アレルギーメールニュース 2018 年 6 月号
サーモフィッシャーダイアグノスティックス株式会社 発行
1. はじめに
春には多くの樹木が開花し花粉を飛散させます。1月にはカバノキ科のハンノキ、2月にはヒノキ科スギ亜科のスギが開花し、3月に入るとヒノキ科ヒノキ亜科のヒノキ、サワラ、ネズミサシ、ビャクシンが、4‐6月にはブナ科のコナラ、クヌギ、ブナが続いて開花します1)。ヒノキ科は裸子植物の中で最も種類が多く、中でもヒノキ亜科は最大のファミリーです。主なヒノキ亜科には以下の表に示すものがあります。
表1. 主なヒノキ亜科樹木
欧州ではイトスギ属のアリゾナイトスギ、ホソイトスギ、米国南部ではアリゾナイトスギ、ビャクシン属のマウンテンシダーが、花粉症の原因として知られています2,3)。
2. ヒノキ亜科樹木の花粉症
欧州の南仏および北伊では、1-3月にホソイトスギ、アリゾナイトスギが開花します。これら花粉は冬の花粉症の原因として知られ、本花粉症は近年増加しています3-5)。
本邦のヒノキ植林面積は東北、関東および九州以外の地域ではスギよりも広く、また1975年以降は、全国でスギよりもヒノキが多く植林されてきました。樹齢25年以上になると花粉の産生が盛んになるので、今後のヒノキ花粉症の増加が危惧されています6)。
スギ花粉症例の60‐70% がヒノキ花粉にも感作されていますが、この感作はスギとヒノキの交差性によると考えられていました7,8)。堀口らは、スギ花粉症をヒノキ花粉感作の有無により2群に分け、この2群間のヒノキ花粉飛散期の‘症状薬物スコア’を比較しました。ヒノキ感作群で有意にスコアが高く、非感作群では同期間でスコアの変動を認めなかったことから、スギ花粉症例をヒノキ感作の有無により区別して検討することが重要と述べています7)。また、スギの舌下免疫療法はスギ花粉飛散期の誘発症状には有効ですが、ヒノキ花粉飛散期には効果が弱く、ヒノキ花粉症とスギ花粉症は、互いに区別した花粉症としての検討が必要といわれています6,9)。
3. ヒノキ科樹木のアレルゲン
ヒノキ(Chamecyparis obtusa)のCha o 1、Cha o 2、Cha o 3、ホソイトスギ(Cupresus sempervirens)のCup s 1、Cup s 2、Cup s 3、アリゾナイトスギ(Cupresus arizonica)のCup a 1、マウンテンシダー(Juniperus ashei)のJun a 1、Jun a 2、Jun a 3などがWHO/IUISに登録されています(下表)。
表2. ヒノキ科花粉の主なアレルゲン
ヒノキ科のグループ1は、Pectate lyase(PL)、グループ2は、Polygalacturonase(PG)、グループ3は、Thaumatin-like protein(TLP)で、それぞれ、スギのCry j 1、Cry j 2およびCry j 3のホモログです2,10)。ただし、ヒノキのCha o 3はTLPではなくCellulaseとして登録されています11,12)。その他に、Polcalcin(カルシウム結合タンパク)、Isoflavone Reductase(IFR)、Lipid transfer protein(LTP)などが報告されています13-15)。最近、ホソイトスギ花粉中のBP14タンパクがsnakin/gibberellin regulated protein(GRP)であったと報告されました16)。
4. 交差性
ヒノキ科、キク科花粉でPLが同定されており、ヒノキ科のPLはいずれも主要アレルゲンで相互に強い交差性があります。イトスギ属のホソイトスギ(Cup s 1)、ビャクシン属のマウンテンシダー(Jun a 1)、スギ属のスギ(Cry j 1)、キク科のヨモギ(Art v 6)およびブタクサ(Amb a 1)のPLは、交差抗原性の検討により4つのクラスター、すなわち、Cup s 1/Jun a 1、Cry j 1、Art v 6およびAmb a 1に分けられると報告されています17)。安枝は、Cry j 1とCha o 1の交差抗原性をスギ花粉症患者血清により検討し、両アレルゲンに対する特異的IgE抗体価には強い相関(r=0.823)があるものの、Cry j 1の抗体価が全体に高く、また、Cry j 1強陽性でCha o 1陰性例が認められることを報告しています2)。植物由来食物のPLの存在に関する報告はありません。
PGはヒノキ科のグループ2主要アレルゲンですが、ヒノキ科以外のイネ科、スズカケノキ科(プラタナス)花粉にも存在します18,19)。花粉以外にトマト果肉、ナタネの種子のPGが同定されています20-22)。PGもヒノキ科内での花粉間の交差性に強く関与するアレルゲンコンポーネントです。安枝は、前述のPLと同様にCry j 2とCha o 2の交差抗原性を検討した結果、相関係数0.914と強い相関を認め、全体にCry j 2の特異的IgE抗体価がCha o 2よりも高く、少数ながらCry j 2陽性でCha o 2陰性の例を認めると報告しています2)。
TLPは生体防御タンパクのひとつで(PR-5)、高速道路沿いに植えられているホソイトスギでは、花粉中のTLP(Cup s 3)の発現が増強されることが報告されています23)。ヒノキ科、カバノキ科、スズカケノキ科(プラタナス)、モクセイ科(オリーブ)、キク科の花粉、リンゴ、モモ、キウイ、バナナ、ブドウなどの果実、クルミ、クリ、ピーナッツ、小麦などの種実類にTLPが認められ、花粉‐食物アレルギー症候群(PFAS)の原因になる可能性が報告されています24)。また、TLPは熱、消化に耐性なため、食物アレルギーの症状は、口腔症状に留まらず全身症状を認めます25-27)。
