ポリウレタンは柔軟な樹脂であるため、車の内装やスポーツ用品などの市販品に数多く利用されています。ポリウレタンはポリオールとイソシアネートとの反応により製造され、その物理的特性はさまざまな要素によって設計されています。特に原料であるポリオールの反応水酸基(-OH)の数は、ウレタン結合の量に直接関与し、ポリウレタンの特性に影響を与えます。従来の水酸基の定量は、ポリオールと酢酸を反応させ、水酸化カリウムの滴定により求められています。この化学的な分析方法は、試薬が必要かつ時間がかかり、全てのサンプルで実施する場合、分析コストと環境への負荷が課題と考えられています。しかし、近年ではフーリエ変換式近赤外分光分析装置(FT-NIR)を日常的な水酸基価の定量に用いることで少量のサンプルで短時間の分析を可能とする事例も多くなってきております。なお、NIR分光法によるポリオール水酸基価の定量は、アメリカ材料試験協会(ASTM)D6342や日本産業規格(JIS)K1557-6に求め方が記載されています。
FT-NIRできること!!
- 滴定測定に比べ短時間での測定
- 誰でも簡単に操作
標準サンプルの準備と近赤外スペクトルの測定
水酸基価の定量にはまず濃度標準サンプルを用意します。今回は6種類のポリプロピレングリコール(水酸基価は28~263 mg KOH/g)を準備しました。各標準サンプル1 mLを、大きさφ8×H40 mmで光路長約6 mmのディスポーザブルガラスバイアルに移して分析試料としました。より正確な結果を得るために、加熱透過アクセサリーを使用してサンプル温度を40 ℃に保持しました。Thermo Scientific™ Antaris™ II FT-NIR近赤外アナライザーの装置構成は、CaF2ビームスプリッター、タングステン-ハロゲン光源、高感度InGaAs近赤外検出器です。このアプリケーションにおいては、スペクトル分解能は8 cm-1、90回積算で、11,000から4,000 cm-1領域のスペクトルを1分以内の測定時間で得ることができました。
定量モデルの作成と検証
ポリオール標準サンプルのスペクトル測定を行った後、Thermo Scientific™ TQ Analyst™ 定量解析ソフトウエアを用いて定量モデルを作成しました。TQ Analystソフトウエアにはいくつかの解析方法が搭載されており、簡単な操作で検量線を作成できます。
<Simple Beer’s Law(SBL)定量モデルの作成>
もっとも基礎的な定量解析モデルとしてSimple Beer’s Law(SBL)が知られています。これは、目的成分のピークが明瞭に現れている場合の単一成分の検量線作成に有用です。このSBL定量モデルを水酸基価の標準サンプルに適用したところ、あまり理想的ではない検量線となりました。標準サンプルにおける相関係数は0.999以上とかなり高いものの、各データポイントの誤差を表す平均二乗誤差平方根(RMSEC)を見ると6.26と大きく、正確度が低いモデルであることを表しています。
<部分最小二乗法(PLS)定量モデルの作成>
ポリオールに代表される多くのNIRスペクトルは、目的成分のピークがブロードで、マトリックスの吸収領域と重畳していることが多く、SBLモデルは最適ではありません。このような複雑なスペクトルの定量には多変量解析がよく用いられており、そのなかでも部分最小二乗法(PLS)定量モデルは最も一般的な手法で、検量データの最適化に有用です。TQ Analystソフトウエアでは自動的にスペクトルデータを解析し、最も良い相関を示す領域を選択する領域選択ツールを搭載しています。今回作成したPLSモデルの検量線は、相関係数は1.0000、RMSECは0.652と良好な結果が得られました。
<PLSモデルの検証>
作成したPLS定量モデルを、実際のポリオールサンプル(水酸基価111.00 mg KOH/g)の水酸基価定量に適用しました。計算結果は111.08 mg KOH/gであり、誤差は0.07%でした。
まとめ
ポリオールの水酸基価は、ポリウレタン製品に物理的・化学的に望ましい特性を持たせる設計をする上で重要な情報です。Thermo Scientific™ Nicolet™ FT-NIR分光分析装置と加熱透過アクセサリーを用いて、高品質のスペクトルを測定することができました。TQ Analyst定量解析ソフトウエアを用いて、スペクトル領域の自動選択とベースラインの影響を除く前処理を選択し、最適なPLS統計モデルを構築、ポリオールの水酸基価を正確に予測することができました。製造現場の品質管理に活用することで、受け入れ検査や製造過程において素早く正確な水酸基価の測定を行うことが期待できます。
Thermo Fisher Scientificが販売しているFT-NIRの詳細は下記をごらんください。
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