アレルギーメールニュース 2017 年 6 月号
サーモフィッシャーダイアグノスティックス株式会社 発行
1. はじめに
イネ科は、スギ、ヒノキに次いで頻度の高い花粉症の原因です。イネ科植物は、田畑、農場、牧場のみならず、道端、線路際、高速道路際、荒地、河川敷、公園、校庭、広場など身の回りで雑草として繁茂し、4月から11月の8ヶ月間にいずれかのイネ科植物が開花します。イネ科の花粉間には極めて強い交差性が認められるので、私たちは高頻度にイネ科花粉に曝露されています。このため、ヒノキ科樹木に比較して、花粉飛散量が少なく、また飛散距離も短いにも関わらずイネ科花粉感作頻度が高く、イネ科花粉は、花粉症において重要な原因になっています。
2. アレルゲングループ
以下のイネ科花粉アレルゲングループが報告されています。この中で、グループ1、4および5が主要アレルゲンとして知られています1-3)。
表1. イネ科花粉アレルゲン1-3)
グループ7は、イネ科花粉同士のみならず樹木および他の雑草花粉のポルカルシンとの強い交差性が認められます。グループ11は、オリーブ花粉の主要アレルゲンOle e 1(トリプシンインヒビター)のホモログタンパク質です。グループ12のプロフィリンは植物間で広範な交差性を示しますが、イネ科花粉中の含有量が他の花粉に比較して多いと報告されています4)。グループ13は、スギ花粉の主要アレルゲンCry j 2と同じ生物活性を持つPolygalacturonaseファミリーに属します。グループ6はオオアワガエリ花粉のみ、グループ22および24はギョウギシバ花粉で同定されています1,2)。
3. 交差性
グループ1およびグループ4アレルゲンの抗原性が、イネ科花粉間で極めて類似しているため、イネ科花粉特異的IgE陽性血清による相関性が高く、イネ科花粉間において強い交差性を認めます1,2)。
イネ科花粉中には、汎アレルゲンとなるコンポーネントが存在します。プロフィリンは、広範な植物間の交差性に関与します。ポルカルシンは、樹木およびブタクサ、ヨモギなどの雑草花粉との交差性に関与します1,2,4)。
イネ科花粉中のプロフィリン含有量が、他の花粉に比較して高いことが報告されています4)。また、プロフィリンは、メロン、スイカなどのウリ科果実・野菜のアレルゲンと知られ、イネ科花粉症において、ウリ科の花粉‐食物アレルギー症候群(PFAS)の頻度が高いと考えられます5)。
4. 臨床症状
花粉症以外にもイネ科花粉によるアレルギーが知られています。とくに、花粉の吸入または接触で重篤な症状を呈することがあり、注意を要します。
イネ科花粉症の約10%がウリ科のPFASを合併し、原因はプロフィリンと報告されています6,7)。その他に、バナナ8)、パイナップル8)、トマト9)、キウイ10)、柑橘類11)、ニンジン12)などのアレルギーの原因の一部がプロフィリンと考えられています。最近、プロフィリンが、口腔症状のみならず呼吸器および消化器症状などの比較的重篤な症状を誘発することが報告されています6)。また、多種類の花粉感作例は、プロフィリンに感作されている可能性が高いことが示されています4-7)。
イネ科花粉は湿気に接触すると浸透圧により内容物を澱粉粒とともに放出します。花粉の粒子径は20-30μmと下気道まで到達しませんが、微細化した花粉は、粒子径が0.12-4.67 μmと下気道まで到達する可能性があります13,14)。また、プロテアーゼ活性を持たないPhl p 1(オオアワガエリグループ1アレルゲン)は、ヒト気道上皮細胞に対してプロテアーゼ受容体を介さずに刺激して、TGF-β、IL-6、IL-8などを発現および遊離させることが示されています15,16)。これらのことから、イネ科花粉が、喘息の発症、慢性化、重症化に関与する可能性があると考えられます。
