ウェスタンブロッティングでは高感度検出が可能な化学発光法が主流ですが、近年の蛍光色素やイメージング装置の改善により、蛍光法も行われるようになってきました。蛍光法は、ダイナミックレンジの広さから定量性が高い点や、シグナルが比較的安定な点でアドバンテージがありますが、何より複数のタンパク質を同時に検出できる点で優れています。蛍光法を実施する研究者が徐々に増えていますが、化学発光検出や発色検出の経験があっても、蛍光法でMultiplex検出を行うとうまくいかないことがあります。
そこで今回は、Multiplex蛍光検出を成功させるため、実施前に知っておきたい点について、ご紹介いたします。
▼こんな方におすすめです!
・これから蛍光ウェスタンブロッティングを始める方
・蛍光ウェスタンブロッティングで非特異バンドの検出やバックグラウンドで困っている方
▼もくじ
バックグラウンドを抑えるために
Multiplex蛍光検出を成功させるうえで見過ごせないポイントの一つは、バックグラウンドです。実験を始める前に次の点に注意しましょう。
●使用するメンブレン
メンブレンの自家蛍光がバックグラウンド発生の原因になります。低蛍光タイプのメンブレンを使用しましょう。PVDFメンブレンを使用する際は、Thermo Scientific™ Low-Fluorescence PVDF Transfer Membranes (製品番号 22860) がおすすめです。
●メンブレンの取り扱い
メンブレンへのコンタミネーション、引っかき、しわがアーティファクトな蛍光バックグラウンドの原因になります。手袋をして清潔なピンセットでメンブレンを取り扱いましょう。特に抗体の付着が疑われる抗体は、使用前に洗浄しましょう。
●使用するバッファー
バッファー中に存在するミルク粉などの未溶解粒子やコンタミネーションがあると、メンブレン上に付着した際にアーティファクトな蛍光バックグラウンドの原因になります。ブロッキングバッファーや洗浄バッファーは、未溶解がないようによく攪拌し、フィルターろ過を行ってから使用しましょう。Thermo Scientific™ Blocker™ FL 10X Fluorescent Blocking Buffer (製品番号 37565) は、蛍光検出におすすめのフィルターろ過済みブロッキングバッファーです。
また、界面活性剤は自家蛍光を持つことが多く、これもバックグラウンドの原因となるため、ブロッキングバッファーとの併用は控えた方が無難です。
●電気泳動時のサンプルバッファー
一般的によく利用されるBPB(bromophenol blue)は蛍光を発する分子です。BPBなどの蛍光を発するトラッキングダイを使用すると、ゲルボトム付近でバックグラウンドが生じてしまいます。サンプルバッファーに蛍光成分を含まないInvitrogen™ Fluorescent Compatible Sample Buffer (製品番号 LC2570) がおすすめです。蛍光を発しないトラッキング色素を利用しています。
もし、トラッキング色素にBPBなどの蛍光を発する分子を使用する場合は、泳動後に色素を含むゲル領域をカットするか、色素がゲルから流れ出るまで泳動すると良いでしょう。
抗体選びの注意点
Multiplex蛍光検出を成功させるうえでもう一つ重要なのが一次抗体と蛍光標識二次抗体の組み合わせです。
●一次抗体はウェスタンブロッティング用、または適合するアプリケーションとしてウェスタンブロッティングがリストされている抗体を利用しましょう。できれば市販の抗体情報から、ターゲットタンパク質の検出データを確認し、マルチ検出で用いる各一次抗体の検出パターン(バンドパターン)を確認しておきましょう。
●二次抗体による交差反応を最小限に抑えるため、使用する一次抗体の組み合わせとして、遠縁の産生動物種を選択しましょう。例えば、マウスとラット、ヤギとヒツジといった組み合わせを避け、ラットとラビットのような組み合わせにしましょう。
●蛍光色素が標識されている一次抗体が使用できれば、二次抗体が不要になります。例えば6 x HisタグやHAタグなどのエピトープタグを持つ抗原を検出する場合は、市販のエピトープタグ特異的な蛍光標識一次抗体が使用できます。もしマルチ検出で他の一次抗体には二次抗体が必要になっても、使用する二次抗体の数を減らすことができ、交差反応のリスクを抑えることができます。ただし、使用する二次抗体が他の一次抗体と交差反応しない組み合わせを考慮しましょう。なお、蛍光標識一次抗体が市販されていない場合、蛍光標識キットで自作できます。
●一次抗体の産生動物種の区別が難しい場合は、一次抗体としてサブクラスやアイソタイプを変更し、そのサブクラスやアイソタイプを特異的に認識する二次抗体を利用することもできます(あくまで、特異的に認識する抗体が必要です。マルチ検出で使用する他の一次抗体のサブクラスやアイソタイプも認識してしまう二次抗体は使用しないようにしましょう)。
●高度に吸着(吸収)処理されている二次抗体を使用し、特定のクラス、アイソタイプ、または動物種を認識するリスクを避けましょう。
蛍光色素とフィルターの組み合わせ
