アレルギーメールニュース 2019 年 6 月号
サーモフィッシャーダイアグノスティックス株式会社 発行
1. はじめに
皮膚糸状菌症(白癬)は最も頻度の高い皮膚真菌症で、日本での推定患者数は2,000万人を越え、加齢とともに罹患率は増加します1,2)。皮膚科外来初診の12%が真菌による感染症で、そのうちの88%が白癬といわれ3)、海外でも高齢化が進む中で患者数が増加して問題となっています。主な本症の原因菌は、ヒトに寄生するTorichophyton rubrumおよびT. mentagrophytes var. interdigitaleです。近年、国際試合に参加した柔道、レスリングなどの格闘技選手の間で集団感染後、低年齢層の選手を介して学校、家庭などで流行し社会問題となった、中南米の頭部白癬の原因菌T. tonsuransによる白癬も増加しつつあります4)。また、ペットに寄生するMicrosporum canis、およびT. mentagrophytes var. mentagrophytesもヒトに感染することがあります5)。白癬は、菌が寄生している部位によって、頭部白癬、体部白癬、股部白癬、足白癬、爪白癬に分類され、まれに菌が真皮、皮下組織、内臓に寄生する深在性白癬も知られています。最も頻度が高いのが足白癬、次いで爪白癬です1-3)。
本稿では、常在菌である白癬菌とアレルギー疾患について概説します。
表1. 主な皮膚糸状菌
2. 白癬菌とアレルギー性疾患
1949年に慢性白癬患者にアレルギー歴が高頻度に認められることが報告されていました6)。白癬患者において、アトピー素因*の有無に関らず白癬菌に対する特異的IgEが陽性になることが報告され、同様な結果が多数追試されています7-10)。
1930年に白癬菌の関与する喘息例が報告され11)、1980年にJonesは、アレルギー性鼻炎または喘息において、慢性白癬菌感染に関連して総IgEおよびTrichophyton特異的IgEが上昇することを示しています(atopic-chronic dermatophytosis syndromeと提唱)12)。また、2003年に気道アレルギーを有する4,962例において、7菌種**の感作を調査した結果、19.1%に少なくとも1菌種の感作が認められ、その10.2%にTrichophyton感作が認められました。真菌単独陽性例を認め、その菌種は、Alternaria、CandidaおよびTrichophytonで、これら3種が主要感作真菌と述べられています13)。
*:アレルギー疾患の家族歴を有し環境アレルゲン感作
**:Alternaria、Aspergillus、Candida、Cladosporium Penicillium、Saccharomyces、Trichophyton
以上のように、いずれのアレルギー疾患においてもその病態に白癬菌が関与することが報告されています。
Munganらは、白癬の存在は、喘息およびアレルギー素因の有無に関らず白癬感作の重要な因子となること、および重症喘息において最も感作頻度が高いことから、重症かつ非アレルギー性の喘息においては、白癬の所見および白癬菌の感作を確認すべきと報告しています14)。
本邦からMatsuokaらが、喘息の重症度とT. rubrum特異的IgE抗体価および感作率が関連するものの、他のカビを含む環境アレルゲンでは関連が認められないことから、T. rubrum特異的IgE抗体価が独立した喘息の重症度の指標になると報告しています15)。
Wardらは、11例の白癬を持つ高齢発症喘息(アトピー型7例、非アトピー型4例)を対象にフルコナゾール(100mg/日)を10ヶ月間(一部は後半の5ヶ月間)投与した結果、白癬菌エキスの吸入誘発閾値の増加(白癬菌エキスへの反応性の低下)、ピークフロー値の改善が認められ、経口ステロイド頓用がなくなったと報告しました16)。
最近、Wataiらは、喘息長期経過中にAspergillusおよびTrichophytonの新規感作を認め、喘息管理に及ぼす真菌感作の影響を考慮し、新規の真菌感作に注意を払うことが重要と述べています17)。
星らは、介護老人保健施設看護師のトリコフィトン喘息例を報告しています。非アレルギー性喘息と診断されていましたが、病歴からTrichophytonが原因と診断され職場を変えたところ喘息が改善しました18)。
また、podiatrist(足治療医)、ネイリストの職場環境(nail and skin dust)から約10%の施設で白癬菌が検出されること、14%のこれら職業の従事者でT. rubrumの沈降抗体が陽性となること、49%が職場環境において鼻(71%)または眼(41%)の症状を訴えていることが報告されています19-21)。
