アレルギーメールニュース 2017 年 9 月号
サーモフィッシャーダイアグノスティックス株式会社 発行
1. はじめに
アリによる刺傷または咬傷によるアレルギーは、限られたアリ種、すなわち、トフシアリ属、カドフシアリ属、フトハリアリ属、およびヤマアリ属などで知られています1,2)。最近、日本で問題となっているヒアリは、トフシアリ属のSolenopsis invictaです。韓国では、フトハリアリ属のPachycondyla chinensis(オオハリアリ)、P. solitariaによるアナフィラキシー例が報告されています3,4)。本稿では、S. invicta刺傷によるアレルギーおよびそのアレルゲンを中心にヒアリによるアレルギーについて概説します。
2. ヒアリ毒
S. invictaは、1回の刺傷で0.04-0.11μLの毒液(タンパク量として10-100 ng )を注入します5) 。毒液の90-95%は脂溶性のアルカロイド(2-メチル-6-アルキルピペリジンなど)で、これらアルカロイドは、細胞傷害、溶血、抗細菌、殺虫作用があり6,7) 、無菌性膿疱を起こしますが、アレルギー症状の誘発には関与しません。毒液中に0.1% 存在する可溶性のタンパク質が、アレルギーの原因となります8)。これらタンパク質の毒液中の含有量は、他の季節に比べて、夏に100倍以上になるといわれています9,10)。
3. ヒアリ毒のアレルゲン
トフシアリ属の4種、カドフシアリ属の1種およびフトハリアリ属の1種において、アレルゲンコンポーネント(コンポーネント)がWHO/IUISに登録されています(表1)。
表1. アリのアレルゲン
最もアレルゲンが検討されているS. invictaで4種のコンポーネントが登録されています(表2)。Sol i 1はフォスフォリパーゼで、毒中のタンパク質の2-5%と主要アレルゲンとしては含有量は多くありません11)。Sol i 2およびSol i 4の生物活性は不明で、Sol i 3は、スズメバチ(Ves v 5)やアシナガバチ(Pol d 5)と同じ antigen 5 venom ファミリーのタンパク質です12,13)。
表2. S. invictaのアレルゲン
4. 交差性
トフシアリ属のアリ種間において、強い交差抗原性が認められます12,13,14)。4種のトフシアリ属、すなわち、S. invicta、S. richteri、S. xyloni、およびS. aurea間での交差抗原性が、いずれかのヒアリに感作された患者血清を用いたRAST抑制試験およびS. invicta虫体エキスによる皮膚試験により示されています。また、S. invicta感作例において、S. xyloniおよびS. geminateの刺傷でもアレルギー症状の発現が認められ、臨床的な交差性も確認されています。さらに、コンポーネントレベルでも交差抗原性が確認されています。Hoffmanらは、ヒアリ刺傷アレルギーの診断において、S. invictaエキスによる検査のみで十分と考察しています12,13)。
ヒアリはハチ目アリ科トフシアリ属でハチ類と近縁です。コンポーネントレベルでS. invictaとハチ類の交差抗原性が検討されています。Sol i 1は、ミツバチ、アシナガバチおよびスズメバチのフォスフォリパーゼと交差抗原性が考えられています。Sol i 1分子上には糖鎖が存在し、糖鎖がミツバチのフォスフォリパーゼとの交差抗原性に関与しています。アシナガバチおよびスズメバチのフォスフォリパーゼは糖鎖の存在を認めません。Sol i 1とVes v 1、Pol d 1、Dol m 1などとの相同性は33-38%とあまり高くありませんが、Sol i 1とVes v 1の3次構造を比較すると活性中心の構造が保たれ、これが交差抗原性に関与すると報告されています11,14)。しかし、S. invicta以外のトフシアリ属のアリ種はハチ類との交差抗原性を認めません11, 15,16,17)。一方、Sol i 3はスズメバチ、アシナガバチのantigen 5と相同性が44-50%ですが、IgE抗体による交差抗原性は認められていません16,18)。
