シーケンス解析の波形データが幅広のピーク形状の場合、適切にベースコールがされない場合があります。このようなデータの確認時に注目すべき点と、原因と対処法についてご紹介いたします。
ブロードピークとは
ブロードピークとは、ピーク幅が広く、裾野が広がっている形状のピークを指します。
何らかの原因によりキャピラリー電気泳動の分離能が低下した場合、DNA断片の泳動速度に幅が生じ、その結果ピークがブロードの形状で検出されます。ブロードピークが検出されている領域は、隣接するピークの裾野が重なり合うため、ベースコールのクオリティが低下します。
データ全体のピーク形状については、Rawデータで確認できます。
Rawデータの確認方法は、以下リンク先のブログをご参照ください。
https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/sanger-seq-ce-gsd-ts-ce-24024/
特に高分子側が分解能低下の影響を受けやすいため、ブロードピークが発生しやすく、図1の上段RawDataでは、データ前半のピーク幅と比較すると、後半に幅広のブロードピークが生じています。
また、下段波形データは、上段Rawデータ赤色点線枠内の領域を示していますが、波形データの上部に表示されているQuality Value Barを見ると、QV20(99%)以下のベースコール(黄色、赤色のバー)が多く発生しています。
ブロードピークが発生する主な原因
ブロードピーク発生時の予測される原因として、以下のような原因が挙げられます。
消耗品の劣化(使用期限、使用回数上限超過)
各消耗品で設けられている、使用期限、使用回数の上限を超過して使用した場合、発生する可能性があります。
- ポリマー
ポリマーの網目構造が崩れ、分離能が低下します。その結果、ピークがブロードとなって検出されます。 - バッファー
ラン中に電流値が不安定となる場合があります。この場合、ブロードピークの発生だけでなく、電流値不安定エラーにより、途中でランが中断される場合があります。 - キャピラリーアレイ
キャピラリーの内壁に蓄積した汚れが、ブロードピークを引き起こす原因となります。 - セプタの繰り返し使用
96プレート、8連チューブ、陰極バッファーのセプタは、一回使い切りを推奨していますが、何度も繰り返し使用している場合、スリット部分に汚れが蓄積し、ブロードピークが発生する場合があります。
装置のメンテナンス不足 ※Applied Biosystems™ 3500シリーズ、Applied Biosystems™ SeqStudio™ Flexシリーズジェネティックアナライザ、Applied Biosystems™ 3730xl DNAアナライザ(latest version)
定期的なメンテナンス実施がされていない場合に、発生する可能性があります。 - ブロック洗浄
コンディショニング試薬(3500シリーズ、SeqStudio Flexシリーズ)/超純水または脱イオン水(3730xl LV)を用いて、定期的なブロック洗浄を実施されていない場合、ブロック内にサンプル由来の汚れ、古いポリマーが滞留し、そのままキャピラリー内に持ち込まれる場合があります。また、ポリマーがブロック内で結晶化すると、チェックバルブ(流路切り替え弁)に結晶が詰まり、キャピラリーにポリマーが適切に充填されず分離能が低下します。 - ウォータートラップ洗浄
ピストン周辺でポリマーが凝固しないよう水を通し、廃液ボトルには常に半分程度水が入っている状態を保ってください。トラップ内が乾燥してしまった場合は、ピストンがスムーズに動かず、ポリマーがキャピラリー内に適切に充填されません。そのため、分離能が低下し、ブロードピークが生じる原因となります。
ブロードピーク その他データ例
・分離能低下:ラン開始時
予測される原因 | 対処法 |
精製キット Applied Biosystems™ BigDye™ X Terminator Purification Kit を使用している場合、X Terminator Solution、 またはプレミックスが25℃以上の温度にさらされた。 |
BigDye X Terminator Purification Kitは、保管時は冷蔵保管。使用開始前に、室温に戻し使用する。 |
X Terminator Solution, SAM solutionを添加後、 シェーカーで撹拌する際、推奨の回転数、攪拌時間を超えている。 |
推奨の回転数・撹拌時間にて行う。 |
シェーカーで撹拌する際、溶液の温度が上がっている。 | 推奨のシェーカーを使用する。 |
有効期限が切れたBigDye XTerminator Purification Kitを 使用している。 |
期限内の試薬を使用する。 |
・分離能低下:ラン中間
ラン中間に分離能が低下している場合、予測される原因と対処法は以下の通りです。
予測される原因 | 対処法 |
電気泳動中に、気泡が発生し、キャピラリー内に存在している。 | 同じプレートを再ランする (次のラン開始時に新しいポリマーが充填され、気泡が抜ける)。 気泡が発生している場合、下図のようなスパイクノイズが発生する場合もあるが、同様に同じプレートを再ランする。 |
セプタを洗浄した際の薬品などによる汚染。 | 新しいセプタを使用する(セプタは1回使い切りを推奨)。 |
ラン開始時のポリマー充填が不十分。 | ポリマーの漏れがないかを確認。 3500シリーズ、SeqStudio Flexシリーズ、3730xl LV: アレイポートに緩みがないか。緩んでいる場合は締め直す。 ブロック洗浄を実施していない場合は、チェックバルブに結晶が詰まり、適切にポリマーがキャピラリーに充填されていない場合もあるため、ブロック洗浄を実施する。 Applied Biosystems™ SeqStudio™ジェネティックアナライザ: カートリッジを取り出し、ポリマーの漏れがないかどうかを確認。 |
まとめ
分離能が低下し、ブロードピークを引き起こす主な要因として、
- 使用期限、回数を超過した消耗品の使用
- 装置メンテナンスの実施不足
が挙げられます。
良好なデータ取得のためにも、消耗品は期限内、推奨使用回数内で使用し、定期的な装置のメンテナンスの実施をお願いいたします。
また、弊社ではメンテナンス講習も適時開催しております。正しいメンテナンス方法の習得に是非ご活用ください。
完全マスター!ハンズオントレーニングコース キャピラリーシーケンサ(2)メンテナンス講習 ~Applied Biosystems 3500/3500xL ジェネティックアナライザ編~ | Thermo Fisher Scientific – JP
サンガーシーケンシング ハンドブック
シーケンシングラーニングセンター
https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/life-science/sequencing/sequencing-learning-center.html
ジェネティックアナライザシステム
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。