アレルギーメールニュース 2019 年 12 月号
サーモフィッシャーダイアグノスティックス株式会社 発行
1. はじめに
脊椎動物などは病原菌から自己を防御するために免疫機能を有していますが、植物にはこのしくみがありません。そのため、生体防御タンパク質(PRPs)や植物抗菌ペプチド(AMPs)により、ウイルス、細菌、真菌、害虫などに対抗しています。また、これらタンパク質(ペプチド)は、病原菌だけでなく傷害や環境汚染などのストレスによっても産生されます1,2)。
ラテックス‐フルーツ症候群(LFS)および花粉‐食物アレルギー症候群(PFAS)において、多くのPRPsが原因アレルゲンとして知られ、現在17ファミリー(PR-1~PR-17)のPRPsが報告されています3-5)。PRPsは主に抗カビ、抗害虫活性を有していますが、AMPsは、これらに加えて抗細菌、抗寄生虫、抗ウイルス活性など幅広い病原微生物に対して作用します。一部のAMPsはPRPsに登録されています6,7)。ここでは、アレルゲンとしてのAMPsについて概説します。
2. 植物抗菌ペプチド:AMPs
AMPsは、分子量が10 kD 以下と比較的小さく、分子として中性緩衝液中において陽イオン性(塩基性)で、システイン残基に富み分子内に複数のジスルフィド(S-S)結合を持つため熱、化学処理、酵素処理(消化)などに影響を受け難い安定したペプチドという特徴があります。そのためPR-10タンパク質やプロフィリンと異なり、全身性の食物アレルギー症状の誘発に関連すると考えられています。植物貯蔵タンパク質の2SアルブミンにもAMPsと共通する性質があり、一部の2Sアルブミンでは実際に抗菌作用の存在が報告されています7)。
AMPsは、種子、果実、根、茎、葉、花などに存在します。チオニン、ディフェンシン、脂質輸送タンパク質(LTP)、gibberellin-regulated protein(GRP)などのファミリーがアレルゲンとして知られています6)。
AMPsについては、その病原抵抗性を利用して作物の病害抵抗育種の検討や抗生物質に代わる抗菌薬の開発などの研究がなされています2)。
3. AMPsとアレルギー
アレルゲンとして報告されている主な植物AMPsのファミリーについて概説します。AMPsは、その1次構造、システインモチーフおよび特徴的なS-S結合パターン、すなわち、2次および3次構造の類似性によってファミリーに分けられています6,7)。
1) チオニン:PR-13
チオニンは、1942年に小麦の胚乳から見出された最初のAMPで、その後種々の植物から同定されています。45-48個のアミノ酸から成り、3または4個のS-S結合を持ちます6,7)。重篤な小麦アレルギー誘発歴を有する患者のIgE抗体との反応性を指標として、小麦のα-プロチオニン(Tri a 37)が同定されました。Tri a 37は、ライ麦および大麦のα-プロチオニンとアミノ酸配列の同一性が高く(>90%)、オート麦、米など他の植物のα-プロチオニンとは同一性(<50%)が低いことが示されました8)。
2) ディフェンシン:PR-12
ディフェンシンは、最も研究されているAMPで、45-54個のアミノ酸から成り、4または5個のS-S結合を持ちます2,6,7)。アレルゲンとしては、ヨモギ花粉の主要アレルゲン Art v 1 が知られ9)、ヨモギ属間のディフェンシンには強い交差性が認められますが10)、他のキク科のディフェンシン、Amb a 4(ブタクサ)およびPar h 1(ナツシロギク)と構造の類似性は認められるもののIgE反応性は異なることが報告されています11,12)。また、Art v 1が食物アレルギーにおける交差性に関与することはほとんどないと報告されていますが13)、ヨモギ花粉症に合併したマンゴーおよびヒマワリの種の摂取による重篤なアナフィラキシー症例の解析において、Art v 1とこれら食物のディフェンシンとの交差性がアナフィライシーの発症に関連したと報告されています14-17)。
3) LTP:PR-14
アレルゲンとしては最も知られているAMPで、約70-90個のアミノ酸から成り、4個のS-S結合を持ちます6,7)。地中海地方のモモの全身性アレルギーの原因として報告され、LTPの感作源はモモ果実とされてきました18)。一部のLTPに関連するアレルギー多発地域においては、プラタナス花粉、ヨモギ花粉、オリーブ花粉がLTPの感作源と考えられています19)。中国からはヨモギ花粉LTP(Art v 3)感作により発症したモモアレルギー5例が報告されています20)。