ハチ類の他、無視できない交差抗原性が、S. invictaとサソリ(Centruroides vittatus)間で示され、ヒアリアレルギー患者ではサソリの刺傷にも注意を要すると報告されています19)。
5. ヒアリ刺傷アレルギー
ヒアリ刺傷直後に、激しく焼けるような痛みおよび痒みが刺傷部位に起こり、紅斑、膨疹に続いて4時間以内に小水疱が生じ、24時間以内に無菌性膿疱(1-3mm)が形成されます20,21)。
刺傷例の17~56%の患者にIgE関与の皮膚症状(膨疹)を認め8,6,22)、5-10%に全身症状23,24)、0.6~16%に致死的なアナフィラキシーが認められ6,9,16,22,25)、死亡例も報告されています26)。また、初めてS. invictaに刺されてアレルギー症状を呈した例もあり、これらの患者は刺傷前にスズメバチ毒に感作されていました6,22)。これは、前述の両者間のフォスフォリパーゼの交差抗原性によるもので、ハチ刺傷歴のある患者は、ヒアリ、特にS. invictaの刺傷にも注意が必要と考えます。
6. さいごに
ヒアリアレルギーについて、S. invictaのアレルゲンを中心とした海外の報告を紹介しました。ヒアリを含むアリ、スズメバチ、アシナガバチ、ミツバチ、マダニ27)、ムカデ28)などの節足動物による刺傷または咬傷は、重篤なアレルギー症状を誘発する可能性があることから、予防のためにもこれら節足動物の生息場所、活動時期の把握が必要です。
監修) 福冨 友馬 先生
国立病院機構相模原病院
1. はじめに
9~10月になると荒地、線路際、河川敷などが黄色く染まるのを良く見かけます。これは、セイタカアキノキリンソウ(セイタカアワダチソウ)で、キク科の虫媒花です。花粉症の原因のほとんどが風媒花ですが、虫媒花であってもアレルギー症状の原因になるケースはあります。例えば、果樹、野菜および生花などの栽培従事者で虫媒花による職業性の花粉症、喘息が報告されています。また、非職業性の虫媒花によるアレルギーの報告も決して稀ではありません。
観葉植物においても職業性アレルギーだけでなく、一般家庭や事務所の室内観葉植物による鼻炎・結膜炎、喘息などの発症や、観葉植物(ゴムの木)の樹液に感作され、ラテックスアレルギーを発症した例も報告されています。
2. 虫媒花によるアレルギー
虫媒花は、職業性アレルギーのみならず1-10)、一般の人でも、花粉症、喘息などの原因となり得ることが報告されています。虫媒花でも、交配にあずからなかった花粉が乾燥して風媒花と同様に花粉を飛散し得るので注意が必要といわれています11)。果樹園や虫媒花の自生地の近くに居住しているために、これらの花粉に高濃度、高頻度で曝露されることでアレルギーを発症すると考えられています。
非職業性の虫媒花によるアレルギーの原因として、セイタカアキノキリンソウ12-14)、クリ15)、サクラ16)、除虫菊17)、タンポポ18)およびリンゴ、モモなどの果樹19,20)が報告されています。また、ヨモギ花粉症の患者において、セイタカアキノキリンソウ、キク、コスモス、ハルジオンなどのキク科虫媒花の接触機会が多ければ、症状の増悪、遷延化を引き起こす可能性があると言われています21)。さらに、ウメの栽培地の住民では、ウメ花粉に対する特異的IgEの陽性頻度は12%と比較的高いことが報告されています22)。
表1. 主な虫媒花によるアレルギー 1-10, 12-22)
3. 虫媒花の空中花粉飛散数
リンゴ、モモ、ナシなど果樹花粉で、空中花粉数の算定の報告が多数あります1-4,22,23)。リンゴ花粉では、1km離れた場所でも花粉が検出されるそうです23)。果樹の種類・品種、年度によって、花粉飛散数は変動しますが、1日の飛散数のピークが、10~130個/cm2、1年の総飛散数18~726個/cm2といわれています1,18,23)。また、除虫菊の栽培畑において、花粉が100個/cm2/日以上観測されています24)。