実際、イネ科花粉感作例において、イネ科花粉曝露とFEVの低下が相関すること17)、イネ科花粉飛散量増加と喘息による救急外来受診のリスクが上昇することが18,19)、報告されています。
国内外でイネ科花粉の吸入または接触でアナフィラキシーを起こした例が、報告されています20-24)。イネ科花粉症の例は、とくに、河川敷、田畑などイネ科植物が繁茂している場所、イネ科植物の草刈をしている傍などで大量の花粉の吸入、農場や芝生などでの接触には注意が必要です。また、イネ科花粉の舌下免疫療法において、初回舌下錠服用でアナフィラキシーを起こした重症イネ科花粉症例も報告されています25)。
表2. イネ科花粉によるアナフィラキシー20-25)
5. まとめ
ヒノキ科花粉症に次いで頻度の高いイネ科花粉症は、比較的重篤で、花粉症のみならず、喘息や、稀に花粉の吸入または接触によりアナフィラキシーを起こします。
また、カバノキ科花粉症に次いでPFASの頻度が高く、プロフィリンが原因のウリ科の果実・野菜によるPFASを多く認めます。最近、プロフィリンによる呼吸器または消化器症状を呈したPFASが報告されています。未だ、日常検査ではプロフィリンの特異的IgE検査は実施できませんが、プロフィリンの広汎な交差性から、多種の花粉の感作を確認することでプロフィリン感作を推定することが可能です。
監修) 福冨 友馬 先生
国立病院機構相模原病院
1. はじめに
日常診療で多項目同時特異的IgE検査が実施されています。しかし、問診による誘発症状や誘発歴の情報なしに、皮膚試験や特異的IgE検査により感作を調べると、陽性的中率は50%、陰性的中率は90%と報告されています1-3)。すなわち、検査が陰性の場合、ほぼ原因アレルゲンを否定できますが、検査が陽性の場合、半数は当該アレルゲンで症状が誘発されない可能性があります。したがって、多項目同時特異的IgE検査などを実施して陽性となった場合は、再度詳細な誘発歴を問診で聴取する、アレルゲンコンポーネント特異的IgE検査をはじめ他の検査による精査を実施するなど、十分な配慮が必要です。問診による誘発歴の情報とアレルギー検査結果を組み合わせることで、陽性または陰性的中率が高くなることが報告されています1-4)。
一方、出生コホート、喘息発症予知、種々のアレルギー性疾患の病態などの臨床研究において、多項目同時特異的IgE検査ではありませんが、多種アレルゲンに対する特異的IgE測定が実施され、その抗体価や感作アレルゲン数とアレルギー性疾患の発症や病態などの関連が報告されています。ここでは、その結果の一部を紹介します。
2. 出生コホート研究
PARISコホート5) において、18ヶ月齢の1860例から採血し、12項目の食物および4項目の吸入アレルゲン特異的IgEを測定し、アンケートにより得た生活様式や環境などの状況と比較しました。何らかの特異的IgE検査が陽性になったのは13.8%、食物が12.3%および吸入が2.3%で、2項目以上の感作が認められたのは6.2%でした。男児、アレルギー性疾患の家族歴、高出生体重および帝王切開の項目が、食物アレルゲン感作、多項目感作に関連しました。ネコが乳児の部屋に出入りしている場合は、吸入アレルゲン感作に強く関連し(オッズ比3.21 95%信頼区間 1.29-8.01)、6ヶ月齢以降の肉類の摂取は、食物アレルゲン感作と逆相関(オッズ比0.46 95%信頼区間 0.24-0.91)したと報告されています。
BAMSEコホート6) において、4歳時に採血された2612例を対象に14種の吸入および食物アレルゲン特異的IgE検査を実施し、アレルギー性疾患(喘息、鼻炎、湿疹、消化器)の発症との関係が調査されました。感作アレルゲン数が多く、またその抗体価の総和が高いほどアレルギー性疾患発症率が高く、3次元プロバビリティカーブから、6アレルゲン感作で総和が86 UA/mLまたは8アレルゲン感作で総和が32 UA/mLの時のアレルギー性疾患発症確率は、それぞれ90%でした。
