アレルギーメールニュース 2017 年 4 月号
サーモフィッシャーダイアグノスティックス株式会社 発行
1. はじめに
成人の食物アレルギーで最も多いのは、花粉‐食物アレルギー症候群(PFAS)といわれています。これは、花粉症が増加していること、タイプ2食物アレルギーの理解が広まったためと考えられます1)。また、花粉感作の低年齢化にともない、学童以降の小児でも注意すべき疾患になってきています2)。PFASはアレルゲンコンポーネント特異的IgE検査の進歩によってその発症機序が明らかになった病態で、多くの花粉と食物間の交差コンポーネントが見出されています3)。本稿では、コンポーネントを中心にPFASについて概説します。
2. 花粉感作
PFASは、カバノキ科(ハンノキ、シラカンバなど)、イネ科(カモガヤ、オオアワガエリ、ハルガヤなど)、キク科(ブタクサ、ヨモギなど)およびヒノキ科(スギ、ヒノキなど)の花粉感作が原因となって発症する食物アレルギーで、ある程度花粉の種類で原因食物が限定可能です。表1に花粉中のPFASに関連するコンポーネントおよび誘発食物を示します4,5)。
表1. PFAS関連花粉およびコンポーネント4,5)
花粉感作の頻度が高いのはヒノキ科で、次いでイネ科、カバノキ科、キク科の順ですが、カバノキ科花粉感作例の35-62%にPFASが認められ、ハンノキまたはシラカンバ特異的IgE抗体価が高いほどPFASを発症する頻度が高くなることから、カバノキ科はPFASで最も重要な花粉とされています6-8)。
なお、スギ花粉症と自己判断していた成人を精査したところ、約80%がスギ花粉症と診断されましたが、残りの20%はチリダニ、イネ科(カモガヤ)またはカバノキ科花粉などが原因で、春季に花粉症症状を有する例でも、スギ、ヒノキだけでなくチリダニ、イネ科およびカバノキ科花粉の感作を検査する必要があると報告されています9)。
3. 原因食物
特殊型食物アレルギーの診療の手引き2015には、花粉の感作に関係なく何らかの食物で口腔アレルギー症状を起こした179例の原因食物の集計の結果が掲載されています。リンゴ(13.2%)、モモ(11.2%)、キウイ(10.2%)、メロン(7.0%)、大豆(5.2%)サクランボ(3.7%)、バナナ(3.7%)の順に頻度が高いと報告され10)、表1に挙げたカバノキ科花粉との交差が強いとされるバラ科(リンゴ、モモ、サクランボ)、キウイ、マメ科が多く、そのほとんどがPFASと考えられます。
4. アレルゲンコンポーネント
多くのコンポーネントがPFASに関与します(表1)。
PFAS例の半数以上がPR-10によるバラ科果実、キウイ、豆類のPFASです11)。欧州では、カバノキ科に属すヘーゼルナッツも頻度の高い原因といわれています12)。
次いで多いのが、プロフィリンによるウリ科のメロン、スイカのPFASです。プロフィリンはすべての真核細胞に存在し、細胞骨格の形成に関与するタンパクであり、多種の花粉がプロフィリンの感作源になる可能性があります13)。Phl p 12(オオアワガエリ花粉プロフィリン)は、科を越えた花粉中および果実・野菜中のプロフィリンと75%以上の相同性があると報告されています。なお、4種以上の花粉感作例において、プロフィリンによるPFAS(メロン、スイカ)を発症する可能性が高くなることが報告されています14)。
ソーマチン様タンパク(TLP、PR-5)も、多種の花粉、果実中に含まれています15)。スペインにおいて、果実アレルギーまたは花粉症例を対象に種々のTLP感作を調べた結果、モモ(41%)、クリ(24%)、プラタナス花粉(22%)の頻度が高く、TLPも重要なPFASの原因コンポーネントになると報告されています15)。小麦粉中のTLPに経気道的に感作され、バナナ、ブドウ、赤ワイン、クリなどのTLPによるアナフィラキシーを発症したパン職人喘息例も報告されています16)。キウイ、リンゴのTLPは消化、加熱およびpHに耐性なので、全身性の誘発症状にも関与する可能性があります17,18)。なお、本邦で最も重要な花粉であるヒノキ科においては、スギ花粉症の約30%がTLP(Cry j 3)に感作されているとの報告があるほか19)、大気汚染地域のアリゾナヒノキの花粉にTLP(Cup a 3)含有量が増加すると報告されています20)。
