフィルター波長を確認して選択しましょう。
例えばInvitrogen™ iBright FL1500 Imaging Systemでは、励起フィルターと蛍光フィルターが5種類(X1~5、M1~5)搭載されており(表7)、最大4種類までマルチプレックス検出が可能です(表8)。
表7. iBright FL1500 Systemの励起・蛍光フィルターとInvitrogen™ Alexa Fluor™蛍光色素の例
X3/M3およびX4/M4チャネルの蛍光色素はスペクトルのオーバーラップが大きいため、マルチプレックス検出ではこれらのチャネルを同時に使わないようにしてください。
表8. iBright FL1500 SystemでのAlexa Fluor蛍光色素によるマルチプレックス組み合わせ例
マルチプレックス検出については、下記リンクも参考にしてください。
アプリケーションノート:Fluorescent western blotting-a guide to multiplexing
Multiplex蛍光ウェスタン検出で失敗しないために
まとめ
ウェスタンブロッティングにおける検出試薬には、発色・化学発光・蛍光の主に3種類があります。それぞれメリットとデメリットがあり、製品も多岐にわたるため、お持ちの機器や実験目的に合わせて選びましょう。
次回は、ウェスタンブロッティングのストリッピング・リプロービングについてご紹介します。
ウェスタンブロッティングの選び方シリーズはこちら:
ウェスタンブロッティングの製品選びにもう困らない!第1回:タンパク質の抽出方法
ウェスタンブロッティングの製品選びにもう困らない!第2回:総タンパク質定量キット
SDS-PAGEの選び方:ウェスタンブロッティングの製品選びにもう困らない!第3回
転写条件の選び方:ウェスタンブロッティングの製品選びにもう困らない!第4回
ブロッキング試薬のポイント:ウェスタンブロッティングの製品選びにもう困らない!第5回
抗体を選ぶときに知っておきたいこと:ウェスタンブロッティングの製品選び第6回
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