デジタルPCRは高感度・高精度な絶対定量を行うことができるので、様々なアプリケーションにおけるアッセイのパフォーマンスの最適化を有効におこなうことができます。たとえば、微量の病原菌の検出定量では病原菌のコピー数を直接得ることができます。遺伝子組み換え作物(GMO)の検出では、わずか1個の種の混入も検出可能な感度が得られます。また、リアルタイムPCR実験に使用する標準サンプルの絶対定量を行うこともできます。
QuantStudio 3D デジタルPCRシステムと直感的なユーザーインターフェースを備えたデータ解析ツールQuantStudio 3D AnalysisSuite Cloud ソフトウェアは、病原体やウィルスコピー数の絶対定量など、さまざまなアプリケーションをサポートします。
QuantStudio 3D デジタルPCRシステムは、TaqMan および SYBR ケミストリの両方を検出できます。TaqManケミストリは定量PCRにおける偽陽性のリスクを最小限に抑えることができます。QuantStudio 3D デジタルPCRでは、800万種類を超えるプレデザインのTaqManアッセイがご利用になれます。
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わずかな時間で絶対定量を可能にするQuantStudio 3D デジタルPCRシステム
QuantStudio 3D デジタルPCRシステムは、シンプルかつお手頃なデジタルPCRプラットフォームです。単一分子を100万倍以上に増幅できるので、高い精度と感度で核酸の検出やレア変異の絶対定量が可能です。
QuantStudio 3D デジタルPCRシステムは、ナノ流体工学に基づく高密度のチップテクノロジーを採用し、独立した20,000個の反応ウェルにサンプルを分配します。QuantStudio 3D デジタルPCR チップ上には固体シリコン基板に刻み込まれた均一サイズのウェルがあるので、直接的かつ安定したサンプル分配が可能です。高度に制御されたサンプルローディングシステムと微細ウェルのチップの組み合わせにより、高精度な絶対定量を実現します。
QuantStudio 3D デジタルPCRシステムは、コピー数/μLのデータを算出するとともに、そのデータの品質を評価します。データ品質が悪い場合や不合格の場合は、QuantStudio 3D AnalysisSuite Cloud ソフトウェアで2次解析を行う際に、確認を促すフラグが付加されます。
微量の病原菌の検出・定量
汚染食品や汚染水に含まれる細菌やウィルス性病原菌のヒトへの影響を減らすためには、微量の病原菌の検出・定量をできるだけ早い段階で行う必要があります。
リアルタイムPCRは、病原菌の検出において有用なツールですが、食品や水質検査で用いられるサンプルにはPCR阻害物質が含まれていることがあり、その影響を受ける可能性があります。一方、デジタルPCRは、リアルタイムPCRと比較して、阻害物質の影響を受けにくい技術です。デジタルPCRは、微細なウェルにサンプルを分配するのと同時に阻害物質を希釈します。さらに増幅量ではなく、分配された1コピーのサンプルのPCR増幅の有無から絶対定量を行います。従って、PCR効率が損なわれるような場合においても、その影響を受けにくいデジタルPCRは高精度な定量が可能です。また、デジタルPCRはリファレンスサンプルや標準曲線が不要なので、リファレンスサンプルを入手しにくい病原菌の絶対定量においても有用です。
環境中によく見られるPCR阻害物質であるフミン酸を添加して、ある病原菌の濃度測定を行いました。フミン酸の濃度が高くなると、リアルタイムPCR(グレーのライン)の測定値は、大きく下がりました。また、デジタルPCRの測定値(青いライン)のエラーバーはリアルタイムPCRと比較して非常に小さいことがわかります。
GMOを高感度に検出
植物の表現型の遺伝的な複雑さを理解するのは至難の業です。GMO作物の世界的な普及とともに、食品の安全性のために正確な表示義務が課され、高精度なGMO検出の必要性が高まっています。
従来、リアルタイムPCR は植物の遺伝子発現定量に広く使用されてきました。しかし、阻害物質の影響を受けるとターゲット遺伝子の濃度が低くなることが予想されます。そのため、リアルタイムPCRによる植物の変異の定量やGMOの検出は困難な場合がありました。
一方、デジタルPCRは、GMOの検出や植物の変異遺伝子の定量に理想的なシステムです。なぜなら、デジタルPCRによるサンプル中の特定のSNPsやアリルのターゲットの絶対定量は野生型と変異型の発現の違いを解明し、また新規のレアな変異の検出も可能にするからです。繰り返しになりますが、デジタルPCRは標準曲線を必要としません。さらに植物サンプルでよく見られるさまざまなPCR阻害物質に対して高い耐性をもっています。