Multiplex蛍光検出では、クロストークを抑えるため、通常各ターゲットタンパク質は別々の画像に個別にキャプチャーされるようにします。使用するイメージング装置のフィルター構成を事前に確認しておきましょう。多くのイメージング装置では、励起フィルターと蛍光フィルターを組み合わせて使用します。蛍光色素を特定の波長範囲で励起させ、特定の波長範囲の蛍光を検出します。例えばInvitrogen™ iBright™ Imaging Systemsにあらかじめインストールされているフィルターセットは、表1のようになります。
表 1. iBright FL1500 Imaging Systemのフィルターセット
他の装置をお使いの場合でも、「蛍光スペクトルビューアー」のようなツールを使用して、装置にインストールされているフィルターセットで利用可能な蛍光色素を確認することができます。このとき、励起/蛍光条件を組み合わせたひとつのチャンネル(レイヤー)で、二つ以上の蛍光が検出されないようにできるのが理想的です。例えば、図 1のような組み合わせはおすすめできません。この例では、2種類の色素から生じる蛍光が同時に検出されるため、両者の区別がつかなくなってしまいます。一方、図 2の例では、適切な励起フィルターを選択することで、2種類の蛍光色素が存在していても、一方の蛍光(例ではInvitrogen™ Alexa Fluor™ 546の蛍光)はほぼ検出されることなく、目的の蛍光(例ではInvitrogen™ Alexa Fluor™ Plus 488の蛍光)を検出することができます。また図 3の例では、適切な蛍光フィルター(例ではEmission filter 1)を選択することで、一方の蛍光(例ではInvitrogen™ Alexa Fluor™ 790の蛍光)はほぼ検出されることなく、目的の蛍光(例ではInvitrogen™ Alexa Fluor™ Plus 647の蛍光)を検出することができます。
図1.蛍光スペクトルオーバーラップが生じる組み合わせ Alexa Fluor Plus 647とAlexa Fluor 680のいずれの蛍光色素も励起/蛍光のスペクトルが、Excitation filter範囲内にもEmission filter範囲内にもあるため、いずれの色素も、検出器で蛍光検出されてしまい、区別がつかなくなってしまいます。
図 2. 適切な励起フィルターにより蛍光スペクトルオーバーラップが最小限となる組み合わせ Alexa Fluor Plus 488とAlexa Fluor 546の励起スペクトル(点線)は、Excitation filter範囲内でのオーバーラップが小さくなっています。Emission filter範囲内では両色素共に蛍光スペクトル(実線)がありオーバーラップしているものの、Alexa Fluor 546はExcitation filterでほとんど励起されないためAlexa Fluor 546の蛍光をほぼ検出せずにAlexa Fluor Plus 488の蛍光を検出することができます。
図 3. 適切な蛍光フィルターにより蛍光スペクトルオーバーラップが最小限となる組み合わせ Alexa Fluor Plus 647とAlexa Fluor 790の蛍光スペクトル(実線)はEmission filter 1でもEmission filter 2でもオーバーラップしていません。Excitation filter 1の範囲で内では両色素共に励起スペクトル(点線)がありオーバーラップしているものの、Alexa Fluor 790がExcitation filter 1の範囲で励起されて生じる蛍光はEmission filter 1を通過しないため、Alexa Fluor 790の蛍光は検出せずにAlexa Fluor Plus 647の蛍光のみを検出することができます(Excitation filter 2とEmission filter 2ではAlexa Fluor Plus 647の励起/蛍光スペクトルはないため、Emission filter 2でAlexa Fluor 790の蛍光のみが検出されます)。
まとめ
蛍光検出では、化学発光検出や発色検出ではあまり問題にならい点にも注意を払う必要があります。実験を成功させるためにも、自家蛍光などによるバックグラウンド抑制、非特異検出を抑える抗体選び、適切な蛍光色素とフィルターの組み合わせを選択しましょう。
タンパク質ゲル電気泳動・ウェスタンブロッティングラーニング センターはこちら
これからウェスタンブロッティングの実験系を立ち上げたい方におすすめ
講義、実技トレーニング、必要な試薬をお得なパッケージにしたトレーニング付き 実験スターターパックをご提供しています。
まずはお気軽に、こちらからご相談ください。
【無料ダウンロード】タンパク質解析ワークフローハンドブック
効率的なタンパク質抽出からウェスタンブロッティングの解析ツールまで、包括的にソリューションを紹介しております。PDFファイルのダウンロードをご希望の方は、下記ボタンよりお申込みください。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。