全身症状に関与する脂質輸送タンパク(LTP、PR-15)感作例は日本ではあまり見られません。LTPは多種の花粉中にみられますが、感作源は、果実(モモ)と考えられています。これは、地中海地域およびそれ以外の地域でも確認されています21,22)。
ここで触れたコンポーネントのうち、PR-10以外は花粉中のマイナーアレルゲン(当該花粉感作例の50%未満が感作されているもの)です。しかし、プロフィリン、TLPなどは、多種の花粉に共通するホモログコンポーネントなので、複数の花粉感作例ではPFASも有している可能性が高いと考えられます。
5. 誘発症状
PFASの症状は多くの場合口腔咽頭症状のみで、花粉飛散期以外であれば摂取可能な例も少なくありません。また、新鮮な果実・野菜で症状を起こしますが、加熱すればほとんどの例が摂取可能です。しかし、豆類、とくに豆乳など大豆製品によるPFASは、血管浮腫、呼吸器症状をともないます23)。その他、強い咽頭浮腫のため呼吸困難で救急外来を受診したスギ花粉症PFAS例24)、花粉症からPFASを発症し、原因食物の種類が年々増え重症化した例など25.26)、豆乳以外での重篤なPFASも認められます。福冨らは、多種食物の重症PFAS 5例を対象に、多項目コンポーネント特異的IgEを測定した結果、PR-10およびプロフィリン感作が強く、全身症状に関連するとされるLTP感作は認められず、誘発症状はアナフィラキシー、下部消化器症状などであったと報告しました27)。このことから、PR-10またはプロフィリンでも重篤な症状を誘発する可能性が考えられます。最近、イネ科花粉に強く感作されたメロン、スイカなどによるPFASにおいて、プロフィリンそのもの(Pho d 2)の2重盲検経口負荷試験によって、プロフィリンが口腔咽頭症状のみならず、重篤な症状の原因となることが確認されています28)。
6. 診断および指導
疑われる食物摂取時の誘発症状および当該食物の特異的IgE検査またはprick-to-prickによる感作の確認によって診断します。特にPR-10が原因のPFASでは、粗抽出エキス特異的IgE検査が陰性となることがあります。これは粗抽出エキス中にPR-10コンポーネント含有量が少ないためと考えられ、PR-10コンポーネントそのものの特異的IgE検査が有用となります。実際、大豆PFAS例で粗抽出エキス特異的IgEが陰性でGly m 4特異的IgE検査が陽性となる例が認められます。このようなことから、頻度の高いリンゴ(Mal d 1)、モモ(Pru p 1)、キウイ(Act d 8)などのコンポーネント特異的IgE検査が期待されています。
同時に季節性の鼻炎および結膜炎症状の有無を聴取し、感作が疑われる花粉の特異的IgE検査を実施します。PFASでは、鼻炎または結膜炎症状がない例も認められるので、食物摂取後の誘発症状の好発時期を参考にして花粉特異的IgE検査を実施します。
指導においては、果実の摂取を避けること、とくに感作されている花粉の飛散期の摂取に注意することを促します。花粉特異的IgEが上昇するとPFASの症状が誘発される可能性が高くなるので、感作花粉飛散期には外出を避け、外出時にはメガネ、マスクなどの着用を勧めます。
最後に、PFASをはじめ成人においても食物アレルギーは少なくありません。成人食物アレルギーの診断または研究には、コンポーネント特異的IgE抗体測定が非常に有用です。今後、多くのPFAS関連コンポーネント特異的IgE検査試薬の開発が期待されています。
監修) 福冨 友馬 先生
国立病院機構相模原病院
1. はじめに
日本アレルギー学会および米国アレルギー・喘息・臨床免疫学会では、昨年、石坂らのIgE発見1)から50年を記念して特別講演または雑誌にて特集が組まれました。
今年は、Wideらが、最初の特異的IgE測定系である‘RAST’(Radioallergosorbent test)の原理を発表してから50年になります2)。
本稿では、特異的IgE検査の変遷について概説します。
2. レアギンからIgE
