Cell Painting Assayで用いられる試薬について(MitoTrackerを用いたミトコンドリア染色)

近年、セルペインティング(Cell Painting)というアッセイ方法が広まりつつあります。例えば、細胞に薬物を添加し、細胞増殖に影響がみられないような場合でも、細胞形態などに何らかの変化が起きている可能性を評価する方法として注目されています。セルペインティングでは、細胞内小器官を蛍光色素で染色することで可視化し、ハイコンテントイメージングによって細胞形態を網羅的に解析します。この技術は、AIを含めた画像解析の技術の進展に伴い、薬物スクリーニングや疾患研究において重要な役割を果たすと期待されています。

セルペインティングを提唱したBroad Instituteの標準プロトコルでは以下の染色試薬が使用されています。
・ Thermo Scientific™ Hoechst™ 33342 Solution(核)
・ Invitrogen™ Concanavalin A、Alexa Fluor™ 488 Conjugate(粗面小胞体)
・ Invitrogen™ Wheat Germ Agglutinin、Alexa Fluor™ 555 Conjugate(ゴルジ体)
・ Invitrogen™ Alexa Fluor™ 568 Phalloidin(アクチン、細胞膜)
・ Invitrogen™ SYTO™ 14 Green Fluorescent Nucleic Acid Stain(核小体)
・ MitoTracker Deep Red FM Dye(ミトコンドリア)
今回は、ミトコンドリアを染色するInvitrogen™ MitoTracker™ Deep Red FM Dyeを紹介します。

▼こんな方におすすめの記事です!
・ セルペインティングに興味があるが、使用している試薬が分からない方
・ 細胞内小器官を染色するにあたり、どのような試薬が利用されているか知りたい方

MitoTrackerについて

1970年代より、ローダミン系蛍光色素を生細胞に添加すると細胞に取り込まれ、ミトコンドリアに局在して蛍光顕微鏡で観察できることが知られていました。正の電荷を持つ蛍光色素(Rhodamine 6G, Rhodamine 3B, Rhodamine 123, Cyanine)がミトコンドリアに局在する一方、負の電荷をもつfluoresceinなどは局在できないことから、電荷が重要であると考えられてきました。

Rhodamine 123およびMitoTracker™ Deep Red

左:Rhodamine 123 右:MitoTracker™ Deep Red

現在では以下のように考えられています。
・ ミトコンドリアは外膜と内膜と呼ばれる2つの脂質二重膜を有しており、外膜と内膜に挟まれた空間を膜間腔、内膜のさらに内側をマトリックスと呼びます。内膜には電子伝達系に関わる酵素複合体が存在し、内膜の内側(マトリックス)から外側(膜間腔)へプロトン(H+)をくみ出しています。その結果、ミトコンドリアのマトリックスは負に帯電し、正の電荷をもつ蛍光色素はミトコンドリアのマトリックスへ局在します。
・ 上記では色素が局在する過程を説明するため、マトリックスが負に帯電することを強調しましたが、一般的にはミトコンドリア内膜の内外で電位差が生じることから、ミトコンドリアの膜電位と呼びます。
・ アポトーシスなどによりミトコンドリアの機能が低下するとミトコンドリアの膜電位が消失し、正の電荷をもつ蛍光色素のミトコンドリアへの局在もしなくなります。

Invitrogen™ MitoTracker™ 蛍光色素には緑色蛍光のInvitrogen™ MitoTracker™ Green FM Dyeや赤色蛍光の、Invitrogen™ MitoTracker™ Red CMXRos Dyeなど数種類のラインアップがあります。セルペインティングの標準プロトコルでは、他の染色試薬との組み合わせから赤外蛍光のMitoTracker Deep Red FM Dyeが採用されています。

実験的には、生細胞にMitoTracker Deep Red FM Dyeを添加して一定時間(例えば30分)インキュベートするだけでミトコンドリアに集積して蛍光を示すようになります。生細胞のままでも蛍光観察は可能ですが、セルペインティングでは、パラホルムアルデヒドとThermo Scientific™ Triton™ X-100を用いた固定・透過処理を行った後に他の色素を用いた染色を行った上で、ハイコンテント解析用のイメージアナライザーで画像取得します。つまり、他の試薬は固定・透過処理後に染色することができますが、MitoTracker Deep Red FM Dyeは先述のように生細胞の状態でのみミトコンドリアを染色することができます。

MitoTracker Deep Red FM Dyeで染色したウシ肺動脈内皮細胞

MitoTracker Deep Red FM Dyeで染色したウシ肺動脈内皮細胞

参考文献

  • Johnson LV, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 1980:77(2):990–994.
  • Chen, LB. Annu Rev Cell Biol. 1988:4:155-81.

余談

前回に引き続き、“MitoTracker”の読み方についてご紹介します。英語ではミトコンドリア(mitochondria)をマイトコンドリアと発音するため、それに合わせてマイトトラッカーと発音されています。日本国内ではミトコンドリアの発音に合わせてミトトラッカーと発音される研究者も多いです。当社では特にどちらが正しいとは定めておりませんが、国際学会などでご発表いただける際はマイトトラッカーとしていただく方が海外の研究者に通じやすいです。

まとめ

当社では、各試薬を少量ずつセットにした Invitrogen™ Image-iT™ Cell Painting Kit(製品番号:I65000)や セルペインティングの手法を用いたハイコンテントスクリーニングに適したイメージアナライザーとしてThermo Scientific™ CellInsight™ CX7 LZR(製品番号:HCSDCX7LZRPRO)を取り扱っていますので、併せてご覧ください。

Cell Paintingのアプリケーションノート

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Hoechst is a trademark of Merck KGaA.

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