アレルギーメールニュース 2021 年 12 月号
サーモフィッシャーダイアグノスティックス株式会社 発行
1. はじめに
イムノキャップではじめての特異的 IgG 検査「イムノキャップTM 特異的IgG 鳥」(以下イムノキャップIgG鳥)が本年9月から日常検査で利用可能になりました。本品は、鳥関連過敏性肺炎の診断補助として、蛍光酵素免疫測定法(FEIA)を原理とする血清中または血漿中の鳥抗原に対する特異的IgGを測定します1)。
2. 間質性肺疾患
間質性肺疾患(ILD)は、特発性肺線維症(IPF)などの原因不明の特発性間質性肺炎(IIPs)と環境抗原、薬剤、感染、膠原病、サルコイドーシスなどの原因または基礎疾患が特定できる間質性肺炎(non-IIPs)に分類されます。non-IIPsの多くでステロイドが有効性を示すのに対して、IPFではその有効性は乏しく、予後不良であるため、両者の鑑別は重要です。したがって、日常診療においては、non-IIPsを診断する目的で原因抗原および基礎疾患の探索が間質性肺疾患の診療の第一歩となります2,3)。
non-IPF ILD:IPF以外のIIPsとnon-IIPs
特発性間質性肺炎診断と治療の手引き 改訂第3版4)の記述より作成
図1 間質性肺疾患
non-IIPsには、膠原病肺、過敏性肺炎、じん肺、薬剤性肺炎、感染症、好酸球性肺炎、サルコイドーシスなどがあり、これら疾患を評価して鑑別するために職業歴、職場環境、住環境、使用薬剤歴などの聴取、身体所見、自己抗体検査などが実施されます。また、IIPsと診断されていても、経過中に膠原病を発症する例4)、また慢性過敏性肺炎(ほとんどが鳥関連過敏性肺炎)が混在する場合があるので5)、これらのことを念頭に注意深く診断、経過観察を行うことが重要と言われています。特に、IPFはIIPsの中で最も頻度が高いとされている一方で抗線維化療法が第一選択とされており、その他のIIPsと治療方針が異なるため、特に注意が必要です4)。non-IPF ILDにおいても18 – 32% の例が進行性の肺線維化を来すとされていますが、このような例は、発症から診断、および線維化の確認までの期間の遅れが原因と指摘されています6)。
3. 過敏性肺炎
過敏性肺炎は、non-IIPsの中でも比較的頻度の高い疾患で、鳥などの動物由来タンパク質、真菌、細菌または無機物(イソシアネートほか)などが抗原となり免疫学的機序により発症する間質性肺炎です7)。最近、相次いで過敏性肺炎の診断に関するガイドラインが発行され(Am J Respir Crit Care Med 20208)、CHEST 20219))、いずれのガイドラインでも過敏性肺炎の診断において、画像検査などでILDが疑われる患者では、症状発現に関係する抗原曝露歴について生活環境、職業環境などを問診により聴取して原因抗原を特定することが重要と記述されています。発症に関連する抗原に対する特異的IgGの陽性は当該抗原による曝露を示唆するとも述べられ8,9)、抗原曝露による誘発歴、抗原感作は過敏性肺炎と他のILDを鑑別する予測因子のひとつと報告されています10,11)。また、過敏性肺炎治療の中心は原因抗原の除去・回避を必須7)とする抗炎症治療で、再燃の予防、呼吸機能低下および肺線維化進行の抑制、生存期間延長などを指標として、その有用が評価されています12-15)。
過敏性肺炎の原因抗原同定のための鳥や真菌などの抗原に対する特異的IgG抗体測定の有用性に関しては、国内外で臨床的・基礎的評価が多数報告されています1,16-22)。ただし、抗原特異的IgG検査は、標準化された測定系および標準化された抗原がなく、多くの報告が限られた対象疾患および例数での評価であり、統一された基準値がないことも問題と指摘されています7,8)。イムノキャップ特異的IgG鳥は、後述のようにわが国の臨床症例を用いた検討で鳥関連過敏性肺炎診断における有用性が示されており、体外診断用医薬品(IVD)としてトリコスポロン アサヒに次いでわが国で承認された特異的IgG検査です。
4. 鳥関連過敏性肺炎
