皆さまに質問です。バイオ実験で必ず遭遇する酵素やバッファーなどが入った試薬類のチューブに付属するスクリューキャップをどのように扱っていますか?
PCR酵素や制限酵素、PCRプライマー、さらには高額な試薬や抗体などが入っている製品などもあるので、汚染させたり、こぼしたり、ましてやスクリューキャップを転がして紛失したりしたくないかと思います。特にRNA抽出や逆転写反応、PCR実験の際などはグローブ(実験用手袋)をしているため、滑ってスクリューキャップを落としたり、転がしてなくしてしまったりした経験はありませんか?「私、不器用だから…」と落ち込む必要はありません。そもそも、グローブをすることで小さいキャップが滑りやすいですし、冷蔵庫や冷凍庫から出してきたチューブやキャップなどは結露して滑りやすい状況ですので、むしろちゃんとスクリューキャップを扱えることがすごいことだと思っていただいても間違いないです。実際に実験歴が30年近くある手技に慣れた人でもスクリューキャップの落下や紛失などで、ヒヤリとしたことはあるかと思います。

酵素などの試薬類が入ったスクリューキャップ形状の製品(一例)

落としたスクリューキャップがコロコロ転がったり、床に落としたりなど取り扱いに注意が必要(イメージ)
皆さまはどうされていますか?
それではこのスクリューキャップをどのように扱うと良いのでしょうか?スクリューキャップの「外す」、「置く」、「元に戻す」の3つ段階で考えてみます。
1.外す
グローブを付けた状態ではツルツルとすべてしまって、小さいスクリューキャップの取り扱いは難しくなります。またグローブのたるんで余った部分がチューブやキャップの内側に触れて汚染させるリスクもあります。
そこで便利なのが、18 cmぐらいの大きめのピンセットでしっかりとつまむ方法です。コツとしてはピンセットでスクリューキャップを回すのではなく、ピンセットでスクリューキャップをしっかりつまんで固定しながら、チューブ本体側を指でくるくると回してキャップを緩めていく方法です。その後はピンセットでつまんでいるキャップをそのまま安定した状態で実験ベンチの上に置く事ができますので、落としたり転がしてなくしてしまったりするリスクを回避できます。ちなみに、スクリューキャップに限らず試薬類のキャップを開ける際にはスピンダウン(軽い短時間での遠心操作)を実施して、スクリューキャップ内側部分に付着している試薬やサンプル溶液を事前にチューブ底部に落としておくことも重要です。
大きめのピンセットを用いてスクリューキャップを固定して、チューブ本体を回転させて開ける方法
2.置く
外したスクリューキャップはどのように置くべきなのでしょうか?大きく分けると2つの方法があります。
①スクリューキャップを伏せて実験ベンチに置く

実験ベンチのきれいな場所の表面上にスクリューキャップを伏せて置く
メリット
- ピンセットを持った状態の順手(じゅんて:手の甲が上向き)の状態で扱いやすい
- 上からのゴミの落下などが防げる
デメリットや注意点
- スクリューキャップの内側が実験ベンチに面しているため、ベンチ表面のゴミなどが静電気でキャップ内側に付着する可能性がある
- 試薬やサンプルなどの溶液がスクリューキャップ内側に付着している場合には、実験ベンチにサンプルなどの溶液が付着して汚染を拡大させる(スクリューキャップなどを開ける前にはチューブ類のスピンダウンを実施することも重要)
➁スクリューキャップの内側を上向きで置く

