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Ion AmpliSeqカスタムパネルを利用し、155検体で25遺伝子を効率的に解析
弘津陽介 氏(山梨県立中央病院ゲノム解析センター)
乳がんや卵巣がんは、国内で毎年約10万人が罹患する頻度の高いがんであり、遺伝性がんが占める割合が10%前後と高いことも特徴です。この遺伝性乳がんの多くにBRCA1/2遺伝子の機能不全変異が認められるとの報告があります。山梨県立中央病院ゲノム解析センターの弘津陽介氏は、日本における遺伝性乳がんや卵巣がんの状況を把握するため、BRCA1/2遺伝子とともに、それ以外の遺伝性がんとの関連性が指摘される25遺伝子を選び出して変異解析を行いました。その結果、乳がんと卵巣がんの患者検体155サンプルから、BRCA遺伝子以外に新たに3種類の生殖細胞由来の病原性変異を発見し、学術誌で報告しました※。
※Multigene panel analysis identified germline mutations of DNA repair genes in breast and ovarian cancer Yosuke Hirotsu et al. Molecular Genetics & Genomic Medicine (2015); 3(5): 459–466
25遺伝子に対して610領域を増幅するAmpliSeqカスタムパネルを作成
この研究で、弘津氏が解析に採用したのは、Ion AmpliSeq™ テクノロジー。カスタムで行う場合は、Ion AmpliSeq Designerソフトウェア独自のアルゴリズムでプライマーセットを設計し、マルチプレックスPCRでターゲット領域を増幅、シーケンス後に変異を同定します。
今回、BRCA1/2パネルに加え、25遺伝子のターゲット領域の97.6%をカバーする610個のプライマーセットをカスタム合成し、次世代シーケンサIon Proton™ システムで解析しました。「その結果、155検体のうち11検体からBRCA1/2遺伝子の変異を検出しました。またBRCA1/2遺伝子以外の4遺伝子から10種類の不活性化変異を同定しました。配列や他の情報を精査し、最終的にATM、MRE11A、MSH6という3遺伝子の変異を病原性変異と判断しました。実際に家族歴を調べてみると、親族等にも乳がんを始め、複数の種類のがんに罹患した方がいました」と弘津氏。「しかもこの3遺伝子は、BRCA遺伝子と同じくDNA修復に関わる遺伝子。特にMSH6は、遺伝性大腸がんの一種であるリンチ症候群で報告されているDNAミスマッチ修復遺伝子の一つでした」と他のがんとの関わりを指摘します。
ゲノム医療を根付かせ、新たな医療につなげたい
「BRCA1/2遺伝子の機能不全変異は、がんの悪性化に関わるとの報告があります。また近年、この変異を有する患者に対して、DNA修復阻害剤(PARP阻害剤)の投与が米国FDAで認可されました。当院でも、外部の遺伝子検査機関でBRCA1/2遺伝子の変異陽性と確定された進行再発卵巣がんの患者に対する薬物治療の可能性を広げようとしています。遺伝性がんのゲノム医学が発展して根付いていくことで、早期発見や効果的な治療法の選択へつなげていければと思っています」と続けます。
がんの体細胞変異研究も同時並行で
ゲノム解析センターでは、がんの体細胞変異の研究も進めています。例えば、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)切片から、がん組織と正常組織を区別してレーザーで切りだし、がん細胞における特異的な遺伝子変異やそのHeterogeneityを調べています。この研究では、Applied Biosystems™ ArcturusXT™ LCM Systemによるレーザーマイクロダイゼクション(LCM)やIon AmpliSeq Designerで肺がん、乳がん、肝臓がん、胃がん、大腸がん、卵巣がんにフォーカスを当てたパネルをカスタムで作製し、解析に利用しています。「微量なDNAからがん関連遺伝子を一度に解析できて便利ですね」と弘津氏。
現在、ゲノム解析センターの研究専任スタッフは弘津氏一人ですが、組織からLCM担当の検査部の雨宮健司氏やバイオインフォマティクス担当の消化器内科医の望月仁氏と3人体制で、多くの研究を同時並行でこなし、DNA抽出から情報解析までのStreamlineが出来上がっています。「大学や大きな研究機関では他部署との調整や申請などに時間がかかりますが、ここでは一体化した小さな組織ならではの機動力を生かして、スピーディに研究を進めたい」と語ります。さらに病院という研究環境について「基礎研究の分野で学位を取ったので、常にがん細胞に対する根源的な問いは持ち続けていますが、臨床医の先生方の患者を救いたいという強い想いを身近に感じることで、両方の重要性とバランスを意識するようになりました」と続けます。
研究を率いる理事長で東京大学名誉教授の小俣政男氏の「難治がんに挑む」との言葉に励まされつつ、弘津氏はこれからも精力的にがん研究を進めます。
2つの最高性能を融合 処理能力と精度をひとつに
ArcturusXT Laser Capture Microdissection System
ArcturusXT LCM Systemは、個々の細胞を捉えるIRレーザーと特定の領域を切り取るUVレーザーを融合した柔軟性の高いシステムです。顕微鏡下で標的の細胞や領域を正確に回収します。
ArcturusXT LCM Systemの詳細情報やお問い合わせはこちらから
狙った遺伝子群をNGSで効率的に解析
Ion AmpliSeq Panel
Ion AmpliSeq™ Panel は、多数の遺伝子変異をまとめて解析するためのウルトラマルチプレックスPCR用プライマーのセットです。標的領域を多数のプライマーセットで同時に増幅後、Ion Torrent™ 次世代シーケンサで解析し、専用ソフトウェアで分かりやすく結果を表示します。当社開発のカタログパネル、解析領域を自由に設定できるカスタムパネル、世界中の研究グループがデザインしたコミュニティパネルから、がん、遺伝性疾患、感染症、個人識別など、多様な研究領域のパネルをご利用いただけます。
- 広いターゲット領域……最大で6,144領域 / 1チューブ、トータルで最大5 Mbを解析
- 微量サンプル……必要なDNA初期量はわずか10ng / 1チューブ、しかもFFPE対応
- 多検体処理に対応……バーコードを使って、多検体(最大384)処理が可能
- 迅速……サンプルとプライマーセットが揃えば、1日で結果に到達
Ion AmpliSeq Panelの詳細情報やお問い合わせはこちらから
ライフサイエンス情報誌「NEXT」
当記事はサーモフィッシャーサイエンティフィックが発刊するライフサイエンス情報誌「NEXT」2016年7月号からの抜粋です。
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