以前は「鳥飼病(bird fancier’s lung、pigeon breeder’s lung)」と言われていましたが、飼育している鳥だけでなく、羽毛製品などを原因とする例も報告され、現在では「鳥関連過敏性肺炎」といわれています。慢性に進行する場合が多い疾患ですが、発症および発症後の経過により急性鳥関連過敏性肺炎と慢性鳥関連過敏性肺炎に大別されます。さらに、慢性鳥関連過敏性肺炎はその臨床経過から再燃症状軽減型と潜在性発症型に分類されます7)。鳥関連過敏性肺炎は、急性過敏性肺炎の中では夏型過敏性肺炎に次いで頻度が高く、慢性過敏性肺炎では60%と最も頻度が高いと報告されています23)。欧米においても鳥は過敏性肺炎において最も頻度の高い抗原と言われています24)。
多くの急性鳥関連過敏性肺炎は鳥飼育歴があり、これが病因となりますが、一部の急性および慢性鳥関連過敏性肺炎では羽毛布団も頻度の高い原因です7,23,25)。その他に近隣での鳩の飼育や野鳥の飛来、鶏糞肥料の使用、ダウンジャケットの使用などで発症した例も認められます26-29)。小児でも稀に、鳥の飼育、自宅近隣の鳩飼育、羽毛布団の使用、郊外での家禽類との濃厚接触などで鳥関連過敏性肺炎を発症しています30-32)。
環境中抗原量と病型の関係は密接と考えられ、実際に慢性鳥関連過敏性肺炎例の生活環境中の空中および室内塵中の鳥抗原量が無症状の鳥飼育者とは同等である一方で、対照に比較して有意に高かったと報告されています33)。一方、急性鳥関連過敏性肺炎例では、慢性鳥関連過敏性肺炎例の室内塵中の鳥抗原量に比較して有意に高いことが示されています34)。また、環境中の鳥抗原量が、慢性鳥関連過敏性肺炎例において症状悪化および予後不良に関係することも報告されています29,34)。
過敏性肺炎が疑われる例において、鳥抗原に対する沈降抗体またはIgG抗体価が高い例では鳥関連過敏性肺炎の可能性が高いのですが、陽性でも抗体価が低い場合は他のILDも疑われ、画像、生検など他の検査結果も含めて診断されます35-37)。イムノキャップ特異的IgG鳥の臨床性能試験では、鳥関連過敏性肺炎の急性発症群(急性および再燃症状軽減型の慢性鳥関連過敏性肺炎)および鳥関連過敏性肺炎以外のILDを対象とした場合、臨床的感度87%、臨床的特異度 77%でした。一方、潜在性発症型の慢性鳥関連過敏性肺炎と対照との比較では、それぞれ、31%および77%でした1)。過去に報告された同様の検討においても、潜在性発症型の鳥関連過敏性肺炎では鳥抗原に対する特異的IgGの陽性率は35%程度と報告されており、臨床的特異度が比較的高く簡便に施行可能なイムノキャップ特異的IgG鳥は検査法として価値があると報告されています38)。
5. 鳥抗原
鳥関連過敏性肺炎の原因抗原は鳥糞、羽毛、鳥血清中に含まれ、環境中に飛散したこれらの吸入によって発症すると考えられています。以前より鳩消化管ムチンが鳥関連過敏性肺炎の原因として重要で、患者IgG抗体と反応するこのムチン中の多種の成分が、糞、血清およびbloom(羽毛を覆うワックス様粉末成分)に共通に存在し、さらに、鳩の消化器系および免疫系に認められると報告されていました39-41)。また、血清および消化器系に認められる抗原は、多くの鳥種間に存在する可能性が報告されています45-47)。最近、鳥関連過敏性肺炎に特異的な2種の抗原が同定され、組換え体が作成されています。ひとつが、鳩immunoglobulin lambda-like polypeptide-1(IGLL-1)で、本抗原が鳥関連過敏性肺炎患者IgGと特異的に反応し、さらに患者末梢血リンパ球増殖反応を惹起させることが示されています42)。もう一方はproproteinase E(PROE)で、鳥関連過敏性肺炎と無症状鳩飼育者を対象として、いずれの抗原に対する特異的IgG測定も粗抗原による測定よりも診断効率が高かったと報告され、将来的にはこれら抗原によるIgG測定も、鳥関連過敏性肺炎の診断の一助になることが期待されています42-44)。
監修) 福冨 友馬 先生
国立病院機構相模原病院
1. はじめに
特異的IgE抗体検査は、患者毎に反応するコンポーネント(エピトープ)が異なり、患者血清中での存在比率が均一でないアレルゲン特異的IgEを測定する検査です1, 2)。したがって特異的IgE抗体の国際標準品を設定することはできず、国際標準品を利用して標準化が進められている一般的な抗原検査にはない特殊性があります。そのため、特異的IgE抗体検査キット間の互換性は高くないのが現状です2, 3)。一方で、プロバビリティカーブによる症状誘発の確率の推定や、免疫療法のモニタリングなど、特異的IgE抗体検査の結果を定量的に評価し診療に活かすこともおこなわれています4, 5, 6)。今回は、キメラ抗体を利用した検討結果をもとに、イムノキャップ 特異的IgE(以下 イムノキャップ)の定量性について考察してみたいと思います。