スクリューキャップの内側が上向きになるように実験ベンチに置く
メリット
実験ベンチの表面が汚れている可能性がある場合でもスクリューキャップへの汚染リスクを低減できる
デメリットや注意点
- スクリューキャップ内側にゴミが落下して付着するリスクがある(キャップ上部の空間では作業しない。特にクリーンベンチや安全キャビネットの庫内では上部からの空気の流れがあるので、注意が必要)
- スクリューキャップを置く際にピンセットを持った手を逆手(さかて:手のひらを上側)にひねる必要がある
どちらの方法もメリットとリスクがありますので、それぞれの特徴を理解した上で適切な状況判断とコンタミネーションリスクを低減する必要があります。
3.元に戻す
最後のステップとしてスクリューキャップを元のチューブに戻して装着する場面を考えてみたいと思います。実はこのタイミングがスクリューキャップを落としたり、転がしたりする可能性が高くなります。それはピンセットを用いた場合でも普段の手の向きと異なる扱いのため、うまくピンセットでつまめない、もしくは、チューブ本体の取り扱いが難しいなどの理由があります。
実はピンセットを扱う際に手の甲を上に受ける「順手」ではなく、手のひらが上になるように「逆手」の状態にしてピンセットでスクリューキャップをつまみます。この状態ではスクリューキャップをつまむ際に最初だけ少し違和感があるかもしれませんが、つまんだ後はチューブ本体へスクリューキャップを順手で無理なく装着が可能となります。また、スクリューキャップを閉める場合もピンセットやスクリューキャップ側を回転させるのではなく、ピンセットで保持しているスクリューキャップを固定した状態で、チューブ本体をくるくると回す方が容易で確実な操作が可能となります。
手のひらを上向きにする逆手でピンセットを持ち、スクリューキャップをつまんでチューブに戻す。スクリューキャップをピンセットで固定し、チューブ本体を回す。最後に確実にキャップが閉まっていることを確認する
ちょっと待って!そもそもキャップは置かないのですが
スクリューキャップの取り扱いは人によって異なることがあります。実は、以前に実験をされている皆さまに「伏せていますか?上向きですか?どちらの方法でスクリューキャップをベンチに置いていますか?」と問いかけをしたことがあったのですが、「私はベンチに置かないけど」と指摘を受けたことがありました。この方はマイクロピペットを手に持ちながら、スクリューキャップを小指と手のひらの側面で挟んで保持しながら、キャップを開けたり、閉めたりされているとのことでした。
もしくは、チューブを持つ手で一緒にキャップを保持する方法もあります。慣れてくるとこれらの方法でも対処は可能ですが、特にグローブを装着していると細かい作業が難しくなる場合もあり、コンタミネーションリスクが高まる可能性があります。1.5 mLや2 mLサイズの反応チューブとは異なり、100 mLや500 mLのガラス瓶やプラスチックボトルのキャップを取り扱う場合には、電動ピペッターを持ちながら小指と手のひら側面でキャップをはさみ溶液を扱う方法が多用されてきました(写真)。

電動ピペッターを持ちながら小指と手のひらの側面で大きめのボトルキャップをはさむ(イメージ)
これはキャップが比較的大きなサイズであること、またピペッターにチップを装着した状態で持ち手から離すことが困難であることが理由で、大きなキャップの場合は経験的にコンタミネーションリスクが低いために多用されていました。しかしながら、PCR酵素などの小さいサイズのスクリューキャップを取り扱う場合や、感染リスクのある血液などの入った臨床検体のスピッツ管や感染性ウイルス検体などを取り扱う際には操作そのものに細心の注意が必要となり、さまざまなリスクの管理とコントロールすることが重要となります。
完璧な答えがあるわけではないけれど、考えたり意識したりすることで変わる世界があります
スクリューキャップの取り扱いに関して、絶対的に安全な手法があるわけではないので、適切なタイミングや状況を理解して、使い分けるのが現実的な方法かと思います。しかしながら、それぞれの方法に潜むリスクやメリットを理解した上でキャップを取り扱う場合と、何も考えずにキャップを置く事による汚染事故を招くリスクがある実験を行う場合ではコンタミネーションの発生や貴重なサンプルの取り扱いの意味が違ってくるのかと思いますので、改めて確実で安全な実験を行うためにもスクリューキャップの取り扱いにも意識を向けていただければ幸いです。
まとめ
あまりにもスクリューキャップの置き方や扱いに意識を向けすぎてしまうと、自宅で料理する際に調味料のキャップをどう扱うのか?車のガソリンを入れる時に燃料タンクのキャップをどこに置くのか?さらにはこのブログを読みながら飲んでいるペットボトル飲料のキャップをどのように置くのか?などなど、スクリューキャップに対して過剰に意識すると疲れてしまうかもしれませんので、普段の生活のなかではほどほどが良いのかもしれませんね。



