【やってみた】ウェスタンブロッティングの化学発光が機能しているか確かめたくて、光らせてみた

ウェスタンブロッティングは、特定のタンパク質だけを検出できる、強力なタンパク質解析ツールです。現在、最も広く利用されている検出方法は化学発光検出です。例えば、二次抗体をHRP(Horse Radish Peroxidase;西洋わさびパーオキシダーゼ)で標識し、化学発光用の基質と作用させることで発光させ、CCDイメージャーなどで抗原タンパク質の位置と量を間接的に検出します。化学発光は別名ケミルミネッセンス(Chemiluminescence)、略してケミルミとも呼ばれ、耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

ウェスタンブロッティングは、タンパク質抽出、タンパク質定量、SDS-PAGE、メンブレンへの転写、ブロッキング、抗体反応、検出と複数の工程を経てようやくタンパク質の存在を検出できる「手間のかかる実験手法」です。ようやく最後の検出にたどり着いたのに、バンドが確認できなかったら…。そんな時には検出試薬の不良が原因の1つとして思い浮かぶかもしれません。そんな場合のチェック方法として、化学発光基質および酵素(HRP)が機能しているかどうかを簡単に確認できる方法をご紹介いたします。

本記事の最後では、手間のかかるウェスタンブロッティングを少しでも簡単に実施できる、過去のブログ記事も複数まとめて紹介しています。また、タンパク質の検出方法は、この記事で取り上げる化学発光検出の他にも、発色検出と蛍光検出が挙げられます。それぞれの検出方法の特徴や選択のポイントについての過去記事もありますので、あわせてご覧いただければと思います。

化学発光を“目視”で確認する

まずはこちらの動画1をご覧ください。


HRP標識された二次抗体と化学発光基質を混合した後、26秒間ほど発光を観察できました。個人の率直な感想としては、「キレイ~、思ってたよりも光った!」といったところです。二次抗体は anti-Mouse IgG (H+L) Secondary Antibody (HRP) を0.4 mg/mL に調製し5 µL(2 µg)使用しました。また、化学発光基質として、Thermo Scientific™ SuperSignal™ West Dura Extended Duration Substrate を200 µL使用しました。ここでご注意いただきたいのは、このブログでの二次抗体の使用量や、次の動画に出てくる二次抗体の希釈率は、あくまで目視確認のための1つの目安にしかならないというところです。その理由は、例え二次抗体の使用量がお客さまの条件と同じだとしてもHRPの標識率が不明なので、実際の化学発光反応にかかわるHRP量を正確に推定することができないためです。いずれにしても、化学発光基質と過剰量の二次抗体を混合することで急激に反応が進み、目視で確認できるほどの発光を観察することができました。発光が観察されたことから、二次抗体が標識されているHRPは失活していないこと、化学発光基質は機能する状態であることを確認することができました。お客さまがご使用の二次抗体におけるHRP標識量が多少異なるとしても同様に発光を観察できるはずですので、化学発光反応が機能しているかを簡単に確認する方法の1つとして覚えておいていただけると、お役に立つこともあるかもしれません。

二次抗体の濃度と化学発光の継続時間

二次抗体の希釈系列を作成し、急激に化学発光反応を進めたり、ゆっくり進めた場合は、どのような様子になるのでしょうか。
こちらの動画2をご覧ください。

8連チューブには、原液(0.4 mg/mL)から、10倍から100,000倍まで10倍で段階希釈した二次抗体をそれぞれ2.5 µL添加しておきました。そこにThermo Scientific™ SuperSignal™ West Dura Extended Duration Substrate のworking solutionを100 µL添加し、化学発光反応を進めました。一番左の原液のチューブでは、0.4 mg/mLの二次抗体を2.5 µL使用(1 µg)し、化学発光基質を100 µL使用しましたので、反応容量は異なりますが反応時の終濃度は動画1と同じ条件で実施しました。結果は、原液の二次抗体を使用した条件で発光が最も強く、10倍、100倍と光が弱くなり、1000倍以降では目視で発光を確認できませんでした。発光が最も強かった原液では、化学発光基質を混合してから32秒ほどで発光が終了してしまいました。段階希釈系列では発光の強度が低下する一方、基質混合後の発光持続時間は長くなり、10倍希釈では4分ほど、100倍希釈では13分ほど目視で発光の継続を確認できました。
今回の実験結果を参考に、二次抗体濃度と化学発光強度および発光継続時間の関係について概念図を作成しました(図1)。

図1. 異なる二次抗体濃度における化学発光強度と発光継続時間の概念図

図1. 異なる二次抗体濃度における化学発光強度と発光継続時間の概念図

原液や10倍希釈液など高濃度の二次抗体を使用すると、発光強度は目視でも確認できるほど高くなりますが、基質が急激に消費されたため発光を持続できませんでした。一方、100倍希釈の二次抗体では酵素反応がゆっくり進むため、発光強度は弱いながらも安定した強度で比較的長時間にわたり発光を維持することができました。今回の“目視”で発光を確認する実験では、二次抗体を1000倍希釈して反応させると目視確認の限界以下の発光強度となり、発光を観察できませんでした。弱いながらも長時間にわたり発光が持続する条件は、CCDイメージャーで安定したシグナルを検出するための重要な条件となります。ウェスタンブロッティングでは、使用する二次抗体濃度の至適化が必要であることを示しており、それぞれの実験系に合わせて最適化していただく必要があります。例えば、シグナルが検出できないからといってサンプルアプライ量や一次抗体、二次抗体の濃度を上げ過ぎてしまうと、結果としてメンブレン上のHRP残存量が多くなります。この場合はCCDイメージャーで検出する前に、過剰量のHRPが基質を消費し尽くしてしまうため、シグナル検出がさらに困難になってしまうことすら考えられます。

二次抗体の濃度が高すぎるメンブレン焼け

もし、メンブレン上で黄色や茶色のバンドが確認された場合は、以下の発光反応後の様子を思い出してください(図2)。

図2. 動画2で使用した発光後の8連チューブの様子

図2. 動画2で使用した発光後の8連チューブの様子

原液の二次抗体を使用したチューブで最も茶色に変色し、10倍、100倍とだんだん色が薄くなりました。これは、発光後にHRPが酸化されて変色した結果だと考えられます。このような変色は、二次抗体に標識されたHRPとメンブレン上で反応した後でも同様に起こると考えられ、もし見られた場合には二次抗体の濃度が高すぎることが原因かもしれません(図3)。

図3. メンブレン上での茶色いバンドの検出例

図3. メンブレン上での茶色いバンドの検出例

まとめ

ウェスタンブロッティングにおける化学発光検出では、適切な二次抗体濃度設定や実験条件の最適化が不可欠です。特に、発光強度と持続時間のバランスを考慮した二次抗体使用量の調整が重要です。高濃度の二次抗体では強い発光が短時間で終了し、低濃度では弱いが長時間にわたり持続する発光が観察されました。本記事でご紹介した方法を参考にしていただくと、化学発光の検出系が機能しているかどうかを簡単にご確認いただけます。

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