わずかな変異も見逃さない Ion AmpliSeq SARS‑CoV‑2 Insight Research Assay の高い性能 ~統合型次世代シーケンサ Genexusが可能にする新型コロナウイルス研究の最前線~

全ゲノムシーケンスによる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異解析は、疫学的調査のためには欠かすことのできない手法です。ウイルスの系統と変異に関するサーベイランスを最適化するためにはどのようなことが重要であると考えられるのでしょうか。

現在、新規変異株が次々と出現する中で、三つの課題が懸念されています。
・ 新たな突然変異の影響による解析不能検体の出現
・ 低ウイルス核酸量検体における検出感度の低下
・ 迅速な実験操作と解析作業を両立することの困難さ

これらの課題を克服することが、成功裏にSARS-CoV-2の変異株調査を推し進めるためのカギになると考えられます。

実は、次世代シーケンサ(NGS)を運用することで上記の問題点を解決することができます。NGSは全塩基配列を取得することでウイルスの系統を明らかにするだけでなく、いち早く警戒すべき変異株であるVariant of Concern(VOC)の出現を見抜く洞察力を手に入れることができます。

今回は、ライブラリ作製から解析まで自動実行可能なNGS であるGenexus Integrated シーケンサIon AmpliSeq SARS-CoV-2 Insight Research Panelを用いた新規変異株の同定に役立つ効果的な手法についてご紹介いたします。

▼こんな方におすすめです!
・新型コロナウイルス感染症のサーベイランスに興味のある方
・NGSでのウイルスゲノムの解析がうまくいかずにお悩みの方
・変異株の解析結果を翌日には入手したい方

▼もくじ

PCR法で検出されない新規変異株の出現

SARS-CoV-2は、RNAウイルスとしては比較的大きなおよそ30kbのゲノムサイズで、月に1~2回程度の頻度で変異が発生しています。*1
変異体(変異同源体:クレード、系統:リニエージ)の中には、デルタ株(B.1.617.2)のように非常に強い感染力を獲得し、あっという間に世界中の新規感染者の大半を占めるまでになったものも出現しています。世界各地でSARS-CoV-2の感染拡大に歯止めがかからない状況が続いているため、2021年11月に新規に検出されたオミクロン株(B.1.1.529)のようにウイルスが大きく変異する条件が各地に存在しているといえます。

SARS-CoV-2はスパイクタンパク質に存在する受容体結合ドメイン(RBD)を介して、ヒトのアンジオテンシン変換酵素Ⅱ(ACE2) と結合し、ACE2細胞内に侵入することが知られています。懸念すべき変異株であるVOCは、ヒトの細胞への侵入に必要不可欠であるスパイクタンパク質をコードするS遺伝子のメカニズムに変化を与え、スパイク密度、宿主細胞への取り込み効率、ウイルス量、および宿主の免疫応答への回避能力を強化することで、感染力と伝播性を高める可能性があると報告されています*2。

また、厄介なことにVOCはウイルスの伝播性や病毒性だけでなく、検出系にも影響を及ぼします。PCR法で検出されない株の出現やシーケンス成功率の低下がこれを裏付けています。実際に、N遺伝子(ヌクレオカプシドタンパク質をコード)を検出するPCR用フォワードプライマーの3′ 末端に変異(GGG>AAC)が生じた報告があります*3。これは、24カ国で分離・シーケンスされた由来の異なるウイルスゲノムの14%(258/1825)に認められています。このようなVOCは偽陰性につながるため、特に注意すべき問題です。

変異によって刻一刻とその性質を変化させるSARS-CoV-2に対し、科学者が重要視するのは、全ての変異を検出し、さらにVOCを正確に特徴づけ、理解することです。このことからも、変異の影響を受けづらいプライマーの開発が急務といえます。

Ion AmpliSeq™ SARS-CoV-2 Insight Research Panelはウイルスの変異に幅広く対応できるよう設計された、強力なプライマーセットであるため、上記の課題を解決する効果的な製品であるといえます。

