【やってみた】 シーケンス解析サンプルの経時変化を調べてみた

サンガーシーケンス解析では、シーケンス反応により、蛍光標識されたDNA断片を作製します。シーケンス反応後に、反応液に残存する余剰の蛍光標識ジデオキシヌクレオチドを除去するために精製を行います。この精製をエタノール沈殿などにより行った場合、シーケンス反応産物はドライアップされた状態となるため、Applied Biosystems™ Hi-Di™ Formamideで懸濁し、シーケンス解析サンプルとする必要があります。ただ、Hi-Di Formamideは劣化しやすい試薬で、その影響はDNAに標識された蛍光色素にも及ぶため、Hi-Di Formamideで懸濁した後は、速やかにシーケンス解析を行うことを推奨しています。これに対し、「データを確認し、数日後に再ランが必要と判断されることがあるため、シーケンス解析サンプルが経時的にどの程度劣化するのか知りたい」と、お客さまからご要望をいただくことがあります。

そこで、シーケンス反応産物のモデルとしてApplied Biosystems™ Sequencing Standard, BigDye™ Terminator v3.1, for 3500/SeqStudio™ Flexを用い、Hi-Di Formamideで懸濁したサンプルのシーケンス解析データの経時変化を追跡しました。

実験

使用試薬

使用機器・ソフトウエア

サンプル調製・ラン条件

  1. Sequencing Standards, BigDye Terminator v3.1に300 µLのHi-Di Formamideを添加し撹拌
  2. 96-wellプレートに10 µLずつ分注(図1 ①~④のWellに分注)
  3. 2.を、95℃で2分間熱処理後、氷冷
  4. 3.をSeqStudioジェネティックアナライザにセット
  5. サンプル調製当日(図1 ①)、1日後(②)、2日後(③)、6日後(④)にランを実行
    <ラン条件> Dye Set: Z、ランモジュール:LongSeq
    <サンプル保管条件> 室温、遮光環境にて保管
図1. 96-wellプレート上のサンプル配置位置

図1. 96-wellプレート上のサンプル配置位置
黒字:インジェクション順序、青字:キャピラリー番号

解析

シーケンス解析の結果、得られた波形(Raw Data)の経時変化を図2に示します。サンプル調製当日から2日後までは、ピーク形状に大きな変化はありませんでしたが、6日後は、ピーク幅が太く、赤と緑のピークが目立つ結果となりました。

図2 Raw Dataの経時変化(キャピラリー#2の結果)

図2.Raw Dataの経時変化(キャピラリー#2の結果)

表1に、精度よく塩基配列が決定された連続塩基長を示します。サンプル調製当日から2日後までは、連続塩基長に大きな変化は見られませんでしたが、6日後は大幅に短くなりました。サンプル調製当日のキャピラリー#3は、他のキャピラリーに比べ連続塩基長が短くなっています。Raw Dataを確認すると、波形の終盤のピーク幅が太くなり、分離不良の症状が認められました。1日後に同じキャピラリーで取得された波形では、この症状は解消されていたことから、偶発的に混入した気泡などに起因する分離不良と考察しています。

表1.精度よく塩基配列決定された連続塩基長

  連続塩基長*
キャピラリー# #1 #2 #3 #4
サンプル調製当日 884 894 725 944
1日後 883 882 884 889
2日後 877 875 884 897
6日後 204 517 522 326

* Length of Read (LOR) : Average QV of 20 bases≧20

図3に、キャピラリー毎の、読み始めから読み終わりまでの各塩基の平均蛍光強度を示します。いずれのキャピラリーでも、4塩基全てで、経時的な蛍光強度の低下が認められ、サンプル調製から2日後には、調製当日の半分以下の蛍光強度まで低下していました。

図3.各塩基の平均蛍光強度の経時変化
(a) キャピラリー#1、(b) キャピラリー#2、(c) キャピラリー#3、(d) キャピラリー#4

まとめ

今回は、Hi-Di Formamideで懸濁したシーケンス解析サンプルの経時変化を検証しました。Sequencing Standardを用い、サンプル調製当日、1、2、6日後にシーケンス解析を実行したところ、以下の結果となりました。

  • 波形と、精度よく解析された塩基長は、2日後までは大きな変化は見られなかったが、6日後の波形はピーク幅が太くなり、解析された塩基長も短くなった
  • 蛍光強度は経時的に低下し、サンプル調製から2日後には、調製当日の半分以下になった

今回の検証に用いたサンプルでは、サンプル調製当日の各塩基の平均蛍光強度は1000 RFU以上でした。もし、調製当日の蛍光強度がもっと低いサンプルの場合、解析塩基長への影響が、今回の検証結果より早い段階で生じる恐れもあります。良好なシーケンス解析結果を得るためにも、Hi-Di Formamideで懸濁後は、できるだけ速やかにシーケンス解析を行っていただくことをおすすめいたします。

以下のブログでは、シーケンス反応後、精製前のサンプルを一定期間保管した場合の検証結果をご紹介しています。ご興味がございましたら、併せてご覧ください。

【やってみた】サイクルシーケンス反応後に時間が経過しても大丈夫?

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