辻 邦和 氏 (東京医科歯科大学大学院総合研究科軟骨再生学講座准教授)
尾島美代子 氏(同大学運動器外科学)
細胞剥離剤について比較検討しようと考えたきっかけについて辻氏はこう話します。「iPS細胞などの幹細胞ベースの再生医療研究は非常に盛んで、応用を目指した膨大な知見が集積する一方、移植する細胞の質に関わる基礎的知見の蓄積はまだ十分でありません。特にMSCは造血系細胞と違い接着性であるため、移植時には、培養皿から剥離する操作が必要となります。この細胞懸濁液調製操作が、細胞の生存率や分化能等の”質”に影響しうると考えました」。また実験データから、興味深い気づきがあったといいます。「2年半ほど前から品質チェックのために調製した滑膜幹細胞の解析を始めました。MSCの代表的表面マーカーはCD73、CD90、CD105ですが、実験者によってこの陽性率がばらつく実感がありました。特に不慣れな実験者の場合CD105の陽性率に幅が生じるのです」。このときトリプシン処理時間の影響を直感した辻氏。患者組織由来の初代培養細胞から治療に必要な細胞数を確保するには、数十枚のディッシュを用いて大量培養する必要がありますが、処理するディッシュの枚数が多くなるほど細胞懸濁液の調製に時間的な不確実性が生じます。つまり将来臨床応用する場合にも、同様の不安定さが生じるだろうと考えました。「今回は細胞剥離のステップが表面抗原や生細胞率、幹細胞性の維持にどのような影響を与えるか、トリプシンとTrypLEを比較しました」。
比較の結果は明らかでした。「処理時間5分、30分、60分でCD73、CD90、CD105を含む18種類の間葉系幹細胞表面発現の陽性率に及ぼす影響を、フローサイトメーターで解析しました。処理時間30分以内に、トリプシンでは3種類のマーカーの陽性率が有意に低下した一方、TrypLEでは5分と30分で大きな差がありませんでした。特に、注目していたCD105の場合、トリプシンでは経時的に陽性率が下がり60分後には10%未満まで下がる一方で、TrypLEでは60分後も70%以上の陽性率を維持しました。また60分以内ならバイアビリティへの影響はどちらも大差ありませんでした。さらにトリプシンは、5分間の処理であってもCD140a陽性率を著しく減少させました。CD140aはMSCの増殖、分化に重要な機能を有するPDGF(血小板由来増殖因子)の受容体であり、この結果は非常に重要であると考えております」。(K. Tsuji, M. Ojima et al. Cell Transplantation, Vol. 26, pp. 1089–1102, 2017)
Gibco™ CTS™ TrypLE™ Select Enzymeは、動物成分由来成分を含まない細胞解離用試薬であり、トリプシン代替品として使えます。この製品を含むGibco™ CTS™ ブランド製品は、ISO13485認証を取得した施設で製造されており、製造方法や工程管理は米国のcGMP※に準拠しています。
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※cGMP : 米国連邦規則集 CFR Title 21, part210 “current Good Manufacturing Practice”を意味しており、本邦における薬機法下のGMPとは同一ではありません。
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