近年、不妊治療の過程において、体外受精によって得られた胚の一部を採取して、あらかじめ胚の染色体の異常などを解析し、着床率の改善を目指す研究が世界中で注目されています。日本でも胚を用いた着床前診断(PGT-A)の特別臨床研究が始まっており、今後ますます注目される領域です。
今回は、Ion Torrent™ 次世代シーケンサ(NGS)を導入したスペインの遺伝子解析会社Bioarrayのラボ責任者に行ったIon Torrent™ システムについてのインタビューをご紹介いたします。
PGT-A:染色体の異数性解析
PGT-M:単一遺伝子疾患解析
Bioarrayはスペインのアリカンテにある革新的な診断・研究ラボであり、マイクロアレイやNGSテクノロジーなどのさまざまな技術を用いた遺伝子パネルや全エクソームシーケンシングなどによるヒトの遺伝子解析を専門としています。また、着床前遺伝子検査(PGS)とバイオインフォマティクスの専門知識により、臨床や生殖遺伝学の研究サービスにおいて幅広い解析のメニューを提供しています。

Bioarrayのラボ責任者であり、共同設立者でもあるAlcaraz博士は、プロテオミクスやゲノミクスの分野の研究者であり、ハイスループット技術を使用したバイオインフォマティクスの包括的な経験があります。
サーモフィッシャーサイエンティフィック(以下サーモフィッシャー):
あなたは最近、着床前遺伝子検査に使用するプラットフォームにいくつかの大きな変更を進めました。どういった変更をなぜ行ったのか教えていただけますか?
Alcaraz氏:
PGT-A検査において、Ion ReproSeq™ PGS Kitは、さまざまなサンプルスループットに対応するため、ラボにとって非常に有利であることが分かりました。解析する検体数が増加しても、データスループットの高い半導体チップを購入するだけで対応できます。また、データが得られるまでの時間やハンズオンタイムも重要ですが、Ion ReproSeq PGS Kitでは検体数に応じて2~3時間のハンズオンタイム、トータル10~13時間で細胞抽出からデータまで取得可能です。
一方、従来のPGT-M検査は非常に高価でした。また、特定の疾患用のSTR primerの設計には多くの専門知識が必要であり、デザインが難しいため、PGT-A検査と組み合わせて実施することは非常に困難でした。また、このようにしてデザインしたprimerを、不妊治療を受けているすべてのカップルに対してテストする必要があるため、場合によってはprimerの再設計が必要となり、プロセスが数カ月にわたってしまうこともあります。
このような状況は、カップルには非常にストレスとなります。また、現状ではPGT-AとPGT-Mはワークフローが完全に異なるためこれらを組み合わせてもコストメリットがありません。したがって、PGT-M検査を受けているカップルは経済的な理由から、PGT-A検査を受けることはできませんでした。
さらに技術的な点においても、ライブラリ作製工程における全ゲノム増幅(WGA)によるアリルドロップアウトというPGT-Mにとって懸念すべき事項があったため、一つの変異を解析するだけでは不十分であり、複数の多型との連鎖的な解析が必要でした。
私たちはIon AmpliSeq™ テクノロジーとIon ReproSeq™ ケミストリーを組み合わせることにより、PGT-A検査とPGT-M検査を統合し、シンプルなワークフローでこれらの問題を克服することができました。これによって単一の生検から、両方のアプリケーションが解析可能な、コストメリットが高い手法が実現しました。
サーモフィッシャー:
これはどのようなアプリケーションか詳細を教えていただけますか?
