*更新日:2025.08.25
コピー数多型解析(Copy Number Variation:CNV)はゲノムに生じた変異で、ゲノムDNA配列のコピー数が、リファレンスやスタンダードと異なるものを指します(図1)。コピー数が増えるAmplificationと、コピー数が減るDeletionがあります。挿入、欠失、逆位、転座といったゲノム上の変化がCNVを引き起こします。CNVはヒトゲノムでもよく見られる遺伝子変異の一つで、がんや遺伝性疾患を含め、数多くの疾患に関係しています。

図1. CNVのイメージ図
デジタルPCRはCNV解析にも有用な手段です。本記事では具体例を交えながら、デジタルPCRでのCNV解析についてご紹介します。
▼このような方におすすめ
- デジタルPCRにご興味のある方
- がんや疾患関連の研究をされている方
- CNV解析を実施している方
CNV解析の手法
CNV検出の方法としては、比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)、アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(aCGH)、リアルタイムPCR(qPCR)、次世代シーケンシング(NGS)、デジタルPCRなどさまざまな方法があります。
表1. さまざまなCNV検出法
| aCGH | 次世代シーケンシング | リアルタイムPCR | デジタルPCR | |
| ハンズオンタイム | 長い | 長い | 短い | 短い |
| 所要時間 | 数日 | 数日 | 数時間 | 数時間 |
| 定量の精度 | ★ | ★★ | ★★ | ★★★ |
| 解像度 | ★★ | ★★★ | ★★★ | ★★★ |
マイクロアレイベースのaCGHはハンズオンタイムが長く、所要時間も長くなります。次世代シーケンシングは網羅的な解析ができるため、多くのCNVについて一度に調べることができる一方、コストが高く所要時間も長くなります。リアルタイムPCRやデジタルPCRは特定のCNVを安価で短時間に測定できるため、評価したいCNVが絞られている場合に有用です。
リアルタイムPCRとデジタルPCRを比較すると、特にコピー数が多い場合はデジタルPCRがおすすめです。リアルタイムPCRはCt値の差から定量を行いますが、デジタルPCRは絶対定量を行う装置であるため、わずかな差も検出できます。例えば7コピーと8コピーは1.14倍しか差がありませんが、デジタルPCRによる測定では統計学的に優位な差が見られています(図2)。一方でリアルタイムPCRでは7コピーと8コピーの差はCt値でわずか0.2程度の差となり、精度の高い測定は難しいです。

図2. デジタルPCRで測定したCNVのデータ例
またリアルタイムPCRでコピー数を正確に知るためには、コピー数が分かっているリファレンスサンプルが必要です。リファレンスサンプルとCt値を比較することで未知サンプルのコピー数を決定するためです。一方でデジタルPCRは絶対定量を行う装置であるため、リファレンスサンプルを測定しなくてもコピー数を求められます。
デジタルPCRでのCNV解析方法
CNV解析を行う際は測定したい遺伝子だけでなく、リファレンス領域の測定も必要です。サンプル添加量によって鋳型量は変動するため、リファレンス1コピーに対して何コピーあるかという値を用いてサンプル間の比較を行います。
リファレンスはヒトサンプルの場合にはRNase Pが使用されることが多いです。1細胞あたり2コピー(1ゲノムあたり1コピー)で安定していることが知られている遺伝子です。RNase Pとコピー数を比較することで、1ゲノムあたりのコピー数を知ることができます(図3)。

図3. リファレンスを用いたコピー数の算出
また制限酵素処理が必要な事例もあります。近傍で増加している場合、マイクロチャンバーへつながった状態で分配されるため、コピー数が過小評価されてしまいます。制限酵素処理をすることでマイクロチャンバーへ独立して分配されるようになるため、適切なコピー数を評価できるようになります(図4)。

図4. 制限酵素処理のイメージ図
デジタルPCRでの測定事例
2020年、Lingxia Jiangらによって報告されたのは、脊髄性筋萎縮症(SMA)に関連する遺伝子のCNV解析事例です。この実験系は4つのターゲットを同時に測定するマルチプレックスの系です。リファレンスはRPPH1、ターゲットはSMN1、SMN2に加えてSMN1とSMN2の両方を検出するアッセイを使用してそれぞれのコピー数を測定しています。患者由来のサンプルでも検証が行われ、正しい結果が得られたと報告されています。実験系やデータの詳細は文献をご覧ください[1]。
まとめ
CNVの検出には精度と正確性の両方が求められます。リアルタイムPCRなどの一般的によく利用されている従来のテクノロジーは、わずかなコピー数の差の判別が困難であったり、リファレンスサンプルや標準曲線が必要だったりなどの制約があります。これらの制約に対して有効な手法がデジタルPCRです。当社ではCNV解析用の設計済みTaqMan™ AssayであるApplied Biosystems™ TaqMan™ Copy Number Assaysを販売しています。シンプルでお手頃なデジタルPCRプラットフォーム、Applied Biosystems™ QuantStudio™ Absolute Q™デジタルPCRシステムと組み合わせることで精度の高いCNV解析を可能にします。
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Reference:
- Jiang, L., Lin, R., Gallagher, S. et al. Development and validation of a 4-color multiplexing spinal muscular atrophy (SMA) genotyping assay on a novel integrated digital PCR instrument. Sci Rep 10, 19892 (2020). https://doi.org/10.1038/s41598-020-76893-7
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。