白癬菌による皮膚試験、特異的IgE検査および鼻誘発試験にて白癬菌による即時過敏反応が確認された通年性の鼻炎8例を対象に、経口抗真菌薬投与が鼻炎および白癬に有効であったと報告されています22)。また、白癬を持つ通年性の喘息では白癬菌エキスの鼻誘発後に気道過敏性が上昇することが報告されています23)。
1967年、Wearyらは白癬を持つ慢性蕁麻疹患者でグリセロフルビンが有効であったと報告し24)、その後、Platts-Millsらが同様な結果を報告しています25)。
最近、白癬を持つ慢性蕁麻疹患者の71.1‐84.9%が、T. rubrum、T. mentagrophytesまたはEpidermophyton floccosrumに感作されており、アレルギー疾患のない白癬(22.2‐33.3%)、白癬を持たない慢性蕁麻疹(2.4‐9.5%)および健常者(すべて陰性)に比較して感作率が有意に高かったと報告されました。また、同時に検討したCandida albicansとこれらの菌に交差性は認められませんでした26)。
Rajkaらはアトピー性皮膚炎において、白癬の有無に関らずTrichophyton即時型皮膚反応陽性頻度が高く、Trichophytonに対する反応は他の空中真菌と相関することから、Trichophyton即時型皮膚反応は、他の空中真菌との交差性によるものと報告しています27)。Scalabrinらは、中等症以上のアトピー性皮膚炎における環境アレルゲン(チリダニ、Alternaria、Aspergillus)および常在菌(Candida、Malassezia、Trichophyton)の感作を検討した結果、検討したいずれのアレルゲンについても、感作率および特異的IgE抗体価が重症度と関連したと報告しました28)。
本邦でも、池澤らは、Candia、MalasseziaおよびTrichophytonの感作率および特異的IgE抗体価の上昇が、成人アトピー性皮膚炎の重症度と関連することを報告し、さらに、Trichophyton感作は、患者自身のみならず家族の白癬の病歴にも関連することから、経皮だけでなく経気道による可能性も考えられると述べています29)。
3. 白癬菌のアレルゲン
白癬菌による感染者は、即時型反応(IH)、遅延型反応(DTH)および2相反応(Dual)を起こすことが報告されています。慢性の白癬患者に高頻度にみられるIHには、特異的IgEおよびIgG4抗体が、Dualにも特異的IgEが、DTHにはT細胞が関与すると報告され、これらの現象は、白癬菌のアレルゲンコンポーネントの同定により明らかになりました。また、非白癬感染者において、皮膚反応にて30%がDTH、23%がIHを示すと報告されています30)。
以下の4種が世界保健機構アレルゲン命名委員会(WHO IUIS)に登録されています。
1990年にT. tonsuransの主要アレルゲンとしてTri t 1が単離され、白癬菌感作喘息、鼻炎または蕁麻疹患者の73%にTri t 1に対する特異的IgEが認められました。一方、Trichophyton粗抽出に対してDTHを示す例では、Tri t 1に対するDTHを起こす例はほとんど認められませんでした31)。1996年に同菌からDTHを活性指標としてTri t 4が単離されました。興味あることに、Trichophyton粗抽出に対してDTHを起こす例で、Tri t 4特異的IgGが検出されますが、特異的IgEおよびIgG4は検出されません。一方、Trichophyton粗抽出に対してIHを起こす例では、Tri t 4特異的IgEおよびIgG4が検出されました32)。
その後、T. rubrumの遺伝子組み換え体Tri r 4が33)、さらに、Tri r 2の組み換え体も作製され、Tri r 2もTri t 4と同様にIHおよびDTHを惹起することが報告されています34)。
表2. 白癬菌のアレルゲンコンポーネント
4. まとめ
アレルギー疾患と白癬の関連は古くから知られていることですが、喘息、アレルギー性鼻炎、慢性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎において、白癬の所見およびTrichophyton特異的IgE検査が必要となる例が少なからず存在するためTrichophytonは日常診療において念頭に置くアレルゲンのひとつと考えられています35,36)。
監修) 福冨 友馬 先生
国立病院機構相模原病院