アレルギーメールニュース 2022 年 6月号
サーモフィッシャーダイアグノスティックス株式会社 発行
1. はじめに
吸入ステロイド薬(ICS)を中心とした治療の普及により、多くの喘息患者のコントロールが改善されました。しかし、高用量のICSの使用によってもコントロール不十分または不良の喘息患者が認められることから、重症喘息を中心として臨床的表現型(フェノタイプ)の検討によって、その特徴の背景に存在する標的分子(エンドタイプ)が特定され、現在、4 種の生物学的製剤(抗 IgE、抗 IL-5、抗 IL-5 受容体、抗 IL-4/13)が臨床の場で使用されるようになりました 1,2)。
ヒトは常に真菌胞子に曝露され、その粒子数はイネ科花粉や樹木花粉の 1,000 倍といわれ、近年の気候変動により植物に寄生する真菌数が増加したために真菌感作および真菌による気道アレルギーの頻度が増加したと考えられています 3,4)。近年、喘息と真菌の関連が国内外で検討され、真菌はアレルゲンとしてだけでなく、喘息の発症、増悪、慢性化、重症化、コントロール不良などに強く関わっていることが報告されています 5,6)。
2. 気道における真菌に対する免疫応答
現在、WHO/IUIS アレルゲン命名委員会に 120 種類の真菌アレルゲン(子嚢菌 95 種、担子菌 23 種、接合菌 2 種)が登録されています(2022 年 5 月 20 日現在)7,8)。また、真菌の細胞壁成分も気道の免疫系を刺激することが知られています。これらにより 2 型炎症のみならず非 2 型炎症も真菌が惹起し、喘息の発症および重症化に関与していると考えられています 9-11)。
真菌は発芽後に多くのプロテアーゼ、グリコシダーゼなどの酵素を産生・分泌します 12-14)。また、多くの真菌種で、胞子よりも発芽後にアレルゲンの種類および量が増加します 15)。これら真菌由来の酵素はアレルゲンとして Th2 炎症を起こすだけでなく、気道上皮細胞のタイトジャンクションを破壊してバリア機能を低下させることでアレルゲンが侵入し易くし 9,11)、また、気道上皮細胞上の protease-activated receptor(PAR)を介して炎症サイトカイン遊離させ ILC2(自然リンパ球 2)を誘導して好酸球が気道に集積され、ステロイド抵抗性のILC2 による 2 型炎症により喘息の重症化に関与すると考えられています 9-11,16-18)。
Eur Respir J 2006; 27: 615-26, Curr Allergy Asthma Rep 2016; 16: 86,
J Allergy Clin Immunol 2017; 139: 54-65,
J Allergy Clin Immunol 2018;142:353-63,を参考に作図
図 1. 気道における真菌に対する免疫応答
Th1細胞およびTh17細胞は真菌の排除に関与しますが、重症喘息患者の気道生検試料および血中にIL-17A量が軽症喘息およびコントロールに比較して有意に増加し、Th17細胞が喘息の重症化に関与することが示されました。真菌細胞壁成分のβ-グルカンは、気道上皮細胞、マクロファージ、好中球、樹状細胞を刺激して種々の炎症サイトカインを産生させTh17細胞を誘導します。Th17細胞自身のみでは気道過敏性亢進、好酸球増多などを起こすことはありませんが、Th2細胞との共存でチリダニなどによるTh2炎症を増強します。また、ILC2と同様にTh17細胞もステロイド抵抗性のため喘息の重症化に寄与すると考えられています9-11,19)。
3. 重症喘息と真菌感作
屋外真菌であるアルテルナリア、クラドスポリウムの感作は喘息の発症・慢性化・重症化に、屋内のアスペルギルス、ペニシリウムおよび寄生菌のトリコフィトンの感作は成人の慢性重症喘息に関連します 5,6,20)。
成人重症喘息患者において、比較的高頻度で真菌の感作が認められ(表 1)、その感作率および特異的 IgE 抗体価は中等症以下の喘息患者に比較して有意に高く、また小児期発症の患者で真菌感作率が高いと報告されています。アスペルギルス、トリコフィトンおよびカンジダは、単独の感作例があり、これら真菌の感作は高齢の非アレルギー性喘息患者にも認められ、表 1 に示す通り少なくとも 1 種の真菌感作頻度は個々の真菌感作頻度に比較して高く、少なくとも重症喘息では以下に示す真菌の感作を調べることが重要です 21-26)。
表1. 重症喘息における真菌感作率
*:アスペルギルス沈降抗体陽性、CTで気管支拡張所見が認められたものを除外 BTS-SIGN:British Thoracic Society/SIGN Asthma Guidelines GINA:Global Initiative for Asthma ERS/ATS:ERS/ATS Task force definition SARP:US Severe Asthma Research Program SPT:皮膚プリック試験 IgE:血中特異的IgE検査 カビ混合:ペニシリウム、クラドスポリウム、アスペルギルス、カンジダ、アルテルナリア、ヘルミントスポリウムの混合エキス ━:未記載
