連載NanoDrop道場 第3回 いろいろな核酸サンプルの吸光度を測定しよう!~cDNA産物~

第2回にてPCR産物のNanoDropでの吸光度測定についてご案内しました。今回はRNAを鋳型に逆転写反応で合成するcDNA産物について吸光度測定で濃度を測定可能かどうかについて確認します。cDNA産物は遺伝子発現量解析であるqPCR反応のStartサンプルであり、濃度測定を検討される研究者も多いサンプルになります。

▼こんな方におすすめです!

  • 吸光度測定を実施されている方
  • 超微量分光光度計をご利用・ご検討の方

cDNA産物の吸光度測定

今回検証に用いるcDNA産物は、HeLa細胞から抽出したTotal RNAを鋳型として、SuperScript™ IV VILO™ Master Mix(製品番号: 11756050)を使用して以下のプロトコルに沿ってcDNAを合成しました。

試薬添加量(μL)
Total RNSX (2.5μ L)
SuperScript IV VILO マスターミックス4
Nuclease Free Water16 – X
Total 反応液20
逆転写反応条件
図1:逆転写反応条件

 

cDNA産物の吸光度スペクトル
図2:cDNA産物の吸光度スペクトル


得られたcDNA産物の吸光度は、260 nmに非常に大きな吸光度を伴うスペクトルを呈し、スペクトルの形状も核酸サンプルと酷似しております(図2)。260 nmの吸光度は10 mm光路長換算で45.78を呈し、DNA濃度を吸光度から計算すると2289 ng/μLになります。この結果からcDNA産物の濃度を算出しても問題ないでしょうか?

逆転写反応液に含まれるさまざまな夾雑物

cDNA産物の吸光度測定から得られるスペクトルは、PCR産物同様に、一見逆転写反応で合成されたcDNAが測定されているように確認されます。ただし、PCR反応液同様に、逆転写酵素反応の反応液もさまざまな「核酸」を含む組成で構成されています。これを確認する目的で、Total RNA未添加の逆転写反応サンプルの吸光度測定を実施しました(図3)。

Total RNA未添加の逆転写反応産物の吸光度スペクトル
図3:Total RNA未添加の逆転写反応産物の吸光度スペクトル


いかがでしょうか?Total RNA未添加の逆転写反応産物もTotal RNAを鋳型としたcDNAの吸光度スペクトルと酷似しております。この要因はPCR反応液同様に、逆転写酵素反応液に含まれる「プライマー」と「dNTP mix」によるものです。
今回使用したInvitrogen™ SuperScript™ IV VILO™ Master Mixは、逆転写酵素と逆転写プライマー、dNTP mixがセットになった試薬です。
しかし、「核酸」であるプライマーおよびdNTP mixが260 nmに吸光度を有するため、合成後のcDNAの吸光度から、cDNA濃度を算出することはできません。
では今回実施した、Total RNA未添加の逆転写反応液をブランクにすることでcDNA量が測定できるでしょうか?
独立して調製した2種類のTotal RNA未添加逆転写反応物とcDNA産物の吸光度スペクトルをマージした結果、cDNA産物の260 nm吸光度より高い吸光度を呈するTotal RNA未添加逆転写反応物が確認されます(図4)。

cDNA産物とTotal RNA未添加の逆転写反応産物の吸光度スペクトル比較
図4:cDNA産物とTotal RNA未添加の逆転写反応産物の吸光度スペクトル比較


反応液の組成は全く同じとなりますが、260 nmの吸光度にばらつきが確認されました。この要因として、逆転写反応のマスターミックスが粘性を有する反応液のため、ピペッティング操作による誤差を反映したものではないかと示唆されます。

これらの結果から、cDNA産物の濃度は吸光度から測定することは難しいサンプルとなります。
cDNAの濃度は、逆転写反応に用いたRNA量と等価であるとされております 。これは、1 µg(1000 ng)のRNAを20 µL反応系でランダムプライマーを用いて逆転写する場合、1000 ng/20 µL = 50 ng/µLのRNA濃度となり、等価換算によってcDNA濃度も50 ng/µLと算出できるからです。一方で、Oligo(dT)プライマーを用いる場合は、PolyAを有するmRNAのみを逆転写するため、逆転写反応に用いたRNA量と合成されるcDNA量は必ずしも等価ではございません。
このことから、qPCR反応時のcDNA濃度をそろえたい場合、Total RNA量をそろえて逆転写反応を実施いただくことを推奨します。

まとめ

今回は、cDNA産物の吸光度測定についてご紹介しました。qPCRに供するcDNA量をサンプル間で統一されたい場面は多くあります。実際に吸光度測定でcDNAを測定することできれいなスペクトルを確認できるため、得られた吸光度情報をcDNA濃度として利用してしまうこともあるのではないかと思います。結果的に吸光度情報からはcDNA濃度を測定することはできないため、サンプル間のcDNA濃度をそろえる工夫としては、逆転写前のTotal RNA量をサンプル間でそろえることが有効になります。または組織由来のTotal RNAであれば、組織重量、細胞由来のTotal RNAであれば細胞数をそろえることも有用となります。

このシリーズではNanoDrop微量分光光度計による吸光度測定に関わる情報やTipsをご案内していく予定です。以下リンクより「NanoDrop」に関連するブログ記事をご覧いただけます。
https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/tag/nanodrop/

NanoDropご利用のお客様へ
Webサイトのリソースページ(thermofisher.com/jp-nanodrop-setup)には、How-to動画などNanoDrop One / OneCに関する様々なお役立ちコンテンツを掲載しています。
併せてご参照ください。
またNanoDrop微量分光光度計シリーズにご興味のユーザーさまは以下リンクよりデモのご依頼も可能ですのでご活用いただければと思います。

お問い合わせはこちら

連載NanoDrop道場

第1回 吸光度測定による夾雑物の影響を考えよう!
第2回 いろいろな核酸サンプルの吸光度を測定しよう!~PCR産物~
第3回 いろいろな核酸サンプルの吸光度を測定しよう!~cDNA産物~

 

研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。

記事へのご意見・ご感想お待ちしています

  • サーモフィッシャーサイエンティフィックジャパングループ各社は取得した個人情報を弊社の個人情報保護方針に従い利用し、安全かつ適切に管理します。取得した個人情報は、グループ各社が実施するセミナーに関するご連絡、および製品/サービス情報等のご案内のために利用させていただき、その他の目的では利用しません。詳細は個人情報の取扱いについてをご確認ください。
  • 送信の際には、このページに記載のすべての注意事項に同意いただいたものとみなされます。