高精度な遺伝子発現解析
リアルタイムPCRは、一般的に遺伝子発現の解析に使われていますが、通常は2倍以上の発現量の違いがないと識別が困難です。遺伝子発現の違いを解析するには、一般的にβアクチンなどの組織によって発現量に差のないと考えられるハウスキーピング遺伝子を内部標準として利用します。
デジタルPCRは、±10%以下の高い精度での測定を可能とし、遺伝子発現の差異を解析する場合においても2倍以下のわずかな差異の識別を可能にします。また、内部標準を使わなくても絶対定量を行うことができます。
リアルタイムPCRと同様に、デジタルPCRでもRNAからcDNAへ逆転写を行います。高感度で検出するためには、逆転写効率がとても重要なファクターです。弊社ではデジタルPCRの遺伝子発現ワークフローを円滑に進めていただくための効率的な逆転写キットとして、High-Capacity RNA-to-cDNA Kitを提供しています。
説明: サンプル1から5は、割合の異なるmiRNA混合サンプル( hsa-miR-19bおよび hsa-miR-92)です。サンプル 1: 100%、サンプル 2: 95%、サンプル 3: 90%、サンプル 4: 75%、サンプル 5: 50%。逆転写したcDNAをリアルタイムPCR 、およびデジタルPCR (QuantStudio 3Dシステム)で定量しました。各図の右側の多重比較(Tukey-Kramer HSD test)が示すとおり、円の重なりがないデジタルPCR(左図)は、サンプル1と2の間の5%の違いを識別していることがわかります。一方で、リアルタイム qPCR(右図) はサンプル1と3の間の10%の違いを識別できませんでした。
ウィルスの絶対定量
病原体ウィルスの力価測定の代用として、生体サンプル中のウィルスコピー数の絶対定量が行われています。しかし、リアルタイムPCRを用いたウィルス量の測定ではアッセイの増幅効率や機器のキャリブレーションの状態の影響を受けることや、未知のサンプルのCt値から絶対値を求めるには標準サンプルとの比較が必要、といった課題をクリアすることが求められます。
それに対し、デジタルPCRは増幅途中の差は結果に影響しません。代わりに、デジタルPCRでは、サンプルを増幅前に何千もの個々のエンドポイントPCR反応ウェルに分配し、対象のウィルス配列の増幅の有無によって陽性または陰性かウェル毎に判定します。陰性となったウェルの数から、元のサンプル中のウィルス濃度を算出します。
各反応が陽性か陰性かのみ判定するデジタルPCRの測定系では、測定値がアッセイの効率や機器のキャリブレーション状態の違いの影響を最小限に抑えることができます。このことにより、外的要因の干渉を受けない標準化されたウィルスコピー数の定量結果が得られるので、そのまま複数の研究室間でデータを比較できます。
リファレンスおよびスタンダードの絶対定量
正確な遺伝子定量には、多くの場合、リファレンスサンプルやアッセイスタンダードとの比較が必要です。ただ実際には、適切なリファレンスサンプルが無いケースが多々あります(生物種の問題や、特定疾患において特異的な遺伝子などが該当します)。リアルタイムPCRを用いてリファレンスサンプルを作成する場合、リファレンスサンプルの初めの較正方法や、長期安定性の確認、および全ての研究を完了するのに十分な量があるかなどの条件検討が必要です。さらに、共通の標準スタンダードを使用していなければ、研究室間のデータ比較もそのまま行うことには支障が生じます。
説明: A: 4種類のスタンダードサンプルをdPCRで測定(n=2)。ばらつきが少なく、精度が非常に高い定量値が得られました。B: サンプル600-Tを用いて、4段階の10倍希釈系列を作成、測定した結果。希釈倍率と定量値の間には高い相関性(0.9991)があり、各希釈段階において、高い精度の定量値を得ることができました。
デジタルPCRは、直接ターゲット遺伝子のコピー数を求める絶対定量を行うことができるので、新規のリファレンスサンプルを作成する時の較正作業に有効活用していただくことができます。コピー数が明確なリファレンスサンプルを共通で用いることにより、直接結果を比較することが可能です。
まとめ
6回シリーズの最終回でお伝えしたいこと、それは、デジタルPCRは高感度・高精度な絶対定量を行うことができるので、様々なアプリケーションにおいてアッセイのパフォーマンスの最適化を有効に行うことができる、ということです。たとえば、微量の病原菌の検出定量や、遺伝子組み換え作物(GMO)検出、およびリアルタイムPCR実験に使用する標準サンプルの絶対定量等に有用です。
研究用にのみ使用できます。診断目的およびその手続き上での使用はできません。