魚のタラ摂取で蕁麻疹と喘息を発症するKüstnerの血清をPrausnitzに皮内注射して、24時間後に同じ部位にタラのエキスを投与しました。その20分後、投与部位に膨疹を認めることから、血清中に受身転与可能な皮膚感作抗体の存在が示され、この結果が、1921年に報告されました3)。この方法が、特異的IgE検査以前に実施されていた特異的IgE検出法であるP-K反応です。その後、本抗体は種々のアレルギー性疾患患者にも認められ‘レアギン’と呼ばれていました4)。
レアギンが免疫グロブリンのいずれのクラスに属すのか40年以上の間不明でしたが、ついに、1966年に石坂らは、ブタクサ枯草熱患者血清からレアギン活性を有する未知の免疫グロブリンを精製してγEと名付けました1)。
同時期にJohanssonらは、γEと同様な物理・化学・免疫学的性質の免疫グロブリンを産生する骨髄腫患者を発見し、これをIgNDと命名しました5)。その後、γEとIgNDは同一の新規免疫グロブリンであることがわかり、1968年に5番目の免疫グロブリン‘IgE’として、世界保健機構(WHO)により統一されました6)。
3. IgE発見から特異的IgE検査
Johanssonらは、精製IgNDを用いて抗血清を作製し、IgNDのラジオイムノアッセイ系を確立しました。多数例の血漿を対象にIgNDを測定したところ、喘息患者で高値となることを見出しました7)。本測定系は‘RIST ’(Radio immunosorbent test)と呼ばれ、1972年にファルマシア社(現サーモフィッシャーダイアグノスティックス)が、最初の総IgEの日常検査(Phadebas RIST)として発売しました。次いで、Wideらは、14種類のアレルゲン特異的IgEの測定系も確立し、その結果を1967年にLancetに掲載しました2)。
Wideらが確立したRASTは固相にセファデックス粒子を使用しており、手技が煩雑であったことから、ファルマシア社は、固相をペーパーディスクに変更し、1974年に日常検査で使用できる最初の特異的IgE検査‘Phadebas RAST’を発売しました。
Phadebas RASTは皮膚試験に比較して検出感度が劣るとの指摘を受け、1989年、固相にアレルゲン結合能力が高いセルローススポンジを用いた‘Pharmacia CAP System’(CAP-RAST)を発売しました8,9)。CAP-RASTは測定範囲内の検体中の当該特異的IgEを90%以上捉えられ、検出感度が皮膚試験と同等となるとともに、Phadebas RASTに比較してより定量的に特異的IgEを測定することが可能になりました。このため、特異的IgE検査結果をクラスではなくUA/mLで評価するようになり、Phadebas RASTではできなかった異なるアレルゲン間の抗体価の比較も可能になりました8-12)。
4. 粗抽出抗原からアレルゲンコンポーネント
1995年にCAP-RASTの測定機器を自動化しました。これにともなって試薬も軽微な改良を加え、現在の‘イムノキャップ’に至ります。同時に研究用として、Bet v 1、Bet v 2、Phl p 1、Phl p 2およびPhl p 5のアレルゲンコンポーネント(コンポーネント)のイムノキャップを発売しました。今では約100種類のコンポーネント特異的IgE検査が可能で(図)、本邦ではそのうち8種類が日常検査に供されています13,14)。
また、2009年に20μLという少量の血清または血漿で、103種類のコンポーネント特異的IgEが同時に測定可能なプロテインマイクロアレイ、‘ImmunoCAP ISAC’を研究用試薬として販売いたしました15)。現在は、30µLで112種類のコンポーネント特異的IgE測定が可能です。
サーモフィッシャーダイアグノスティックス社内資料
図 コンポーネントイムノキャップの数の変遷
特異的IgE検査結果の解釈がより定量的になり、さらに、プロバビリティカーブやコンポーネント特異的IgE検査などが進歩してきましたが、現在でも原因アレルゲンの診断、とくに食物アレルギー領域において、問診や負荷試験が重要であることは変わりません16)。しかし、プロバビリティカーブやコンポーネント特異的IgE検査は、負荷試験を実施しなければならない患者数を減ずることが可能となるので13,14,16)、さらなるアレルゲンにおいて、これらの作成および開発が望まれており、これに答えるべくサーモフィッシャーダイアグノスティックス(株)は努力してまいります。