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Accelerating ScienceLearning at the Bench / 分子生物学実験関連 / より短時間で、より簡単に。高速タンパク質転写装置が生まれたワケ

より短時間で、より簡単に。高速タンパク質転写装置が生まれたワケ

Written by LatB Staff | Published: 06.08.2022

ウェスタンブロッティング法がTowbinらによって報告1されてから40年以上。タンパク質発現解析の手法として、ウェスタンブロッティングは多くの研究者に愛されてきました。しかし、いつでも研究者を悩ませる種がありました。

それは、時間がかかることと、手で実施するステップ数が多いことです。

従来の方法だと、丸一日かかってしまうウェスタンブロッティング。しかも検出まで結果がわかりません。夕暮れの光が差し込む研究室で、ターゲットバンドが検出されていない結果を見て、「明日も一日かけてやり直しだ…」と肩を落とした研究者もいたことでしょう。

さらに、電気泳動、転写、ブロッキング、洗浄、一次抗体反応、洗浄、二次抗体反応、洗浄、検出というステップ数の多さが追い打ちをかけます。ウェスタンブロッティングでは手で実施しなければならないステップが多く、どうしても面倒さを感じてしまいます。

しかし研究者たちも、研究者たちを支えるメーカーも、その状況に甘んじることはありませんでした。転写を短時間で簡単に実施できる装置、抗体反応を全自動で行える装置たちの登場が、昨今の「短時間ウェスタンブロッティング」を実現させたのです。

ここでは、ウェスタンブロッティングのステップのうち、「転写」にスポットライトを当て、短時間で簡単にできる高速タンパク質転写装置Invitrogen™ iBlot™ Gel Transfer Deviceの開発秘話をご紹介します。

ウェット式、セミドライ式、そしてドライ式

Towbinらの1979年の文献1では、すでにバッファータンクを用いたウェット式の転写装置が紹介されており、さらに1980年代に入るとセミドライ式転写装置も開発されました。

しかし、そこから約20年もの間、新しい原理を利用した転写装置の登場はありませんでした。一般的に、セミドライ式でもウェット式でも、30分から1時間の転写時間が必要です。セミドライ式ではウェット式よりもバッファーは少なくて済みますが、フィルターペーパーを転写バッファーに浸したり、PVDFメンブレンを親水化したりというわずらわしさは残ったままでした。当時、「ウェスタンブロッティングは煩雑で時間がかかる」というのが当たり前になっていたのです。

その状況を覆したのが、イスラエルのEthrogBiotechnologies(現サーモフィッシャーサイエンティフィック)という会社でした。2000年代半ば、この会社が、わずか7分間で転写ができ、バッファーが不要という転写装置を市場で初めて開発したのです。

「ドライ式」高速転写装置の登場でした。

この7分間の高速転写装置が、現在のInvitrogen™ iBlot™2 Gel Transfer Deviceの前身となるiBlot™ Gel Transfer Deviceです。

iBlot-Gel-Transfer-Device

図1:iBlot™ Gel Transfer Device (現在は販売終了)

この装置、実は研究者の声から生まれました。

当時、「ウェスタンブロッティングは時間がかかって面倒」という研究者たちの声を聞き、何とかその問題を解決したいという思いから、この高速転写装置の開発に踏み切ったと、開発者であるIlana Margalitが動画で述べています。

この「ドライ式」の登場により、転写の準備にかかる手順や転写時間は大幅な短縮につながりました。何しろ転写バッファーが不要で、専用の「トランスファースタック」と泳動後のゲルさえあれば転写ができるのです。

では、なぜドライ式では転写バッファーが不要なのでしょうか。

厳密に言うと、転写バッファーは不要なのではなく、すでに含まれているのです。iBlot™システムの唯一の消耗品は、専用の「トランスファースタック」です。この中に、固形化された転写バッファーが含まれており、転写時に発生した熱で固形化されたバッファーが溶解するという仕組みです。

iBlot system

図2:ドライ式転写の仕組み

ドライ式が進化したポイントは、固形化した転写バッファーだけではありません。たとえばPVDFメンブレン。一般的なセミドライ式の場合、転写前にメタノールで親水化してから転写バッファーに浸しておかねばなりません。しかし、iBlot™システム本ではこのステップが不要です。あらかじめ親水化され、転写バッファーで平衡化されたメンブレンが専用のスタックに含まれているからです。

つまり、iBlot™システム本体とトランスファースタックのほかに用意するのは、電気泳動を終えたゲルのみ。これをメンブレン上にセットするだけで準備が完了し、スタートボタンを押して7分後には転写が終了しています。

研究者たちが待ち望んでいたこの高速転写装置iBlot™システムは、多くの人々に愛されて、2013年に、より簡単に使用できるiBlot™2システムへと進化を遂げました。

「こんなことができたらいいな」を形に。高速ドライ式転写装置iBlot™2への進化

iBlot™2システムはiBlot™システムの良さを引き継ぎ、より簡単な操作で転写ができるよう開発された次世代機です。

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図3:Invitrogen™ iBlot™2 Gel Transfer Device

この特徴的なフォルムは、ウェスタンブロッティングの未来を明るく見据えて、アメリカの映画「スタートレック」をイメージしてデザインされました。

iBlot™2システムは「iBlot™システムでできたらいいな」を実現した装置です。たとえばiBlot™システムでは転写中に経過時間だけ表示されていましたが、iBlot™2システムでは転写中の電流値や電圧値のモニタリングも可能になりました。電流値や電圧値のモニタリングは、万が一何かあったときのトラブルシューティングに役立ちます。ほかにも、プリセットのメソッドに加え、新しいメソッドが作成できるようになったり、電極パーツの交換が簡単になったり、USBフラッシュメモリポートで内部ソフトウエアの更新もできるようになりました。ユーザー自身で「できること」が格段に増えたのです。

使い方もより簡単になりました。ベテランでも初めての人でも迷わず実施できるよう設計されているので、人や手技によらず同じ結果が出すことができます。

iBlot™2システム使用方法
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いつの世も、革新的な機器を生み出すのは「こういうものがあったらいいな」という声です。iBlot™2システムのほかにも、ブロッキングから二次抗体反応までを完全自動で行えるInvitrogen™ iBind™ Western Systemなど、多くの便利な機器が今も研究者たちを支えています。

高速タンパク質転写装置は、研究者の声から生まれた

高速タンパク質転写装置であるiBlot™システムは、「ウェスタンブロッティングをより短時間で、簡単に行いたい」という研究者の声が形になった製品でした。iBlot™システムの良さは、iBlot™2システムに引き継がれ、さらに使いやすく進化しています。

ウェスタンブロッティングは、今でも進化のあゆみを止めていません。「ウェスタンブロッティングといえば長時間で煩雑」と嘆かれていた歴史がうそのように、「ウェスタンブロッティングといえば短時間で簡単」と当たり前のように言える日は、きっとすぐそこです。

参考文献:
1. Towbin, H. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA, 76, 4350 (1979)

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研究用にのみ使用できます。診断目的およびその手続き上での使用はできません。

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