有害大気(六価クロムを含む粉じん)規制における基本知識
クロムは人体の必須栄養素の一つであり、食品にも含まれる物質です。一方、六価クロムは発がん性が認められた、人体に有害な物質であり、六価クロムが多く含まれた有害大気を吸入するだけでも炎症や障害などを引き起こすとされています。そのため、大気汚染防止法にて六価クロムは規制対象(優先取組物質)として選定されており、測定を行わなければなりません。しかし、六価クロムは化学的に不安定な物質であり測定が非常に困難な物質であるため、六価クロムの検出/測定方法は少し特殊なものとなります。
大気粉じん中のクロム化合物の存在形態は、主として三価クロム(クロム(Ⅲ))および六価クロム(クロム(Ⅵ))ですが、健康に対する影響などの観点から特に問題となるのは六価クロムです。ところが一般的に六価クロム化合物は還元されやすく、大気試料の捕集中にも形態の変化があるため、アルカリ含浸フィルターで六価クロムを捕集し、水で抽出する必要があります。
環境省から発表されている有害大気汚染物質測定方法マニュアルにおける六価クロムに関するガイドライン、「大気粉じん中の六価クロム化合物測定方法」に準拠して六価クロムの検出/測定方法をご紹介します。
六価クロム規制に対応する測定方法
大気中の六価クロムを安定的に捕集するため、アルカリ含浸フィルターを用いることが推奨されます。また、イオンクロマトグラフ-ポストカラム吸光光度法(IC-PC法)を用いれば、アルカリ含浸フィルターの抽出液の六価クロムを形態別に測定することが可能です。
図1に、吸光光度法による分析システムの流路図を示します。クロム(Ⅵ)はクロム酸イオンとしてイオンクロマトグラフで分離後、反応液であるジフェニルカルボノヒドラジド-硫酸溶液を添加して40 ℃で反応させます。生成した赤紫の錯体は吸光光度検出器を使用し、波長540 nmで検出します。
吸光光度法を用いた場合の六価クロム環境基準に準拠した目標定量下限値
環境省のマニュアルには、大気粉じん中の六価クロムについて「目標定量下限値は、米国環境保護庁(EPA)の10-5リスクレベル基準が0.8 ng/m3 であることから、その10分の1である0.08 ng/m3 を測定できることとし、可能であれば、さらに低レベルの基準であるWHO欧州事務局ガイドラインの0.25 ng/m3 の10分の1である0.025 ng/m3 まで測定できることが望ましい」と記載されています。
その目標定量下限値を踏まえて、吸光光度法(IC-PC法)を用いたときの目標定量下限値(アルカリ含浸フィルターの抽出液に対しての定量下限値)は0.1 μg/L、可能であれば0.04 μg/Lが望ましいことになります(表1)。
溶離液条件の選択肢
「大気粉じん中の六価クロム化合物測定方法」に従って六価クロムの測定方法を設定する場合、溶離液条件は硫酸アンモニウム/アンモニア水溶離液条件と水酸化物溶離液条件、そして炭酸ナトリウム/炭酸水素ナトリウム溶離液条件の3つがあります。これについて、各種測定条件を用いたときの六価クロムの測定感度について確認しました。実際の研究データや分析結果を詳しく知りたい方はこちらのリンクから資料をダウンロードしてご覧ください。
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