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大規模なジェノタイピング結果はポリジェニックリスクスコアの進歩につながる

Written by LatB Staff | Published: 03.18.2022

予測ゲノミクスブログ(英語)では、臨床研究における遺伝的リスクのスクリーニングと薬理ゲノミクスの利用と効果に関する展望を紹介しています。

予測ゲノミクスは、転帰改善とコスト管理に健康管理の重点を置いて、病気になるリスク研究と薬剤応答を理解するための強力なツールとなります。遺伝子をベースにした研究をお考えであれば、当社に連絡していただくか、当社の予測ゲノミクスソリューションをご参照ください。

ジェノタイピングに基づいて個人の疾患リスクを予測することは、ゲノム医学のもっとも魅力的な成果の1つです。特定の疾患リスクが高いと判定された人には、臨床診断、投薬手順、あるいは生活様式の変更を含んだ、より的確な治療法が提供される場合があります。また、診断、予後、治療の改善により、より良い成果が得られ、全般的に患者の医療費負担が下がる場合もあります。

これまでの10年間の遺伝子研究により、心臓病、がん、糖尿病、脳障害のような多くの一般的な複雑な疾患では、まれな単一遺伝子変異よりも、1つだけでは影響が小さい遺伝的変異が複数存在することが、大きな影響を与える可能性があることが明らかになりました。つまり、ゲノム全体にわたって存在する何千もの変異が1つの形質となるかもしれません。数千ある中の1つの変異は、複雑な形質を予測することにはそれほど有益ではありませんが、ある1つの指標やポリジェニックリスクスコア(PRS)によって多くの一連となる変異の累積効果を定量化できれば、この課題を克服できるかもしれません。

PRSは、ゲノムワイド関連研究(GWAS)から計算されますが、それは個人が保有するリスクに関連した対立遺伝子数を合計し、その影響の大きさに従って重み付けしています。研究者たちは、GWASの初期からPRSの開発を試みてきました。しかし、最初の取り組みは以下の3つの課題によって妨げられました。
1)小規模なGWASでは、個々の変異でリスクへの影響を推定する精度に限界がありました。
2)リスクスコアリング計算法に限界がありました。
3)PRSを検証およびテストするために必要となるデータセットにも限界がありました[1]。

▼もくじ

  • 新たな研究でPRSを検証
  • 考慮する必要のある事項
  • 最後に
  • 【無料オンラインセミナー】予測ゲノミクスに関するエキスパートからの新しい知見

新たな研究でPRSを検証

GWASの機能は、その初期から大きな進歩を遂げており、臨床用ツールとしてPRSを使用するための新たな研究と期待を導いています。表現型と遺伝子に関する豊富なデータを提供するバイオバンクが増加していることで、研究者たちはPRSの検証とテストに必要な非常に大規模で長期的なコホートを集めることができます。現在、研究者たちは多くのGWASデータを利用でき、いくつかは100万人のデータからなるものもあります。PRSを計算するための新しい方法も開発されました。

たとえば最近、マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学医学部、およびブロード研究所のチームは冠動脈疾患、心房細動、2型糖尿病、炎症性腸疾患および乳がんの5つの一般的な疾患のゲノムワイドなPRSを開発して検証しました[1]。UKバイオバンクでは、Applied Biosystems™ UK BiLEVE Axiom™ アレイ、あるいはUK Biobank Axiom™ アレイのいずれかを使用して40万人以上ものジェノタイピング解析を行いました。どちらのアレイとも、ゲノム全体に散在する80万を超える遺伝マーカーが搭載されています。追加のジェノタイピングデータは、Haplotype Reference Consortiumリソース、UK10Kパネル、および1000 Genomes Projectパネルを使用して補完しました。この取り組みにより、これらの疾患に対するリスクが3倍以上増加することが統計的に有意な割合で示されました。スコアはUKバイオバンク集団内で検証、およびテストされました。

2つ目の最近の世界的な取り組みは、乳がんのサブタイプ分類を可能にする方法を開発して乳がんのリスクスコアリングをさらに掘り下げるために、69の研究から17万人の被験者を集めました[2]。この研究で開発されたPRSは、2万人の独立した試験対象者とUKバイオバンクの19万人の被験者のコホートによる10件の前向き研究で経験的に検証されました。UKバイオバンクサンプルは、UK BiLEVE AxiomアレイとUK Biobank Axiomアレイを使用してジェノタイピング解析を行ない、1000 Genomes ProjectとUK10Kリファレンスパネルでデータを補完しました。この研究は、サブタイプ特異的疾患を予測することにも至適化されたER特異的乳がんを予測するPRSを生み出しました。