4) GRP
GRPは、63個のアミノ酸から成り、6個のS-S結合を持ち、LTPとともにAMPsの中でもCysteine rich protein(CRP)と呼ばれています6,7)。1999年にジャガイモから単離された抗菌活性を有するスナキン-1は、トマトのGAST(gibberellic acid stimulated transcript)およびシロイヌナズナのGASA(gibberellic acid stimulated in Arabidopsis)に類似することから、これらをSnakin/GASAファミリーとされ21)、現在ではsnakin/GRPファミリー(またはGRPファミリー)と呼んでいます22)。モモのGRPであるPru p 7は比較的重篤なアレルギー症状の誘発に関連することが報告され23,24)、モモ以外にも梅、ザクロ、オレンジなどからもGRPが単離され、全身性の食物アレルギーに関連することが示されています25-27)。これら果実間のGRPには強い交差性が認められるため、GRP感作例はいくつかの果実で症状を起こし、また食物依存性運動誘発アナフィラキシー例も多く認められます28,29)。Senechalらは、ヒノキ花粉症に合併したモモアレルギー患者血液検体を用いて精製Pru p 7、スナキン-1および粗抽出アレルゲンエキス(モモ、ジャガイモ、オレンジ、グレープフルーツ、ザクロ)のIgEイムノブロッティング(IgE-IB)および好塩基球活性化試験(BAT)を実施しました。IgE-IBでは検討したすべてのアレルゲンにおいてGRPに相当する14kDのバンドが確認されましたが、BATにおいてスナキン-1の添加のみが好塩基球の活性化を認めず(ジャガイモはBAT未実施)、スナキン-1におけるIgE結合性と生物活性に差が認められました27)。一方、ジャガイモ摂取でアナフィラキシーを生じた21ヶ月齢のモモと卵のアレルギー患児が報告されています30)。最近、ホソイトスギ(Cupressus sempervirens)花粉中にGRP(BP-14、Cup s 7)が見出され、Pru p 7、スナキン-1などとアミノ酸配列の同一性が示されたことから、GRPがPFASに関連する新しいアレルゲンファミリーと報告されています27,31)。
4. AMPsとPFAS
PR-10タンパク質およびプロフィリンによるPFASでは、感作源が花粉で、交差反応により症状を来す食物は果実、野菜、豆類、スパイスであることが明らかにされています。すなわち、PR-10タンパク質はブナ目花粉の主要アレルゲンであり(ブナ目花粉症の70-80%が感作)32)、プロフィリンは、主にイネ科、キク科花粉などの草本花粉に多く含まれ(これら花粉症の20%が感作)33)、気道を介して容易にこれらアレルゲンに感作されますが、多くの場合、その易熱性および易消化性から、果実などの摂取による症状は口腔・咽頭に限局したアレルギー症状となりやすいです(OAS)4,5,32,33)。
一方、AMPsによる食物アレルギーでは感作源が花粉か食物か不明なことが多く、最も検討されているLTPでさえ、最近の総説においても感作源が花粉なのか果実なのか明らかでないと記述されています。これは花粉中および食物中のAMPsが低含有量であり、これらペプチドが耐熱性および耐消化性であることによると考えられています18)。
最近、ホソイトスギ花粉症の37%にGRP(Cup s 7)感作が認められ、果実のGRPと交差することから、GRPが新規のPFASの責任アレルゲンであると報告されました27,31)。実際にPru p 7によるアレルギーの報告は、ヒノキ科花粉症の頻度が高い南仏、北伊と本邦からのみで、GRP感作はヒノキ科樹木花粉によると考えられます。未だGRPが同定されていませんが、日本スギ花粉中にもGRPの存在が示唆されています34,35)。
AMPs以外の熱・消化耐性のソウマチン様タンパク質(TLP:PR-5)は、ヒノキ科樹木花粉中に比較的多く含まれ、種々の果実にもその存在が認められます。概して、TLPもPFASの責任アレルゲンであると報告されていますが、その感作源について報告はなされていません36-38)。
今後、コホート研究などにおいて、種々のヒノキ科花粉および食物のAMPs、TLPなどに対する多項目の特異的IgEを測定することにより、熱・消化耐性のAMPsおよびPRPsによるPFASの発症機序が明らかになると考えられます。
監修) 福冨 友馬 先生
国立病院機構相模原病院