フラグメント解析のトラブルシュート:ノイズピークの原因と対処法

フラグメント解析のデータには、サンプルピーク以外のノイズピークが検出されることがあります。このようなノイズピークの発生は、解析に要する時間や労力が増えるだけでなく、解析結果の解釈にも影響を与える場合があります。本ブログでは、さまざまなノイズピークについて、予測される原因と対処法をご紹介します。

スタッターピーク

スタッターピークとは、繰り返し配列のPCR中に発生する産物由来のピークです。PCR反応中にDNAポリメラーゼのエラーにより、1つの繰り返し単位が欠失もしくは挿入され、結果として目的のピークに対して、欠失もしくは挿入された繰り返し単位分小さいもしくは大きいピークが発生します。主に1から4塩基の繰り返し単位をもつ配列で発生します。

図1. スタッターピークが検出されたデータ例
2塩基繰り返し配列を含む鋳型をPCRした結果発生したスタッターピーク。*印:目的のピーク。赤矢印:2塩基繰り返し単位が欠失したスタッターピーク。2塩基繰り返し単位が2つ分、3つ分欠失したスタッターピークも検出されている。黒矢印:2塩基繰り返し単位が挿入されたスタッターピーク。

予測される原因 対処法
繰り返し配列のPCRによりスタッターピークが発生している スタッターピークとして、サンプルピークと区別する

プルアップピーク

プルアップピークとは、ある蛍光波長を検出する際に漏れこんでくる隣接する蛍光波長のピークです。このような漏れこんできた蛍光波長のピークは、元となる蛍光波長のピークと近い位置に検出されます。プルアップピークが発生した時に予想される原因と対処法は以下の通りです。

図2. プルアップピークが検出されたRaw Data例
赤矢印:プルアップピークを示す。元となるピークとほぼ同じ位置に検出されていることがわかる。

予測される原因 対処法
サンプル量が多過ぎる
  • 電気泳動時に調製するサンプル濃度を下げる(PCR産物の希釈率を上げる)
  • PCR時の鋳型DNA量を減らす
スペクトラルキャリブレーションが適切に行われていない 適切な試薬を用いてスペクトラルキャリブレーションを再度実施する
ポリマーが劣化している Applied Biosystems™ 3500、Applied Biosystems™ SeqStudio™ Flexシリーズジェネティックアナライザ:
  • ポンプの洗浄後、ポリマーを交換する
Applied Biosystems™ SeqStudio™ジェネティックアナライザ:
  • カートリッジの使用期限を確認し、期限が切れている場合は交換する(カートリッジ交換前に他のトラブルシューティングも併せて実施する)。

プラスAピーク(スプリットピーク)

PCRではDNAポリメラーゼによりPCR産物の3’末端に1ヌクレオチド(主にアデノシン)が付加される現象が発生します。鋳型の配列に依存して付加される割合は変わってきます。結果として実際のPCR産物よりも1ヌクレオチド分長いピークが発生し、プラスAピークと呼ばれます。本来1つのピークがスプリットピークとして2つ検出されるため、データの解析が複雑になります。

対処法の1つとして、PCRプロトコールに72℃ 60分間の最終伸長反応を追加することがあげられます(図3)。ほぼ全てのPCR産物にアデノシンが付加されるため、スプリットピークが解消されることがあります。

図3 プラスAピークのデータ 例

図3. プラスAピークのデータ 例
PCRプロトコールに72℃ 60分間の最終伸長反応がない場合と、追加した場合のデータ例。追加することによりほぼ全てのPCR産物にアデノシンが付加され、スプリットピークが解消されている。

予測される原因と対処法は以下の通りです。

予測される原因 対処法
PCR条件、プライマー設計が最適ではない 以下のPCR条件の対処によりAの付加を増やす
  • 72℃ 60分間の最終伸長反応を追加する
  • テイルドプライマーペアを使用する
  • テイルドプライマーペアについては、Applied Biosystems™ GeneScan™ Analysis用カスタム蛍光プライマーペアの Webページを参照。
PCR時の鋳型DNA濃度が高い PCR時の鋳型DNA量を減らす

スパイクノイズ

通常のピークより幅が狭く、すべての蛍光波長において同じ位置に発生することもあります。一過性であることが多いですが、繰り返し発生する場合に予測される原因と対処法は以下の通りです。

図4 スパイクが検出されたデータ例

図4. スパイクが検出されたデータ例
スパイクを赤枠で示しています。

予測される原因 対処法
以下が電気泳動中に検出
  • キャピラリー内の気泡
  • 析出したポリマー
  • 混入した埃
3500、SeqStudio Flexシリーズジェネティックアナライザ:
  • 目視でポンプブロック内の気泡を確認し、気泡がある場合はRemove bubbleのWizardを実行する
  • ポンプ周辺や陽極バッファーのバルブピンにポリマーの結晶がないか確認する。見られる場合、結晶を除去後、ポンプを洗浄しポリマーを交換する
  • ウォータートラップを洗浄する
SeqStudio:
  • 本体タッチスクリーンよりSetting > cartridge > cartridge maintenance > Reflesh PDSを複数回実施する

その他のノイズピーク

ノイズピークは実験条件や実験を行っている環境などさまざまな原因によっても発生します。ノイズピークが発生した時に予測される原因と対処法は以下の通りです。

予測される原因 対処法
PCR産物が分解してしまっている PCRを再度実施する
サンプルが適切に熱変性されていない サンプルを95℃ 3分間加熱し、5分間氷冷後、電気泳動する
サンプルを熱変性した後に時間が経過している サンプルを変性直後にランをするようにする
不適切なプライマー設計により以下のような症状が発生している
  • プライマーがヘアピン構造などの二次構造を作っている
  • プライマーダイマーが形成されている
  • GC含有率が低すぎる、またはプライマーが短すぎるため融解温度が低すぎる
  • 非特異的な増幅産物がみられる
プライマーの設計を見直す
使用している試薬やサンプルにコンタミネーションが発生している
  • 新品の試薬を使用する
  • DNAサンプルやプライマーのコンタミネーションを防ぐために、実験ベンチをデコンタミネーションする、PCR実験前と後で実験ベンチを分ける、フィルター付きチップを使用する、手袋をつけるなどコンタミネーションを防ぐ対策をとる

まとめ

ノイズピークの特性を理解し、発生をできるだけ防ぐことは、適切な結果の解釈のためにとても重要です。さらに、これによりデータ解析の効率が向上し、時間と労力を節約できます。

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