Alcaraz氏:
Bioarrayでは、Ion AmpliSeq テクノロジーに基づくPGT-M用のカスタムデザインを用いて大きな成功を収めてきました。Ion AmpliSeq テクノロジーはアンプリコンベースのターゲットNGSのゴールドスタンダードとして世界的に認められています。私たちは連鎖解析のために変異遺伝子座領域の両側に2 Mbのフランキング配列を含めるIon AmpliSeq™カスタムパネルをデザインしました。こうしてデザインしたPGT-Mパネルは、PGT-A検査であるIon ReproSeq™ ワークフローに必要な単一の胚生検と同時に使用するように設計されています。当ラボのユニークな一塩基多型(SNP)phasingテクノロジーとバイオインフォマティクスソリューションによって、特定の変異の迅速な解析が可能となり、変異検出後にレポート作成も可能です。
ワークフローの概要を説明します。まず、胚由来のゲノムDNAを用いて全ゲノム増幅を行います。その後、Ion ReproSeq ワークフローにてライブラリを作製するとともに、全ゲノム増幅産物の一部(約3 µL)を、Ion AmpliSeq テクノロジーを基盤としたBioarray PGD-Seqキットを使用して、PGT-M検査のライブラリを作製します。次に、Ion ReproSeq™ライブラリとPGD-Seqライブラリを混合し、同一のシーケンスにて解析します。また、同様に連鎖分析を実行するには、親や親戚のサンプルを解析する必要があります。シーケンシング後、Ion Reporter™ソフトウェアとPGD-Seqソフトウェアを使用した両方の解析を行います。最後に、両方の結果を組み合わせて、単一遺伝子疾患の疑いのない胚だけでなく、正倍数性の胚も検出し、不妊治療のサイクルの有効性を高めます。
当ラボのBioarray PGD-Seq Kitは、嚢胞性繊維症、脊髄性筋萎縮症、サラセミア、多発性嚢胞腎、脆弱X症候群などすべての単一遺伝子疾患に利用できます。
サーモフィッシャー:
Array comparative genomic hybridization(aCGH)を実施している他社や、PGT-AとPGT-Mの統合を検討している他社に何かアドバイスはありますか?
Alcaraz氏:
aCGHは古い技術です。これによってモザイク胚を正しく識別することがいかに重要であるかがわかりました。NGSの高い精度と感度を用いれば、胚を正常胚、異常胚、モザイク胚に分類できます。さらに正常胚を全て移植してしまっても、多くのカップルに最後のチャンスとしてモザイク胚を提案できます。
もうひとつ重要な点は、PGT-Mについてです。今では、キャリアスクリーニングパネルが世界で広く使用されているおかげで、多くのカップルは子供が遺伝性劣性疾患に罹患するリスクがあることを知っています。そこで、この統合された方法を用いれば、どの胚が疾患に影響されないかを知ることができます。
従来、PGT-Mにはキャピラリーシーケンサが必要でしたが、現在はIon AmpliSeq テクノロジーを使用して、PGT-Aと同じIon GeneStudio™ S5システムで解析できるため、PGT-MとPGT-Aを統合すると追加の機器に投資する必要がないといった利点があります。もう1つの利点は、必要なサンプル処理が少なくなるため、エラーの可能性が低くなることです。両方のプロトコルを組み合わせると、コストメリットが高くなり、より多くのカップルがPGT-AとPGT-Mの両方のメリットを享受できます。最後に、PGT-AとPGT-Mの両方の堅牢なバイオインフォマティクス解析の利点があります。単一の胚生検におけるシンプルなPGT-AおよびPGT-Mワークフローにより、私たちが提供できる検査は大きく変化しました。
・胚の異数性解析にはIon ReproSeq ワークフローが有用です。
・Ion Torrent™システムとBioarray PGD-Seqを使用すれば、胚の異数性解析と単一遺伝子疾患の両方を一つのサンプルで同時に解析することができます。
・胚の異数性解析にご興味がある方はIon ReproSeq PGS Kitをご検討ください。
次世代シーケンスの原理や何ができるかがよくわからない、または自分の研究領域にどのように活用できるかわからないという方向けに、次世代シーケンスの基本や各研究領域に特化したアプリケーションをまとめました。リンク先から、それぞれの領域に応じたページをご覧いただけます。
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