ブナ科のクリは虫媒花といわれていますが、ハンノキなどと同様な尾状花序の花を着けます。乾燥した状態で花粉を飛散する可能性も考えられており、実際に、クリ栽培地付近の地上1.2mの地点では、1日に200個/cm2以上の花粉が観察され、同時に算定された15.5mの地点に比較して10倍以上で、栽培地の付近では相当数の花粉が観測されますが、広範囲に飛散しないと考えられています25)。
4. アレルゲン・交差性
バラ科の果樹花粉の抗原性がRAST抑制試験により検討され、同一亜科内(モモ亜科*、ナシ亜科**)では強い交差性が、亜科間では抗原性が異なることが示されています。また、サクランボ、モモなどモモ亜科果樹花粉とサクラの間にも強い交差性が示されています19)。
*モモ亜科:アーモンド、アンズ、ウメ、サクラ、スモモ、キクモモ、サクランボ など
**ナシ亜科:リンゴ、モモ、ビワ、カリン など
キク科の虫媒花(セイタカアキノキリンソウ、フランスギク、タンポポ、コスモスなど)および風媒花(ヨモギ、ブタクサ)の花粉間にも一部交差性が認められます26,27)。キク科虫媒花の花粉の抗原性はブタクサよりもヨモギに近く26)、ヨモギ花粉症患者では、ヨモギの開花時期以外にも、これらキク科虫媒花の花粉に反応する場合があると報告されています21)。また、セイタカアキノキリンソウを蜜源とするハチミツの摂取や食用菊およびフキノトウ摂取で、アナフィラキシーを生じたヨモギ花粉感作例が報告されており、これらの原因はキク科花粉間の交差性によると考えられています28,29)。
クリ花粉症14例のうち、13例はCas s 1(生体防御タンパク-10:PR-10)に、2例がプロフィリンに感作されていたとの報告があり30)、クリはこれらアレルゲンコンポーネントを介して、ハンノキ、コナラをはじめブナ目(カバノキ科、ブナ科)の花粉と交差性を有すると考えられます31,32)。実際に、クリのCas s 1は、Bet v 1と相同性が高く、抗原性も同等と報告され33)、カバノキ科花粉症や花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)では、クリ花粉も増悪因子として注意が必要と考えられます。
5. 観葉植物によるアレルギー
1985年にAxelssonらは、観葉植物に使用されるFicus benjamina(ベンジャミン:クワ科イチジク属)が、職業性および室内環境アレルゲンとして重要と報告しました34,35)。ベンジャミンの葉に付着・乾燥した樹液を室内埃とともに吸入または接触することで、鼻炎、喘息、ラテックスアレルギーを発症すると考えられています。
実際に本邦でも、自宅の観葉植物により樹液タンパクに感作され、歯科治療中にラテックスによるアナフィラキシーを生じた小児例が報告されています36)。
その後、ベンジャミン(ゴムの木の仲間)以外の観葉植物、すなわちトラデスカンディア(ツユクサ科ムラサキツユクサ属)、ユッカ(キジカクシ科イトラン属)、キズタ(いわゆるアイビー、ウコギ科キズタ属)、および観賞用のヤシ(ヤシ科チャメドレア属)でも鼻炎、結膜炎、喘息例が報告されています37,38)。Mahillonらは、自宅に観葉植物を所有する通年性アレルギー性鼻炎59例において、46例(78%)が観葉植物にアレルギーがあったことから、観葉植物も室内アレルゲンのひとつとして念頭におくべきと述べています38)。
6. さいごに
虫媒花は広範囲に花粉を飛散させることはなく頻度は高くありませんが、果樹園や虫媒花の自生繁茂している近くの居住者では、これらの花粉にアレルギーを認めることがあります。日常診療において、鼻炎、結膜炎、喘息の原因または増悪因子になる虫媒花として、セイタカアキノキリンソウ、クリ、バラ科果樹、サクラなどを、念頭におくことも必要です。一方、室内の観葉植物が、鼻炎、喘息、ラテックスアレルギーなどの原因になる可能性があることにも注意すべきと考えられます。