アレルギーメールニュース 2023 年 3 月号
サーモフィッシャーダイアグノスティックス株式会社 発行
1. はじめに
患者から得た血液、尿、便、消化液、髄液、組織、細胞などの検体を用いておこなう検体検査には、比較的短時間で結果が得られ、来院当日に結果を知ることができるものや、結果を得るまでに数時間から数日要するものがあります。組織や細胞を顕微鏡で観察する病理学的検査や、感染症の原因微生物を同定し薬剤感受性を確認する微生物学的検査に時間(日数)がかかることはよく知られていますが、アレルギー診断に不可欠である特異的IgE抗体を検出する特異抗体検査については、測定に要する時間を含めたその特性が周知されていない場合があります。今回は、特異抗体検査の特性について、特異的IgE抗体検査を例に挙げ考察してみたいと思います。
2. 抗原検査の特徴
腫瘍マーカーや内分泌ホルモンなどを測定する抗原検査は、抗原となる物質の分子構造、アミノ酸配列、分子量 などが明らかになっているものが多く、検査結果の標準化の観点から、世界保健機関などの公的な機関によって標準物質が設定され、標準化が進んでいます1,2)。
検体測定時には、この標準化された標準物質から作成した標準品から得られる検量線を使用します。標準品中の抗原と患者検体中の抗原は同一の構造をもちますので、標準曲線と検体の反応様式はほぼ等しく、時間に対する反応の程度は、標準品と検体でよく一致します。したがって、たとえ抗原と測定キットの固相化抗体または標識抗体の抗原抗体反応が平衡に達していなくても、温度や時間など一定の条件下で測定を実施することでばらつきの少ない測定結果を得られるようになります。これらのことから、抗原検査は反応時間を短縮することが可能と考えられています。
3. 特異的IgE抗体検査(特異抗体検査)の難しさ
特異抗体検査について、特異的IgE抗体検査を例にその特性をみてみたいと思います。
特異的IgE抗体検査では、これが反応するアレルゲンを固相化するなどして患者検体中の特異的IgE抗体を捉えます。アレルゲンは、ほとんどが自然界由来のもので、採取場所、採取時期、採取年、培養条件 などによって、含有するアレルゲンコンポーネントの比率などが異なります。花粉は採取時期や採取年などで、昆虫は翅や虫体など、どの部位を原料にするかによって3,4)、食物は原産国や品種などの違い、成長過程で受けるストレスや収穫後の熟成の程度、保存方法、使用する部位などによってアレルゲンコンポーネントの内容やアレルゲン性が異なります5-9)。培養でアレルゲン原料を得ている真菌やダニなどは、同一条件で培養してもまったく同じ原料を得るのが難しい場合もありますし、培養日数で収率が大きく異なることも報告されています10,11)。このように、自然界由来のアレルゲン原料を均一化することは極めて困難です。
さらに、アレルギー患者ごとに反応するアレルゲンコンポーネント(エピトープ)が異なり、患者検体中の特異的IgE抗体の存在比率が均一でないことも特異的IgE抗体検査を難しくしている一因です12)。
これらのことから、特異的IgE抗体検査では、標準物質の設定や、ひいては測定キット間の標準化は非常に難しいといえます。
4. 特異的IgE抗体検査(特異抗体検査)の反応性と分析学的観点からの重要なポイント
アレルギー患者の検体中には多種のアレルゲンコンポーネントに対する特異的IgE抗体が存在し、この比率は患者ごとに異なることは前述のとおりですが、アレルゲン(エピトープ)との反応性も個々人の特異的IgE抗体で異なります。エピトープとの親和性が強い特異的IgE抗体は短時間で反応が平衡に達しますが、親和性が弱いものは反応が平衡に達するまでに相当の時間を必要とします。
特異抗体検査で重要なことは、患者検体中の特異抗体を可能な限り多く捉えることです。そのためには、親和性の弱い特異抗体が平衡に達するまで反応させる時間が必要であり、これを可能にする測定キットが分析学的性能に優れたキットとなり得ます。反応時間が短い場合、親和性の弱い特異抗体の含有量が多い患者検体では、平衡に達する前に反応が打ち切られるため、再現性不良となる可能性も考えられます。したがって、特異的IgE抗体検査では、先に述べた抗原検査のように反応時間を短縮することは容易にはできないのです。
しかし、どこかで反応時間を区切り、測定に要する時間を短縮することも必要です。そのための工夫のひとつに、固相化するアレルゲン量を増やすことが挙げられます。アレルゲン量が多ければ検体中の特異的IgE抗体との反応機会が多くなり、理論的に反応が平衡に達する時間も短くなります12,13)。
5. おわりに
アレルギー診断に不可欠である特異的IgE抗体検査を例に、特異抗体検査は標準化や反応時間の短縮などが困難である特性をもつ検査であることを述べました。臨床診断を補助する検体検査は多岐にわたり、測定対象となる物質によってそれぞれ特性が異なります。その特性を知ることは、分析学的性能を考慮した測定キットの選択や、得られた測定結果の解釈に重要だと思われます。