【やってみた】 新しいベースコーラーを活用した、ダブルIndel変異の検出

ダイレクトシーケンス法は、目的の塩基配列を取得する手法として広く利用されていますが、ヘテロ接合性Indelサンプルの解析に課題がありました。この課題に対して、当社はこれまでに、ブログ”新しいベースコーラーを活用した、Indelを含むシーケンス解析の効率化”にて、新しいベースコーラーであるSmart Deep™ Basecaller(SDB)を用い、Indel解析を効率的に行うアプローチをご紹介しています。このブログでは、1カ所のIndel変異を含むサンプルを例に技術内容をご紹介いたしましたが、Indel変異解析に関し、お客さまより、「シーケンス解析領域に2カ所以上のIndelが含まれた場合、その解析が非常に難しい」というお声をいただきました。そこで今回は、解析領域に2カ所のIndel変異を含むモデルサンプルを用い、SDBを活用したIndel変異の検出を試みました。

ヘテロ接合性Indelモデル

がんの発症は、遺伝的要因と環境的要因の両方が考えられていますが、一部のがんではゲノム上の塩基配列の違いにより発症リスクが上昇することが知られています1。Momozawaらは、日本人乳がん患者7,051人を対象として11の生殖細胞系列遺伝子の病的バリアント(病気の原因となる塩基配列の違い)を解析しました2。この研究にて、彼らはBRCA1遺伝子に、病原性の1塩基欠損変異を2つ持つ患者がいたことを報告しています。さらに、シーケンス解析の結果、2カ所の変異は1つのアレルでのみ見られたと述べています。

今回は、この2カ所の1塩基欠損変異を有するDNAをモデルサンプルとし、SDBを用いたヘテロ接合性Indel変異の検出を試みました。

実験

DNAサンプル

GeneArt遺伝子合成サービスにて、野生型(BRCA1_Wt)と、2か所の1塩基欠損変異を有する変異型(BRCA1_del-Mt)の2種類のDNAを合成しました。塩基配列を表1に示します。

ここではApplied Biosystems™ QuantStudio™ Absolute Q™ デジタルPCRシステムを用いてDNAの絶対定量を行い、野生型と変異型が1対1の比率となるように混合したサンプルを、ヘテロ接合性Indelサンプルのモデルとしました。

表1 DNAサンプルの塩基配列

BRCA1_Wt:野生型、BRCA1_del-Mt:変異型、赤字:欠損変異箇所(BRCA1_del-Mtでは、BRCA1_Wtの2か所のTが欠損)

表1 DNAサンプルの塩基配列 BRCA1_Wt:野生型、BRCA1_del-Mt:変異型、赤字:欠損変異箇所(BRCA1_del-Mtでは、BRCA1_Wtの2か所のTが欠損)

シーケンス解析

シーケンス解析用プライマー(表2)は、Applied Biosystems™ Primer Designer™ Toolを用いて選定しました。シーケンス反応は、Applied Biosystems™ BigDye™ Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kitを使用し、テンプレートDNA 6 ng、プライマー3.2 pmolの条件で行いました。Applied Biosystems™ BigDye XTerminator™ Purification Kitで精製後、Applied Biosystems™ 3500xLジェネティックアナライザで、POP-7™ポリマー、50 cmキャピラリーアレイを用い電気泳動を行いました。

表2 プライマーの塩基配列

表2 プライマーの塩基配列

データ解析

Applied Biosystems™ Sequencing Analysis Software 8を用い、SDBによりベースコールを行いました。このソフトウエアでは、塩基情報がIUPAC/IUBコードに則って表示されます。ここでは、同一箇所に2つのピークが検出された場合、混合塩基と表示する設定で解析しました。

結果

フォワード側からのシーケンス解析結果の一部を図1に示します。波形の上部には、各ピークの情報にもとづいてベースコールされた塩基が表示されています。ヘテロ接合性Indelモデルである野生型:変異型=1:1サンプルでは、波形が途中から二重になり、同一箇所に2つのピークが検出された箇所は混合塩基としてベースコールされました(図1 a)。これに対し野生型は、すべて単一塩基としてベースコールされました(図1 b)。

図1 フォワード側からのシーケンス解析結果

a)野生型:変異型=1:1、b)野生型、シーケンス解析用プライマー:Seq_F primer
混合塩基としてベースコールされた箇所を、赤色でハイライト表示

SDBでベースコールして得られた塩基配列情報をテキストファイル(.seqファイル)として出力し、Microsoft Excel™のマクロを使用した専用ツールで解析しました。このツールに、ヘテロ接合性Indelサンプルと、Indelを含まないリファレンスの塩基配列情報を読み込むと、サンプルとリファレンスの異なる塩基を自動的に抽出します。提示された抽出配列とリファレンスを比較することで、Indelを容易に判定できます。SDBとこのツールを用いたIndel判定の詳細については、こちらのブログをご参照ください。

ヘテロ接合性Indelモデルと、リファレンスとして野生型の塩基配列情報をツールに読み込み、提示された結果を図2に示します。リファレンスと抽出配列を比較することで、2カ所のT欠損と判定されました。抽出配列の変異近傍の塩基配列は、変異型BRCA1_del-Mtの塩基配列と一致しており、2カ所の欠損変異を正しく判定できたことが確認されました。

図2 ツールを用いたIndel解析結果(フォワード側)

ヘテロ接合性Indelサンプルをフォワード側からシーケンス解析し取得された塩基配列を解析。野生型サンプルの塩基配列をリファレンスとして使用

プライマーとしてSeq_R primerを用い、リバース側からもシーケンス解析を行いました。SDBでベースコールして得られた塩基配列を専用ツールで解析した結果を図3に示します。抽出配列の変異近傍の塩基配列はBRCA1_del-Mtのものと一致し、2カ所のA欠損と判定されました。

図3 ツールを用いたIndel解析結果(リバース側)

ヘテロ接合性Indelサンプルをリバース側からシーケンス解析し取得された塩基配列を解析。野生型サンプルの塩基配列をリファレンスとして使用

以上の結果から、SDBと専用ツールを用いた手法で、正確かつ簡便に、ヘテロ接合性Indelサンプルにおける同一DNA上の2カ所のIndel変異を検出できることが示されました。

まとめ

今回は、2カ所の1塩基欠損変異を有するDNAをモデルサンプルとし、ヘテロ接合性のIndel変異の検出を試みました。検証の結果、SDBでベースコールして得られた塩基配列を専用ツールで解析することで、正確かつ簡便に、同一DNA上の2カ所のIndel変異を検出できることがわかりました。Indelをはじめとする変異解析にお困りの方、本解析方法にご興味をお持ちの方は、ぜひテクニカルサポートjptech@thermofisher.comへお問合せください。

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参考文献

  1. Kamada M, Kawai Y. JSBi Bioinform Rev. 4, 81–90 (2023).
  2. Momozawa Y, Iwasaki Y, Parsons MT, et al. Nat Commun. 9, 4083 (2018)

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