欧州において、ホソイトスギ花粉症でモモアレルギーを合併することが知られ、両者の交差性成分はLTPまたはTLPと考えられていました28-30)。最近、仏のグループが、ホソイトスギ花粉からGRPと同定したBP14タンパクとモモ(Pru p 7)、オレンジ(Cit s 7)、カカオGRPおよびジャガイモsnakin-1、との類似性を示しています16)。また、GRPはモモ、梅、柑橘類の即時型全身症状に関連するコンポーネントで31,32)、LTP感作頻度が低い本邦では、GRPがバラ科果実類、柑橘類の即時型全身症状の原因アレルゲンと考えられています33)。
Polcalcinは、ヒノキ科、カバノキ科、モクセイ科、イネ科、キク科に存在し、これら花粉間には強い交差性が認められます34)。多種の花粉に感作されている例は、Polcalcin、プロフィリンまたはCCD(cross-reactive carbohydrate determinants)による交差性が関与していると考えられ35,36)、多種の花粉感作例の10%がポルカルシンに、20%がプロフィリンに感作されていると報告されています36)。植物由来食物にPolcalcinが存在するという報告はありません。
Isoflavone reductase (IFR)は生体防御タンパクのひとつで、スギ、カバノキ科、モクセイ科の花粉に認められ、種々のストレスにより発現が増強されます。IFRは、リンゴ、ナシ、オレンジ、マンゴ、レイシ(ライチ)、柿などでも認められます14,37,38)。
スギのIFRは、マツのIFRと高い相同性(73%)が認められ、その他、大豆(62%)、ジャガイモ(60%)のIFRとも構造が類似し、スギ花粉症患者の76%にIFRに対する特異的IgEが検出されると報告されています14)。シラカンバ花粉IFRであるBet v 6には種々の花粉、植物由来食物のIFRと56-80%の相同性があると報告されています38)。
5. さいごに
ヒノキ科、とくにヒノキ属、イトスギ属、ビャクシン属のアレルゲンについて概説しました。カバノキ科、イネ科、キク科などの花粉と果実、野菜などとの交差性が検討されて来ました。これら花粉のみならず、ヒノキ科の花粉においてもMolecular Allergology 39,40) の進歩により植物性食物との交差性が、今後、明らかになると思われます。
監修) 福冨 友馬 先生
国立病院機構相模原病院
1. はじめに
ヒノキは、1975年以降に植樹面積がスギを上回り、現在、これらのヒノキが花粉を産生する樹齢になってきていることから、ヒノキ花粉症の増加が危惧されています。また、ヒノキ花粉症はスギ花粉症と区別して評価すべきとも指摘され、ヒノキは重要な花粉症の原因のひとつです1-3)。
ヒノキ花粉曝露で症状が誘発される例の中にThermo Scientific™ イムノキャップ™ t24ヒノキ(旧t24)の陰性例が、少なからず認められることから、旧t24の臨床的感度の不足が指摘されていました4)。これを受けて、サーモフィッシャーダイアグノスティックス社は、旧t24を改良したイムノキャップ特異的IgE t24 ヒノキs(新t24)を開発しました。
2. 新旧t24の相関
新t24に使用しているヒノキアレルゲンエキスは、ヒノキ(Chamecyparis obtusa)花粉の主要アレルゲン(主にCha o 1、Cha o 2)が5)、旧t24よりも効率よく抽出できる条件で調製しています。図1に旧t24 と新t24 の相関を示します。
線形一次回帰分析の結果、相関係数r=0.977と良好な相関を示しますが、回帰式の傾きより新t24 の結果は旧t24に比較して、統計学的に70% 程度高くなります。また、同様な相関結果が、日常診療検体でも報告されています6)。
さらに、低濃度域(≦10 UA/mL)において、旧t24が陰性(0.35 UA/mL)の1例は新t24で0.59 UA/mLに、疑陽性(0.35‐0.7 UA/mL)の8例は、全例0.7 UA/mL以上となりました(図2中の○に囲まれた部分)。
3. 乖離検体の精査
上記相関試験で結果が乖離した9検体のCha o 1およびCha o 2に対する特異的IgEを測定しました(表1)。
表1. 乖離例のCha o 1、Cha o 2特異的IgE抗体
いずれの乖離検体においてもCha o 1またはCha o 2の少なくとも一方に対する特異的IgE抗体の存在が認められ、旧t24よりも新t24は高感度に検体中の抗ヒノキ特異的IgEを捉えていることが示されました。
なお、Cha o 1およびCha o 2はサーモフィッシャーダイアグノスティックス社で精製・単離したものをイムノキャップに固相化した実験室レベルのイムノキャップを用いて特異的IgEを測定しました6)。
4. 特異度の確認
ヒノキ花粉感作例は、90%以上Cha o 1またはCha o 2の少なくとも一方に特異的IgEが陽性を示します。Cha o 1およびCha o 2特異的IgEが陰性の8検体を新旧t24で測定した結果、いずれの検体も両t24で陰性を示しました(表2)。
また、臨床症状(鼻・結膜炎、喘息、口腔アレルギー症状等)のない非アレルギー例102例において、新旧t24ともに全例陰性を示しました(サーモフィッシャーダイアグノスティックス社社内データ)。
表2. 陰性検体の新t24および旧t24での測定結果
5. さいごに
新t24は、特異度を保持したまま、検体中の抗ヒノキ特異的IgEを捉える検出能力が、旧t24に比較して高くなりました。実際に、旧t24が陰性のヒノキ花粉曝露試験で症状を示した56例で新t24が陽性となることが認められ、新t24の臨床的感度の向上が報告されています(旧t24:80.4%→新t24:89.3%)6)。