アレルギーメールニュース 2021 年 9 月号
サーモフィッシャーダイアグノスティックス株式会社 発行
1. はじめに
1995年に5種のリコンビナントアレルゲンがImmunoCAP specific IgE項目に加わって以来、現在、研究用を含めて約100種のアレルゲンコンポーネント(コンポーネント)に対する特異的IgEが測定可能です。本邦では10種のコンポーネントが保険適用となっていましたが、10月15日にAspergillus fumigatus 由来である「イムノキャップ TM アレルゲンコンポーネント m218 Asp f 1(アスペルギルス由来)」が保険適用項目で初めての吸入アレルゲンコンポーネントとして発売となり、今後日常臨床で検査を実施いただけるようになります。
2. Component-resolved Diagnostics (CRD)
ほとんどの特異的IgE検査および皮膚試験に使用されているアレルゲンは、花粉、虫体、菌体などのアレルゲン原料に適当な緩衝液を加えて水溶性成分を抽出した「粗抗原エキス」です。粗抗原エキス中には種々のコンポーネントが存在します。あるアレルゲン感作例のうち50%以上が特異的IgE陽性となるコンポーネントを「メジャーアレルゲン」とよびます1)。これらメジャーアレルゲン感作の多くは当該アレルゲンに特異性が高く、特異性が高いメジャーアレルゲンコンポーネント特異的IgE陽性は帰属するアレルゲンの曝露により感作されたことを意味します。一方、50%未満の特異的IgE陽性となるものを「マイナーアレルゲン」とよび、その中には含有量が少ないが責任抗原として重要なものや他のアレルゲン中のコンポーネントと交差反応性を示すものなどが含まれます1)。
現在、世界保健機関および国際免疫学会連合のアレルゲン命名小委員会(WHO/IUIS)によって承認されたコンポーネントは1036種(2021年8月1日現在)です2)。コンポーネントの命名はWHO/IUISの規定によります。すなわち、コンポーネントが帰属するアレルゲン原料の学名において、属名の最初の3文字と種小名の最初の1文字に発見された順番を付します。例えば、Aspergillus fumigatusの場合、属名の最初の3文字 ‘ ASP ’ に種小名の最初の1文字 ‘ F ’ を付し1番目に登録されたコンポーネントを「Asp f 1」とよびます。
コンポーネントを用いた特異的IgE検査をCRDといいます3)。粗抗原エキス中には種々のコンポーネントが含まれており(図1)、各々のコンポーネントの特徴により特異的IgE検査陽性の結果解釈が異なります。各々の特徴に応じて、粗抗原特異的IgE検査に比較して臨床的感度が向上する場合や、臨床的特異度および陽性的中率が向上する場合があります(表1)4,5)。
表1. アレルゲンコンポーネント1,4,5)
特異性が高いメジャーアレルゲンに感作された例では、帰属するアレルゲンの曝露により特異的IgEを産生したと考え、当該アレルゲンが原因の可能性が高くなり(臨床的特異度、陽性的中率の向上)、さらに、免疫療法が有効となることが報告されています6-8)。一方、マイナーアレルゲンでは、強く原因と疑われる例において粗抗原IgEが陰性となることがありますが、粗抗原エキス中の含有量が極めて少ないコンポーネントが原因となっている可能性があり、このような場合は当該コンポーネント特異的IgE検査を実施することで陽性となることがあります(臨床的感度向上)。例として、豆乳摂取によるアナフィラキシーにおけるGly m 4 9)や小麦依存性運動誘発アナフィラキシーにおけるTri a 19(ω-5 グリアジン)10)がこれに相当します。その他に重篤な誘発症状に関連するものや他のアレルゲン中のコンポーネントと交差性を有するものが知られています4,5)。
3. A. fumigatusのアレルゲンコンポーネント