これら真菌の中でもアスペルギルスは、胞子径が 5 μm より小さく、ヒトの体温でも生育できることから、下気道に到達し、定着・発芽・生育できるため喘息において最も重要な真菌です 5,6,20)。喘息患者において、気道のアスペルギルス定着は、アスペルギルス感作、好中球性気道炎症および肺機能低下に関連します 27)。また、重症喘息におけるアスペルギルス感作は、気管支拡張剤吸入後の肺機能改善率の低下、末梢血好酸球数増多、HRCT による気管支拡張所見および発作による経口ステロイド剤の頓用回数増加などと関連することが報告されています 28,29)。
重症喘息 133 例において、35.3%に HRCT による気管支拡張所見が認められ(中枢気道:15.8%、末梢気道:19.5%)、気管支拡張所見が認められた症例のアスペルギルス感作率は、認められなかった例に比較して有意に高いと報告されています(53.7% vs 26.1%:p=0.005)。さらに、喘息の併存症で問題となるアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)の合併率は 9%と高く、アスペルギルス感作かつ気管支拡張所見が認められた例では 31.8%が ABPA を合併していました 28)。
アスペルギルス感作喘息でABPA以外に問題となるのは、真菌感作重症喘息(SAFS)で、アスペルギルス以外の真菌も、SAFS またはアレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)の原因となります 30)。
4. 喘息のコントロールと真菌
「難治性喘息診断と治療の手引き」では、標準的な治療によりコントロールが不十分または不良な喘息を重症喘息と診断する前に、喘息の診断の見直し、薬剤の使用および吸入手技、増悪因子の同定およびその除去・回避、併存症の診断・管理などが適切に実施されているかを確認する必要性が記載されています 31)。また、現在の喘息治療に反応しない場合には、肺機能、鼻副鼻腔 CT、環境アレルゲン特異的 IgE 測定などの検査に加えて気道での真菌の腐生も検討すべきと指摘されています 32,33)。
真菌は重要な増悪因子のひとつで、真菌感作と喘息のコントロール不十分・不良との関連が国内外で多数報告されています。チリダニ、ペット、花粉、真菌などの環境アレルゲンの中で、真菌が最も喘息コントロール不良の危険因子となりやすく、その中でもアスペルギルス、ペニシリウム、アルテルナリア、カンジダ、クラドスポリウムが重要です 28,34)。また、真菌感作数が多いほど喘息コントロールテスト(ACT)スコアが有意に低くなること 22)、入院を要す重篤な喘息発作の頻度が高いことが報告され 25)、喘息において、真菌感作はコントロール不良に関連しています。
成人喘息を対象に 10 年以上の長期間に渡る環境アレルゲン感作プロファイルの縦断的変化を検討した結果、感作率が有意に上昇したのは、アスペルギルス(8.6→31%)およびトリコフィトン(17→25%)で、特異的 IgE 抗体価が有意に上昇したのは、アスペルギルスおよびカンジダであったと報告されています 35)。また別の報告では、10 年以上の間に総 IgE が上昇した喘息患者では、総 IgE が不変または低下した患者に比較して、コントロール不十分および不良例の割合が有意に高く、総 IgE の上昇はアスペルギルス感作に関連することが示されています 36)。これらのことから、喘息経過中の新規の真菌感作または真菌特異的 IgE 抗体価の上昇も喘息のコントロール不良に関連していると考えられています。
近年、特異的 IgE 検査においてアレルゲンコンポーネント(コンポーネント)を用いた特異的 IgE 検査(Component-resolved diagnostics:CRD)が用いられるようになりました 8)。CRD は粗抽出エキスによる特異的 IgE 測定よりも精度が高く、日常検査において、アスペルギルスの Asp f 1 が真菌の CRD として実施可能です。Asp f 1 は、胞子中には存在せず発芽後に分泌される主要なタンパク質で Aspergillus fumigatus に特異的なコンポーネントです 37,38)。Asp f 1 の感作は、気道において発芽した A fumigatus に曝露されたことを示し、Asp f 1 感作喘息例は ABPA の可能性が高く、積極的に ABPA スクリーニングのための CT、沈降抗体を実施します。また、ABPA の診断基準を満たさなくとも将来的に ABPA に進展する可能性が否定できないため、定期的な診断を考慮します 39)。CRD および Asp f 1 についての詳細は、本Allergens News Network メールニュース No.36を参照下さい。
