近年、セルペインティング(Cell Painting)というアッセイ方法が広まりつつあります。
細胞に例えば何らかの薬物を添加したときに細胞増殖などには影響がなかったとしても、細胞の形態などに何らかの違いが出ている可能性を評価する方法として注目されています。実験系としては、各種蛍光色素を用いて細胞内小器官を染色することで可視化し、ハイコンテントイメージング技術を用いて細胞の形態を網羅的に解析します。 この技術は AIを含めた画像解析の技術が進んでいく中で、薬物スクリーニングや疾患研究において重要な役割を果たしていくことが期待されています。
Cell Paintingを提唱したBROAD Instituteの標準プロトコルでは以下の染色試薬が使用されています。今回は、核染色であるHoechst 33342を紹介します。
・Hoechst 33342 (核)
・Concanavalin A, Invitrogen™ Alexa Fluor™ 488 (粗面小胞体)
・Wheat Germ Agglutinin, Invitrogen™Alexa Fluor™ 555 (ゴルジ体)
・Phalloidin, Invitrogen™ Alexa Fluor™ 568 (アクチン、細胞膜)
・Invitrogen™ SYTO™ 14 (核小体)
・Invitrogen™ MitoTracker™ Deep Red FM (ミトコンドリア)
▼こんな方におすすめの記事です!
・セルペインティングに興味があるが、使用している試薬が分からない。
・細胞内小器官を染色するにあたり、どのような試薬が利用されているか知りたい。
Hoechst について
1968年にドイツの Hoechst AG社(合併により、現在は Sanofi社)にて、防虫剤としてHoechst™ 33258が開発されました。その後、蛍光顕微鏡下で生細胞の核を染色するのに有用ということが確認され、蛍光顕微鏡の普及とともに広まっていきました。
Hoechst 33258は以下のように芳香環が鎖状につながったような構造をしており、DNAの二重らせんの副溝(minor groove)に結合して蛍光を示します。
Hoechst 33258の構造:

Hoechst 33258 R= -OH
Hoechst 33342 R= -CH2CH3
Hoechst 34580 R= -N(CH3)2
※塩基対間の隙間に入り込むインターカレーター(intercalator)ではありません。
結合様式の模式図が以下のリンク先のFigure 8.1.1にありますのでご参照ください。
https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/references/molecular-probes-the-handbook/nucleic-acid-detection-and-genomics-technology/nucleic-acid-stains.html
その後、Hoechst 33258の類似体としてHoechst 33342、34580、S769121といったものも開発されていきました。 当初はHoechst 33258が最もよく利用されていましたが、最近ではHoechst 33258と比べて水溶性が若干劣るが生細胞への染色性が良いことからHoechst 33342の方が主流となっています。
実験的には、生細胞もしくはアルデヒド固定済みの細胞にHoechst 33342を添加して一定時間(例えば30分)インキュベートするだけで核に結合して青色蛍光を示すようになります。それを蛍光顕微鏡やハイコンテント解析用のイメージアナライザーで観察します。
余談
“Hoechst”の読み方について:ドイツ語の発音に合わせて日本国内では“ヘキスト”と読みます。ただ、アメリカではホーシュト(日本語の発音にはないため正確ではないのですがハとホの中間くらい)と読む研究者も多いです。
まとめ
当社では、各試薬を少量ずつセットにした Invitrogen™ Image-iT™ Cell Painting Kit(製品番号:I65000)や セルペインティングの手法を用いたハイコンテントスクリーニングに適したイメージアナライザーとしてThermo Scientific™ CellInsight™ CX7 LZR(製品番号:HCSDCX7LZRPRO)を取り扱っていますので、併せてご覧ください。
ハイコンテントスクリーニングシステムとデモ依頼
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。
Hoechst is a trademark of Merck KGaA.



