全固体電池の開発では、使用される材料の理解を深めるために、先端的な性評価技術が不可欠です。これらの手法は、電池構成要素の構造および特性に関する詳細な知見を提供し、より高効率で安全なエネルギー貯蔵ソリューションへの道を切り開きます。
本記事では、全固体電池研究に革新をもたらしているいくつかの先進的な評価技術を紹介します。
原文(英語):Exploring Advanced Characterization Techniques for Solid-State Battery Innovation
電子顕微鏡
1. 走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)
SEMは、電池材料の表面形態および構造上の特徴をミクロンレベルで観察するための強力なツールです。試料に電子を照射し、放出される二次電子や反射電子を検出することで、SEMは表面の形状および組成を明らかにする高解像度画像を生成します。次世代電池開発でSEMが活用される代表的な例として、正極活物質表面に施される薄膜コーティング層の観察と評価が挙げられます。
下の図1は、Thermo Scientific™ Apreo ChemiSEM™ テクノロジーを使用した、極めて低い加速電圧(600 eV)でのNMC正極粒子上の超薄膜コーティングの観察像です。

図1: NMC正極粒子の600 eV反射電子像(BSE)
・ChemiSEMテクノロジー:
ChemiSEMテクノロジーは、従来のSEMを拡張し、より高速で高精度、かつ効率的なEDS分析を実現する革新的なアプローチです。ライブカラー画像によって化学元素を視覚的に区別できるため、試料内の異なる材料を即座に識別し、追加の分析手法を必要とせずに組成に関する知見を得ることが可能です。これは、ChemiSEMテクノロジーがSEMに完全に統合され常時作動しているため実現できることです。
詳細はこちら:電池科学におけるSEM技術
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2. デュアルビーム集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)-SEMシステム
FIBをSEMと組み合わせたDualBeamシステムは、イメージングと試料加工を同時に実行できる装置です。これらは特に、高速かつ特定部位の断面試料の作製、3D材料特性評価、S/TEMラメラ作製などに有用であり、電池部品の内部構造を精密に解析できます。
図2は、DualBeamシステムにおける断面試料の作製方法(2a)と断面加工した固体電池正極の例(2b)を示しています。

図2:2a – DualBeamシステムにおけるFIBとSEM試料の位置関係の模式図
2b – PFIBで作製した固体電池正極断面
・プラズマFIB(PFIB):
PFIBでは、キセノンやアルゴンなどの不活性希ガスを一次イオン源として使用します。これにより、より大きな体積の材料を観察できるため、電池のバルク特性や大規模構造の研究に非常に適しています。また、不活性ガスを一次イオン源として用いることで、リチウム含有材料との相互作用が最小限に抑えられるという利点もあります。
・ガリウムFIB:
一方、ガリウムFIBは微細構造や界面の高分解能観察に適しており、より小さなスケールでの詳細解析に用いられます。ただし、ガリウムとリチウムが室温で強く相互作用するため、リチウムを含む構造にわずかな変化を引き起こす場合があります。
詳細はこちら:電池科学におけるDualBeam技術
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・透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy:TEM)
TEMは、サブナノメートルスケールの高分解能な構造解析を可能にし、原子レベルでの挙動の解明に貢献します。TEMを使用することで、科学者や技術者は原子配列や結晶構造といった微細な構造情報を取得し、TEM以外の分析手法では理解しにくい構造と機能性の関係を理解できます。
電池材料の分析では、TEM(高分解能イメージング、電子回折、EDS、EELSなど)は、形態・結晶構造・化学情報に関する貴重なデータを提供します。特に、固体電解質界面(Solid Electrolyte Interphase:SEI)のような電子線に敏感な材料のナノスケール評価に適しています。SEI層の組成と構造を明らかにすることは、リチウムイオンの電極への出入りの挙動を理解する上で重要であり、サイクルを重ねるにつれて容量保持率が低下するメカニズムを把握する助けとなります。こうした知見は、次世代電池の開発や劣化・故障メカニズムの解明に欠かせません。図3では、TEMを用いてリチウム金属試料を観察した様子を示します。

図3:3a – HAADF検出器を用いた200 keVでのリチウム金属の低倍率像
3b – リチウム格子構造の高分解能TEM像
詳細はこちら:電池科学におけるTEM技術
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X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)
XPSは、試料表面の最表層における元素組成・電子状態・化学結合状態を定量的に分析できる表面分析技術です。電池分野では、界面反応、表面汚染、SEI形成メカニズムの解明などに有効です。例えば、リチウムイオン電池の正極・負極材料を分析し、サイクル後の組成変化を確認することで、電極の化学変化やSEI層の深さ方向の成長を理解できます。また、XPSは黒鉛電極材料表面の前処理によって、充放電中の不可逆的な電極損耗を抑制する研究にも応用されています。図4は、新品(青)とサイクル後(赤)の正極活物質の化学変化を示すXPSによる分析結果です。

図4: 新品の正極(青)とサイクル後の正極(赤)のスペクトル
詳細はこちら:電池科学におけるXPS技術
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画像解析ソフトウエア
1. 生データから知見を生み出す
先進的なイメージング技術は膨大なデータを生成します。これらのデータを有効活用するためには、画像解析ソフトウエアが欠かせません。ソフトウエアによってデータを処理・可視化し、材料特性に関する定量的な知見を得られます。
・3Dイメージング:
Thermo Scientific™ Avizo™ ソフトウエアのようなツールでは、材料構造を2Dおよび3Dの両面から解析できます。これにより、製造プロセスの品質評価劣化分析、電極内部の接続性や曲路率の理解が可能になります。
2. 定量的解析
Thermo Scientific™ Avizo Trueput™ ソフトウエアのような解析ツールでは、電極材料やセル全体に含まれる複雑な構造を特定し、空隙径・分布・接続性といった特性を定量的に測定できます。
これらの結果を電池性能指標と相関させることで、構造特性と電池性能の関係を明確にし、設計改良へとつなげることが可能です。

図5: Avizo Trueputソフトウエアによって粒子割れをセグメント化したNMC正極断面の例
3. 予測モデリング
さらに、一部のソフトウエアでは、予測モデリングを通じて、材料がさまざまな条件下でどのように挙動するかをシミュレーションできます。これにより、構造や組成の変化が電池性能に及ぼす影響を事前に予測でき、最適化や開発の加速に役立ちます。
まとめ
先端的な特性評価技術は、全固体電池研究を大きく前進させ、電池内部の材料やその相互作用に関する深い理解を可能にしています。SEM、TEM、FIB、XPSといった分析手法と、高度な画像解析ソフトウエアを組み合わせることで、研究者は電池材料を最適化し、性能と安全性の両立を図れます。
これらの分析手法についてのより詳細な情報提供をご希望の方はぜひ当社のお問い合わせフォームよりお問い合わせください。また、これら以外の電池研究開発・製造時の分析ソリューションについては、当社の電池分析トップページをご覧ください。
本稿の作成にあたり、以下の研究者の協力に感謝いたします。
Dr. Chengge Jiao、Dr. Eric Goergen、Dr. Lin Jiang、Dr. Letian Li、Dr. Zhao Liu、Dr. Maria Meledina、Dr. Tim Nunney、Dr. Luigi Raspolini
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。



