PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)は、分子生物学の実験の根幹をなす非常に重要な技術です。PCRを行った後、アガロースゲル電気泳動で目的DNAのバンドを確認する前は、4℃で一時保存することが多いのではないでしょうか。しかし、長時間の4℃保存にはいくつかの懸念が存在します。例えば、サーマルサイクラーに負担がかかる、アルミブロックが結露する、電気代が高くなるなどです。
そこで、本記事では、4℃、15℃、25℃での保存がPCR産物にどのような影響を与えるのか検証しました。
材料と方法
今回のPCRには、InvitrogenTM PlatinumTM SuperFi II DNA Polymerase を含むマスターミックスを使用しました。この酵素は、高精度・高収量・高阻害耐性が特長です。また、サーマルサイクラーはApplied BiosystemsTM ProFlexTM PCR System(3 x 32-wellブロック)を使用し、3条件について同時に検討しました。なお、Platinum SuperFi II DNA Polymeraseのサンプル配布や、サーマルサイクラーのデモについてはページ下部からお申し込みいただけます。
実験の具体的な手順:
HeLa 細胞由来のcDNAを鋳型として、PCRを実施しました。1台のProFlex PCR Systemにて3つのブロックを同時に使用し、最後の保存の条件だけを変更して実施しました。
温度条件は下記の通りです。
| 1. | 98℃ | 30 sec |
| 2. | 98℃ | 10 sec |
| 3. | 60℃ | 10 sec |
| 4. | 72℃ | 30 sec |
| 5. | 72℃ | 5 min |
| 6. | 4 or 15 or 25℃ | 16時間 |
※2~4は30回繰り返した
PCRが終了したら、翌日まで16時間ほど放置してInvitrogenTM E-GelTM プレキャストアガロース電気泳動システムを使用し10分間の電気泳動を実施しました。
結果と考察
それでは結果を確認しましょう。

図1 それぞれの温度で一時保存した後の電気泳動結果
MのレーンはDNAサイズマーカーです。1・2・3は4℃保存、4・5・6は15℃保存、7・8・9は25℃保存の結果です。1・4・7はPCR産物の原液を泳動しており、2・5・8は3倍希釈したもの、3・6・9は9倍希釈したものを泳動しました。その結果、4℃保存、15℃保存、25℃保存の間で、PCR産物の安定性に大きな差は見られませんでした。このことから、今回の実験系ではPCR後の一時保存の温度はPCR産物の分解には大きく影響しないことが考えられました。
15℃や25℃での保存の利点
装置への負担軽減:
サーマルサイクラーを4℃に設定すると、装置にかかる負担が大きくなります。特に、ペルチェ素子を使用した冷却システムでは、低温を維持するために多くのエネルギーを消費し、長時間の使用では装置の寿命に影響を与える可能性があります。15℃や25℃に設定することで、ペルチェ素子への負担を軽減し、装置全体の寿命を延ばすことができます。
結露の防止:
4℃で保存すると、アルミブロックが結露しやすくなります。結露は汚染拡散や機材の劣化を引き起こす可能性があります。15℃や25℃では結露のリスクが低くなり、アルミブロックの品質を維持しやすくなります。
電気代の節約:
4℃での保存は、サーマルサイクラーの冷却機能を頻繁に使用するため、ペルチェ素子が多くの電力を消費します。これにより、電力消費が増加し、電気代が高くなることが予想されます。15℃や25℃に設定することで、ペルチェ素子の消費電力を抑え、電気代の節約が期待できます。
まとめ
今回は、PCR後の保存温度として一般的な4℃に対し、15℃や25℃での保存がPCR産物の分解にはほとんど影響しないことを実験によって確認しました。15℃や25℃の保存は、装置への負担軽減、結露の防止、電気代の節約といった利点があります。
PCR後にバンドの有無を確認するだけの実験であれば、15℃や25℃での保存を試してみても良いかもしれません。実際、私がPCRでバンドの有無を確認するだけの実験をするときPCR後、オーバーナイトで放置するような場合は15℃に設定することがあります。これにより、装置への負担が軽減し、ラボ運営のコスト削減にもつながる可能性が考えられます。
Platinum SuperFi II DNA Polymeraseのサンプルリクエストは
ProFlex PCR System(3 x 32-wellブロック)を含むサーマルサイクラーのデモ依頼は
Invitrogen E-Gel プレキャストアガロース電気泳動システムでの泳動の様子
【やってみた】アガロースゲル電気泳動でDNAが分離していく動画を撮影してみた
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。