Manchester Asthma and Allergyコホート7) において、5歳の時点での喘鳴を呈するリスクは、チリダニ、ネコおよびイヌ特異的IgE抗体価の上昇に応じて有意に高くなり、これら3項目の特異的IgE抗体価の総和が10 UA/mLの時のオッズ比は3.1、30 UA/mLで4.25でした。また、肺機能の低下にも同様な結果が認められました。また、3歳時点のこれら3項目の特異的IgE抗体価の総和と5歳時での持続的な喘鳴を呈するリスクが検討され、抗体価の総和の上昇にともない、持続的な喘鳴を呈するリスクが上昇すると報告されています。
3. 喘息の病態
PEAK study8) の対象、すなわち、2-4歳の喘息発症リスク患児に対して、多項目のアレルゲン感作を調べたところ、60.7%が吸入、食物または両者に感作が認められ、男児においては、有意な吸入アレルゲン感作(p=.03)、血中好酸球数増多(p=.03)および総IgE高値(p=.0004)を認めました。この血中好酸球増多と総IgE高値は、吸入アレルゲン感作に強く相関しました。
喘息発作で入院した478例(4-16歳)の70%は、3項目以上の室内環境アレルゲン特異的IgE(チリダニ、ペット、ゴキブリ、カビ類、げっ歯類)が陽性で、ゴキブリおよびげっ歯類を除くアレルゲンの感作はいずれも50%以上であったと報告されています9)。
小児のアレルギー性喘息125例(平均8.9歳)を対象にして、ダニ、ペット、樹木花粉、雑草花粉などの感作を含む18項目の変数でクラスター分析した結果、4つのクラスター、すなわち、‘多アレルゲン感作かつ重症喘息’、‘花粉感作かつ重症喘息発作発症’、‘多アレルゲン感作かつ軽症’および‘チリダニ単独感作の軽症’に分けられ、多種のアレルゲン感作を調べることが、クラスター分析における重要な因子となることが示されました10)。とくに、‘花粉感作かつ重症喘息発作発症’は、食物アレルギー合併および発作による入院数が最も多い結果でした。他報でもイネ科花粉シーズン中に小児の喘息発作による救急外来受診が増加することが報告されています11)。また、小児の花粉感作例は、花粉飛散期に食物による救急外来受診が比較的多くなるとの報告もあり12)、小児喘息において、花粉に対する特異的IgE検査が重要と考えられます。
4. 喘息以外のアレルギー性疾患
小児(吸入、食物35アレルゲン)13)および成人のアトピー性皮膚炎(AD:吸入、食物25アレルゲン)14)において、多項目の吸入および食物アレルゲン特異的IgEを測定した結果、小児の喘息、AD合併例で、AD軽症9.5個、中等症15.4個、重症23.8個の感作がみられ、同様に成人では、8.9個、11.3個および15.9個となり、ADの重症度と感作アレルゲン数が有意に相関しました。また、ブタクサ花粉症において、9種の花粉特異的IgE検査を実施した結果、4種以上の花粉に感作されている患者の23%が、メロン、スイカなどの摂取で口腔アレルギー症状を呈し、その98%がプロフィリン感作例であったと報告されています15)。
5. まとめ
一般を対象にして多種のアレルゲン特異的IgE測定を実施して、感作アレルゲン数や特異的IgE抗体価結果を評価することは、喘息をはじめアレルギー性疾患発症の予測に有用となり、喘息児、小児ADおよび成人ADを対象にした場合は、重症度を推定することも有用で、花粉症を対象にした場合は、PFASの合併の推定に有用になると考えられます。
よって、多種のアレルゲン特異的IgEの測定は感作アレルゲンの把握のみならず、アレルギー性疾患の発症や病態の推定に利用できる可能性があると考えられます。