サンプル状態の多様性に対応した検体採取方法

SARS-CoV-2の採取では、喀痰や鼻腔・鼻咽頭ぬぐい液からウイルスRNAを抽出・精製する手法を用いることが一般的です。
昨今では、より簡便性の高い唾液検体を用いることも少なくありません。すでに何らかの感染症状を呈している対象者からの検体では、検出可能な量のウイルスを得ることができますが、感染初期や濃厚接触者の場合、ウイルスコピー数が著しく少なく、偽陰性といった結果を招くリスクがあります。また、口腔内にはPCRを阻害する夾雑物や分解酵素も存在するため、迅速に検体処理を行う必要があります。Applied Biosystems™ MagMAX™ Viral/Pathogen Nucleic Acid Isolation Kit (製品番号:A42352)を用いることで、より確実に検体からウイルスRNAを抽出することができます。唾液サンプルの取り扱いポイントの詳細はこちらの記事をご参照ください。

NGSを用いたウイルスゲノムの解析では、特に低コピー数検体の取り扱いに注意が必要なことが知られています。精度管理用のコントロールサンプルと共に定量を行い、N遺伝子のみならず、ORF1abなど複数のターゲットを併用してウイルスコピー数を概算することが有効です。定量方法の最新情報はこちらです。

NGSの精度管理にはSARS-CoV-2の全領域を含むこちらの製品が適しています。
Thermo Scientific™ AcroMetrix™ Coronavirus 2019 (COVID-19) RNA Control (RUO)(製品番号:954519)

変異株の脅威を取り除く、24時間以内で完結する最新NGSを用いた迅速な解析結果の入手

SARS-CoV-2の感染拡大が続く中、ウイルスのゲノム内には突然変異が蓄積し続けています。公衆衛生の専門家らは、脅威となるアミノ酸変異によってVOCが発生していないかを注意深く見守っています。

例えば、D614G変異は、スパイクタンパク質の614番目のアミノ酸が、野生型のアスパラギン酸(D)からグリシン(G)に変化したもので、この変異を持つ系統は、現在、世界にまん延する変異体の99%以上を占めており、1つの変異がこのウイルスの疫学に大きな影響を与えることを示す説得力のあるデータとなっています。*2

さらに、変異の中には過去の感染やワクチン接種によって作られた抗体を回避できる「免疫逃避」と呼ばれるものがあります。これは病原体の表面にある抗体認識部位(エピトープ)の構造変化を引き起こす可能性のあるタンパク質の変化です。このような免疫システムに影響を及ぼす変異体を拡散させないようにより強固にゲノムを監視し、警戒を強める必要があります。

空港での検疫は、新しい亜種を調査・捕捉するための重要なステップですが、地域社会での迅速なゲノム配列決定の実施も、早期発見と封じ込めのための重要な要素となります。空港検疫ののちにウイルスの陽性反応が出たような場合、病院内でのウイルスシーケンスを短時間で行うことが理想的です。

その一つの解となり得るのがIon Torrent™ Genexus™ Integrated シーケンサとIon AmpliSeq™ SARS-CoV-2 Insight Research Assayを組み合わせたソリューションで、ウイルスの検出から約24時間以内にウイルスゲノムの全塩基配列を決定し、特徴的な変異の同定を可能にします。変異情報はWebベースの最新の公共データベースに対して参照され、ウイルスゲノムの系統が明らかにできます。ラボのリソースが限られている中で、RNAの逆転写から、ライブラリの前処理、シーケンス、データ解析までの工程を1台の装置で途切れることなく自動化できるという点は大きな利点です。専門的な知識を必要とせずに次世代シーケンスを活用できる時代が到来しました。

