酸化エチレンの排出ガスモニタリングへの課題

酸化エチレン(エチレンオキシド:EtO)は、発がん性や変異原性のある化合物で、特に医療用製品の滅菌剤やエチレングリコール製造の反応中間体として化学工業分野でよく使用されています。その毒性から、商業用滅菌器とその周辺に存在する非常に低濃度なレベルの酸化エチレンのモニタリングに対し要求が高まっており、令和4年10月に「事業者による酸化エチレンの自主管理促進のための指針」を策定され、事業者による自主的な排出抑制対策が推進されています。

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事業者による有害大気汚染物質の自主管理の促進 | 環境省 (env.go.jp)

酸化エチレン測定における課題

低濃度酸化エチレンの検出は、サンプルマトリックス中に現れるCO2、プロパン、アセトアルデヒドなどの同一分子量の干渉種が存在するため、四重極型質量分析計では測定困難です。また、EtOは特に酸との反応性が高く、実験室でその後の分析を行うための安定したサンプルを採取することが困難です。滅菌施設のスクラバーシステムでは、水性酸を使用して酸化エチレンをエチレングリコールに変換することがありますが、もしサンプルに残留する酸のミストが存在する場合、その一部が失われる可能性もあります。さらに、酸化エチレンは沸点が低いため、トラップして濃縮することも困難です。

これらの課題を解決するため、この新しい光学強化ソリューションであるThermo Scientific™ StarBoost™テクノロジーを搭載したThermo Scientific™ MAX-iR™ FTIRガスアナライザーが登場しました。感度(SNR)が劇的に向上し、最小検出限界(MDL)は、他の市販のアナライザーに比べて50倍低くなります。なお、MAX-iR FTIRガスアナライザーは、米国環境保護庁(US EPA)の連続排ガスモニタリングシステム規格(CEMS)に適合しています。

Thermo Scientific™ MAX-iR™ FTIRガスアナライザー

図1. Thermo Scientific™ MAX-iR™ FTIRガスアナライザー

酸化エチレンの検出下限値と精度確認

検出下限値(LOD)テストは、代表的なガスマトリックスにおいてバックグラウンド以上で検出できる酸化エチレンの最小量を示すものです。測定はMAX-iR FTIRガスアナライザーが搭載されたEMS-10システムを用いて、ターゲットサンプル流量で実験室の周囲空気をサンプリングしました。酸化エチレンのデータは7~11回の連続した1分間のスキャンで測定され、検出下限値はこれらの測定値の標準偏差の3倍と定義されました。本実験の結果を表1に示します。

表1. 酸化エチレンの検出下限値の測定結果
平均 標準偏差 (σ) LOD (3σ)
Ethylene oxide (ppb) -0.3 0.2 0.6

精度は、酸化エチレンの3水準の標準ガス(26.6 ppb、51.9 ppb、99 ppb)を用いて検証しました。これらの標準ガスを同じガス濃度が連続して2回導入されないように切り替えながら、それぞれ3回ずつ、合計9回測定しました。各レベルについて、期待される基準濃度と平均測定濃度との差をスパン値(99 ppb)で割った値を誤差として計算しました。また予想濃度対平均測定濃度をプロットし、直線性(R2)を算出しました。精度の結果については表2に、直線性の評価結果は、図2に示します。

表2. 酸化エチレンの精度評価
レベル 繰り返し EtO濃度 (ppb) 誤差 (%)
Target Measured
Zero 1 0.0 -1.1 ~MDL
Low 1 26.6 24.6 -1.95%
Mid 1 51.9 50.5 -1.38%
High 1 99.0 98.1 -0.93%
Zero 2 0.0 -1.1 ~MDL
High 2 99.0 98.2 -0.76%
Mid 2 51.9 50.7 -1.12%
Low 2 26.6 24.8 -1.72%
Zero 3 0.0 -0.6 ~MDL
High 3 99.0 99.4 0.35%
Low 3 26.6 25.2 -1.40%
Mid 3 51.9 51.0 -0.86%
酸化エチレンの直線性評価

図2. 酸化エチレンの直線性評価

まとめ

StarBoostテクノロジーを搭載したMAX-iR FTIRガスアナライザーは、商業用滅菌および化学製造施設からの低濃度レベルの酸化エチレンの排出をモニタリングするために適したソリューションです。また検出下限値が1 ppb未満、応答時間が15秒未満であり、他の計測手段と比較して優れた性能を示します。本システムは酸化エチレンに関する米国環境保護庁(US EPA)の基準を上回っているだけでなく、システムの柔軟性と感度により、有害大気汚染物質排出基準(NESHAP)や滅菌施設の酸化エチレン排出基準(40 CFR Part 63, Subpart O)の変更など、今後、変化する規制に容易に対応することも期待できます。

関連情報
製品情報 MAX-iR FTIRガスアナライザー

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アプリケーションノート
光学強化型FT-IRを利用したエチレンオキシドの排出ガス連続 モニタリング

 

研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。

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