2. 希釈直線性試験による特異的IgE抗体検査キットの評価
検査キットの定量性を分析学的に評価する手法のひとつに希釈直線性試験があります。希釈直線性が良好であれば、キットに使用されている標準品と患者検体中の測定対象物質の反応性が等しく、定量性に優れたキットであるといえます。
特異的IgE抗体検査では、稀に希釈直線性不良の検体を経験することがありますが、これは、固相化されたアレルゲンのコンポーネントの比率と患者検体中に存在する特異的IgE抗体の比率のバランスに起因する現象であると考えられます。例えば、マイナーコンポーネントは固相化されている絶対量が少ないため、マイナーコンポーネントに強く感作されている患者検体では、未希釈の原検体中に存在するマイナーコンポーネントに対する特異的IgE抗体をすべて捕えきれず、測定値が実際よりも低値になることがあります。しかし、この検体を希釈するにともないこれらを十分捕らえることができるようになると考えられます。その結果として、直線性不良の現象が生じると推測されます7, 8)。特異的IgE抗体検査において希釈直線性を改善・評価するには、固相化するアレルゲン量を増やすことや、アレルゲン-特異的IgE抗体複合体を形成させる反応に十分な時間を設けること等が必要ですが、日常検査に用いるキットデザインの設定においてはいずれも限界があり、希釈直線性試験の結果だけで特異的IgE抗体検査の定量性を評価することは困難です。
3. キメラ抗体の利用とイムノキャップ 特異的IgEの定量性の評価
マウスモノクローナル抗体の定常部をヒトIgEの定常部に置き換えたキメラ抗体は、ひとつのコンポーネントに対して特異的な単一のIgE抗体なので、このキメラ抗体を当該アレルゲンで測定した特異的IgE抗体測定値と総IgEの測定値は一致すると考えられます。近年、これを用いた特異的IgE抗体検査キットの定量性の評価結果が報告されています。
Itoら9) は、イムノキャップと他社キットの定量性を、ヤケヒョウヒダニおよび卵白の主要アレルゲンコンポーネントであるDer p 1、Der p 2、Gal d 1、Gal d 2およびGal d 4に対するキメラ抗体を用いて検討しています。すなわち、これらキメラ抗体を適宜希釈し、両キットのヤケヒョウヒダニまたは卵白アレルゲン試薬で測定した特異的IgE抗体測定値と総IgE測定値の比を求めたところ、イムノキャップでは、Der p 1、Der p 2、Gal d 2およびGal d 4でその比は1に近く(range 0.92-1.14)、Gal d 1では0.71であったのに対し、他社キットではDer p 2、Gal d 1、Gal d 2およびGal d 4では1.75-2.85、Der p 1では0.76という結果でした。同様に、佐藤ら10 )は、Der p 2に対するキメラIgE抗体を用いて、両キットでヤケヒョウヒダニ特異的IgE抗体および総IgEを測定したところ、イムノキャップでは特異的IgE抗体と総IgEの測定値が一致したのに対し、他社キットでは特異的IgE抗体の測定値が総IgEのおよそ3倍高値であったと報告しています。
これらキメラ抗体を利用した検討の報告から、イムノキャップは各キメラ抗体の特異的IgE抗体測定値と総IgEの測定値は良く一致し、良好な定量性を有すると考えられます。
4. おわりに
抗体検査キットの分析学的性能を評価するにあたっては、一般的な抗原検査の評価方法に加え、抗体検査の特徴をふまえ手法を工夫することで、真の性能がみえる可能性があります。今回焦点をあてたキメラ抗体の利用もそのひとつであり、このような評価結果を知ることで、キットの分析学的性能の理解が深まるものと思われます。
特異的IgE検査では標準化の基となる国際標準品を設定することができず、キット間の互換性を評価することが難しい事実があります。また、各キットがどのようなアレルゲンをキットに使用するかも、キットの特異的IgE抗体検出能を大きく左右します。さらに、キットの構成品であるレファレンス(標準品)から各アレルゲン測定値へのトレーサビリティが適切に実施されているかという点も重要です。日常診療で使用する特異的IgE抗体の検査結果がどのような特徴をもつキットから得られたものであるかを知ることは、検査結果を活用するうえでも重要なポイントになるかと思われます。