・Genexus Integrated シーケンサの詳細はこちら

最適化されたパネルデザインのIon AmpliSeq SARS-CoV-2 Insight Research Assay

Ion AmpliSeq™ SARS-CoV-2 Insight Research Assayは、従来の製品と比較してSARS-CoV-2全ゲノムシーケンスの成功率を格段に向上させ、容易に変異解析結果が得られるPCRベースのターゲットシーケンス用パネルです。さまざまなウイルスコピー数に対応できるよう最適化されており、最新の知見に基づき、慎重にデザインされたウイルス特異的なマルチプレックスPCRプライマーを用いることで、ヒト由来RNAが混在していてもこれを除去する必要がありません。また、パネル内に含まれるコントロールプライマーにより、ヒト由来のいくつかの遺伝子を増幅し、RNA分解の程度やPCRを阻害する夾雑物の有無を評価することもできます。コントロール配列のシーケンスリードをカウントすることで、検体中のヒト由来RNA含有率の参考になります。

注目すべきは、Genexus Integrated シーケンサとIon AmpliSeq SARS-CoV-2 Insight Research Panelが、ウイルスのゲノム解析において課題となる三つのポイントを解消させたことにあります。

新規変異株が次々と出現する中での三つの課題
・ 新たな突然変異の影響による解析不能検体の出現
・ 低ウイルス核酸量検体における検出感度の低下
・ 迅速な実験操作と解析作業を両立することの困難さ

この組み合わせにより、新たな変異体に対しても従来の製品と比べて高いゲノム解読成功率を達成することができます。さらに解析ツールも最適化したことで、得られたゲノム配列を自動的に系統割り当てし、公共データベースであるGISAIDへの登録もまとめて容易に実行できるなど、さらなる解析の効率化を実現しています。

ゲノム変異を迅速に捉え、人々の脅威となる新たな変異体の感染サーベイランスのためのツールとしてご活用ください。

サーベイランス研究のための最新のインサイトパネルの詳細については、次世代シーケンス(NGS)を使用したコロナウイルス解析ソリューションをご覧ください。

まとめ

NGSを用いたSARS-CoV-2の研究を推し進めるためには、
・全ての変異を網羅的に検出可能な変異の影響を受けづらいプライマー設計
・安定的な検体の採取
・簡便かつ迅速な実験系の確立
が重要であると言えます。

最新型の次世代シーケンサ、Genexus Integrated シーケンサとSARS-CoV-2 解析専用パネル、Ion AmpliSeq SARS-CoV-2 Insight Research Panelはこれらの項目をすべて克服した最適なソリューションです。

SARS-CoV-2のサーベイランスでお困りの方は、Ion AmpliSeq SARS-CoV-2 Insight Research Assayをぜひご検討ください。

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Genexusシステムを用いたSARS-CoV-2ゲノム解析」をテーマにSARS-CoV-2研究の最前線をリードする先生をお招きし、現在の状況や検出される変異の変遷、感染症の今後についてご紹介いただきます。

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Genexus Integrated シーケンサ用:
Ion AmpliSeq SARS-CoV-2 Insight Research Panel GX (製品番号:A51307)

Ion GeneStudio™ S5 システム用:
Ion AmpliSeq SARS-CoV-2 Insight Research Assay – GS Chef-Ready (Ion Chefによる自動ライブラリ調製試薬、製品番号:A51306)
Ion AmpliSeq SARS-CoV-2 Insight Research Assay – GS Manual (手作業によるマニュアル調製用試薬、製品番号:A51305)

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参考文献:
*1 Ewen Callaway. The coronavirus is mutating – does it matter? Nature 585, 174-177 (2020)
*2 Zhang, L., Jackson, C.B., Mou, H. et al. SARS-CoV-2 spike-protein D614G mutation increases virion spike density and infectivity. Nat Commun 11, 6013 (2020)
*3 N. S. Osorio, et. al. Implication of SARS-CoV-2 evolution in the sensitivity of RT-qPCR diagnostic assays. Lancet Infect Dis, May 28 (online), 2020.

研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。

 

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