近年、多数の真菌由来コンポーネントがクローニングおよび作製され、その特徴が詳細に検討されています11-13)。系統学的観点から、これらは、菌種特異的および交差反応性コンポーネントの2つに分類されます。Asp f 1、Asp f 2、Asp f 4 (A. fumigatus)、Alt a 1(Alternaria alternata)、Cop c 1(Coprius comatus)、Mala s 1 (Malassezia sympodialis)などは菌種特異的なメジャーアレルゲンです。一方、これらを除く多くの真菌由来コンポーネントは構造的に類似するいくつかのファミリーに分類され、その代表が表3に示したタンパク質ファミリーです。各ファミリーのコンポーネント間では、由来菌種の分類に関係なく交差反応性が認められます14,15)。A. fumigatusのコンポーネントは23種類がWHO/IUISに登録(2021年8月1日現在)されています2) 。
表2. 主な A. fumigatusのアレルゲンコンポーネント2,11-15)
4. Asp f 1
Asp f 1は限られた菌種が産生しA. fumigatusに特異性が高い核酸分解酵素で、胞子には存在せず発芽後細胞外に大量に分泌される主要なアレルゲン/抗原です(表3)。こうした特徴より、Asp f 1に対する感作は、A. fumigatus の気道における発芽の指標になることが報告されています16-19)。実際に、単純性アスペルギローマ患者(SPA)および侵襲性肺アスペルギルス症患者(IPA)でAsp f 1に対するIgG抗体が高頻度で検出されること、さらにIPAの尿中にAsp f 1が検出され、Asp f 1の検出は A. fumigatus の侵襲の指標にもなる可能性があることも報告されています20,21)。
表3. Asp f 1の特徴16-19)
5. Asp f 1特異的IgE検査によるアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)の診断
2019年に発刊された「アレルギー性気管支肺真菌症の診療の手引き」(診療の手引き)22)には、①ABPAの診断におけるA. fumigatus 特異的IgE検査が皮膚試験よりも有用性が高いこと23,24)、②それら国際的なエビデンスはイムノキャップによるA. fumigatus 特異的IgE測定に集中していること、③検査法によってはABPA症例においてもA. fumigatus 特異的IgEが陰性となる事例がありその解釈には注意を要すこと25)、が記載されています。
A. fumigatus 粗抗原特異的IgEが陽性の喘息を対照にABPAの診断におけるAsp f 1特異的IgE検査の有用性が検討され、臨床的感度60-91%、臨床的特異度66-87% 25-27) と、粗抗原特異的IgE検査に比べて臨床的特異度および陽性的中率が向上することが報告されています。しかし、ABPAの診断は特異的IgE検査のみで行われるわけではありません。実際に診療の手引きに以下のように記載されており、Asp f 1特異的IgE検査はABPAの早期発見に寄与する臨床検査の一つと言えます 28,29) 。
『A. fumigatus 特異的IgE陽性例のうちAsp f 1もしくはAsp f 2特異的IgE検査が陽性であるものは真のA. fumigatus アレルギーであると解釈され、このような例はABPAである可能性が高いので、積極的にABPAスクリーニングのためのCT検査や沈降抗体検査などを進めていく必要があり、このような精査でABPAの診断基準を満たさなくとも、将来的にABPAに進展する可能性は否定できないため、定期的な診断の見直しを考慮する。』
6. さいごに
喘息のコントロール不良および重症化にA. fumigatus が関与していることが、国内外で多数報告されています23,30-35)。また、非アレルギー性喘息と診断されていた例でも経過中にA. fumigatusなどに新たに感作されることもあり、コントロール不良時のみならず定期的に真菌を中心に特異的IgE検査を実施することが重要です36)。従来、ABPAの頻度は喘息の1-2%程度と言われていましたが、近年のメタ解析によれば約13%との報告もあり37,38)、ABPAの発症から診断までには長期を要し39)、また、肺結核40-42)、肺癌43,44)などと誤診される例もあるので、A. fumigatus 粗抗原とAsp f 1特異的IgE検査の組み合わせで、より早期にABPAの診断がなされることが期待されています28)。
監修) 福冨 友馬 先生
国立病院機構相模原病院