化学品や工業材料の原料、および二次電池向けの機能性材料など、粉末試料やセラミックス材料中の微量元素の分析において、従来の手法では試料前処理の煩雑さや感度の制限から、迅速かつ高精度な分析が困難でした。しかし、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法（LA-ICP-MS）の技術の進展により、この課題を克服できるようになりました。本記事では、LA-ICP-MSを用いた粉末試料の元素分析について紹介します。
▼こんな方におすすめです！
- 粉末試料の元素分析を行う研究者・技術者
- ICP-MSの溶液化前処理の煩雑さに課題を感じている方
- EDXやXRF分析以上の高感度が必要な方
- セラミックス材料の元素分析に携わる方
LA-ICP-MSの特長
LA-ICP-MSは、レーザー照射により固体試料表面をエアロゾルに変換（アブレーション）し、ICP-MSに導入して分析する技術です。その最大の特長は、試料の溶液化前処理が不要で、固体のまま直接分析できる点です。特に難溶性の試料に対しては、従来は煩雑で熟練を要する試料前処理が必要でしたが、LA-ICP-MSではこれを省略できるという大きな利点があります。
また、高繰り返しレーザーとガルバノ光学系による高速アブレーションと、堅牢なThermo Scientific™ ICP-MSを組み合わせた「ガルバノ方式LA-ICP-MS」は、さらに以下の利点を提供します。
- 高速アブレーションによる高感度化で、ppbレベルの極微量元素まで分析可能
- 微細で均一なエアロゾルの生成により、高い信号安定性や定量性を提供
- 高速アブレーションを応用したマトリックスマッチングで、試料と材質の異なる標準試料を用いても正確に定量可能（一部適用できない場合があります）
粉末試料の前処理と測定手法
ガルバノ方式LA-ICP-MSでは、粉末試料を加圧成型によるペレット化などの簡単な前処理で分析できます。測定前にプレアブレーションを行うことで、ペレット表面の汚染の除去と平たんな測定面の作成を同時かつ簡単に行えます。
定量分析では、試料中の共存元素（マトリックス）や粒径分布が分析値に影響しますが、試料と同一マトリックス・同一粒度の標準試料を用意することは多くの場合困難です。一方ガルバノ方式LA-ICP-MSでは、高速アブレーションを応用したマトリックスマッチングにより、試料と材質の異なる標準試料を用いても正確な定量分析が可能です（一部適用できない場合があります）。
セラミックス粉末への応用事例
例として、窒化ケイ素粉末認証標準物質（JCRM R 008 SiN低純度品）中の不純物元素の分析データを紹介します。LA-ICP-MSによる定量分析ではSiO2ガラス標準試料を用いましたが、定量値は認証値の不確かさの範囲内となり、溶液分析による定量値ともよく一致しました。ガルバノ方式LA-ICP-MSにより、粉末試料を直接、高精度に分析できました。
難溶性のセラミックス材料の溶液分析では、煩雑で熟練を要する試料の溶液化前処理が必要ですが、ガルバノ方式LA-ICP-MSでは感度や精度を損なわずに固体のまま分析できるため、測定元素のコンタミネーションや損失のリスクの低減、分析までの時間の大幅な短縮、および測定者のスキルによらない高精度分析が実現します。
※1 溶液ICP分析は元素ごとにICP-OES、四重極型ICP-MS、二重収束型ICP-MSを使い分け
※2 GD-MSは半定量分析
まとめ
ガルバノ方式LA-ICP-MSは、粉末試料の元素分析において迅速性と感度、精度を両立させる強力なツールです。試料前処理の省略によるスループットの向上や、極微量元素までの分析など、素材の開発や品質管理の現場で多くの利点を提供します。
謝辞
本データは株式会社東レリサーチセンターさまとの共同研究により取得しました。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。
記事へのご意見・ご感想お待ちしています
熱分解GCにも対応！ヘリウムキャリアガス不足を解決する画期的技術
熱分解（パイロライザー）GCシステムは、高...
Read More
Thermo Scientific DXR3顕微レーザーラマン MIX観察機能を用いたサンプルの可視像観察
ラマン分光法はサンプルにレーザー光を照射...
Read More
プロテオーム解析のサンプル調製：LC-MS前の分画による同定数向上
プロテオーム解析、つまり生体内に存在する...
Read More
DXR3顕微ラマン オートフォーカス機能を用いたマッピング測定
Thermo Scientific™ DXR™3顕微ラマンにはスペク...
Read More