前述の 10 年以上のアレルゲン感作プロファイルの検討でも Asp f 1 に対する特異的 IgE 抗体価および感作率が観察期間中に有意に上昇し、Asp f 1 の新規感作と関連していた患者の背景因子は、試験登録時の肺機能低下、男性、非アトピー喘息、および試験終了時での中用量以上の ICS 使用でした 34)。喘息患者の気道における Asp f 13(セリンプロテアーゼ)濃度が、重症度、呼吸機能低下程度および ICS 使用と強く相関することが示され 40)、また、喘息のみならず慢性閉塞性肺疾患(COPD)においても高用量の ICS または経口ステロイド使用が気道におけるアスペルギルスの定着および感作に関連していることが報告されています 41,42)。
また、ABPAは病気の進行が緩徐に進行するため症状が出た時にはかなり進行している場合があり 43)、実際にコントロールが良好で健診での胸部単純X線で異常が指摘された喘息患者が、精査の結果、ABPA と診断された例が報告されています 44)。
以上のことから、アレルギー性喘息患者だけでなく非アレルギー性喘息患者においても、喘息コントロール不良時のみならず中用量以上の ICS を使用している場合には、真菌および Asp f 1 の感作を定期的に実施して感作状況の把握し、必要に応じて真菌の腐生、画像、沈降抗体などの検査をすることが、喘息において重要な併存症である ABPM、ABPA の早期診断に有用と報告されています 45,46)。
5. 真菌感作喘息の治療
アレルギー性気管支肺真菌症の診療の手引きには、ABPM の標準治療は経口ステロイド薬とアゾール系経口抗真菌薬と記載されています 39)。ABPM の診断基準を満たさない SAFS 患者でもイトラコナゾール、ボリコナゾール、吸入アンホテリシン B が有効であったとの報告がありますが 47-49)、アスペルギルス感作で直近 1 年間に 2 回以上の重症喘息発作歴のある中等症から重症の非 ABPA 喘息患者において、3 カ月のボリコナゾール投与の有効性は認められなかったと報告されています 50)。そのため、SAFS に対して抗真菌薬の投与は選択肢の一つですが、現状では標準治療とは言いがたく、これは気道試料から真菌の検出率が高くなく菌種が同定されないこと 51)、感作菌種と気道からの検出菌種が一致しない場合や 52)、アンホテリシン B、アゾール系薬剤に低感受性の A fumigatus 関連菌の存在などが考えられ 53)、正確な菌種の同定が求められており、SAFS における抗真菌薬の使用については今後の研究課題と考えられています。一方、足白癬または爪白癬を持つトリコフィトン重症喘息に 22~44 週間フルコナゾールを投与した結果、トリコフィトンアレルゲンエキスの吸入閾値量が有意に増加し、全例で経口ステロイドの頓服もなくなり、抗真菌薬のトリコフィトン喘息における有用性が報告されています 54)。
近年、4 種の生物学的製剤が重症喘息で使用可能になり、ABPM、ABPA、SAFS を対象にいずれの生物製剤も有効性が報告されています 55,56)。最近、好酸球増多重症喘息に対するメポリズマブの有効性が示され、特にアスペルギルスおよびペニシリウム感作例において高い有効性が認められたと報告されました 57)。
環境整備により屋内での真菌の曝露量を減らすことも真菌感作喘息の管理において重要です。一般に真菌の環境対策として、通気・換気を良くして湿度を下げることが推奨されていますが 39,58)、クラドスポリウム、アルテルナリアなど高湿性真菌と異なりアスペルギルスは耐乾性で、寝室や居間の埃にも胞子が存在し、これらの場所の室内塵を培養すると 65%の培養上清中に Asp f 1 が検出されると報告されています 37-39, 59)。アスペルギルスの曝露と ABPA などの発症との関連を把握することは困難ですが、急性の侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)では、院内での改装・新築、近隣での工事、空調装置などが感染源と報告され 60)、また、屋根裏での作業 61)、引っ越し準備 62)および空調システムのメンテナンス 63)で大量の埃を吸入直後に ABPA を発症した喘息例が示され、喘息患者に対してこれら大量の埃が堆積しているような場所での真菌胞子の曝露を避けるようにすべきとされています 39)。
6. さいごに
重症喘息およびコントロール不十分・不良の喘息の一部において真菌が関与していることは明らかですが、真菌が関与する喘息を対象とした有効な抗真菌薬および生物学的製剤の開発が求められています 5)。
監修) 福冨 友馬 先生
国立病院機構相模原病院