考慮する必要のある事項

PRSは非常に期待するものがあります。ただし、そのアプリケーションには注意し、いくつかの問題を考慮する必要があります。

・他の内在する要因がPRSに影響を与える可能性があります。一部の疾患では、遺伝的要素が影響力のある最大の要因ではない場合があります。
たとえば、肥満の人はPRSが低くても、PRSの高い痩せた人よりも糖尿病の予防に取り組む必要があります。家族歴、社会経済的および物理的環境、そして生活様式などの要因が疾患リスクに影響を与えることもよく知られています。疾患が異なれば、スコアリング要因も異なります。リスクを層別化するための遺伝的要因は、これらのスコアリング要因やその他のリスク要因とどのように統合したら良いでしょうか?共通した経験の要因を持つ個人に焦点を当てたバイオバンクは、これらの質問への回答に役立ちます。たとえば、東北メディカルメガバンク機構(ToMMo)は、2011年の衝撃的な大地震による健康への影響を研究するために、15万人規模の日本人一般集団由来の遺伝学的な生物検体データを収集しています。ミリオン·べテラン·プログラム(MVP)は、特に軍事に関わった影響やその他の疾患の研究のために、米軍に勤務した人たちだけのバイオバンクです。

・臨床医は、病理学、画像診断、血液検査、患者の所見など、さまざまな方法、ツール、指標を使用して疾患の診断と予後を診断します。遺伝情報は診断ツールとして新しく追加された強力な情報ですが、他のツールに置き換わるものではありません。PRSは他の臨床指標とどのように統合できるのでしょうか?

・現時点で利用可能なジェノタイピングデータ、コホート、バリアントパネルのほとんどは、主にヨーロッパ系の人々を対象にして開発およびテストされています。しかし、多くの疾患は異なる集団では影響や有病率が異なります。
たとえば、アフリカ系アメリカ人はヨーロッパ系の人々よりも心血管疾患の発生率が高いです。この場合、ヨーロッパの集団からのコホートおよびバリアントパネルを使用して開発されたPRSは、アフリカ系アメリカ人に対して適合していない可能性があります。中国のKadoorieバイオバンクやフィンランドのFinnGenプロジェクトなどの特定集団のバイオバンク、およびAppliedBiosystems™ Axiom™GenomeWide Population-Optimized Arrayなどを利用することは、特定集団の多様性を決定し、民族グループやその他の集団において偏りなくリスクの層別化を確保するために不可欠です。

・PRSの臨床的応用には、非常に難解な倫理的問題につながります。何らかの症状が発症するかなり前に個人のPRSを決定することは可能かもしれませんが、その他の結果について患者、あるいは臨床医は知らない方が良い場合があります。
たとえば、リスクを大幅に最小限に抑えることができる複数のスクリーニング、臨床治療、生活様式の選択肢がある心臓病と比較して、現在有効な治療法がないアルツハイマー病などを考えてみましょう。早期発見や早期予防が可能な場合でも、医療関係者は疾患を持つすべての人たちに対処する情報を制限したり、さまざまなリスクレベルを持っている人たちには提供する情報に優先順位を付ける必要があるかもしれません。潜在的なリスクのある患者にはPRSデータをいつ、そして、どのように提供すべきでしょうか?

最後に

検証済みのPRSを公開した最初の研究が発表されると、高精度医療の時代における疾患診断、予後、および治療に対するPRSの潜在的な貢献に期待が高まりました。一方で、他の疾患要因、追加の診断、サンプルの偏り、そして倫理的な問題といった検討事項があります。GWASとバイオバンクの規模が継続的に広がっていくことは、計算手法の進歩とともに、将来的に有望なツールとして役立つ新たなPRS手法の開発が加速され、統計的検証が強化されていきます。

他の研究者が採用したジェノタイピング戦略については、thermofisher.com / scientistspotlight にアクセスしてください。

研究用にのみ使用できます。診断目的では使用できません。

技術的なご質問がありましたら、https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/jp-contact.html にお問い合わせください。

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参考文献
1. Khera, A.V., et al. (2018) 一般的な疾患に対するゲノムワイドなポリジェニックスコアは、単一遺伝子変異と同等のリスクを持つ個人を特定する Nat Genet 50: 1219–1224
2. Mavaddat、N., et al.(2019) 乳がんおよび乳がんサブタイプの予測のためのポリジェニックリスクスコア Am J Hum Genet 104: 21–34

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