前編では、バイオプロセシングにおけるシングルユース製品の抽出物と浸出物の違いや、シングルユース製品とE&Lの規制ガイドラインについてお伝えしました。後編ではBioPhorum Operations Group(BPOG)のE&L試験プロトコルや、その結果の解釈についてお伝えします。
こんな方におすすめです!
・シングルユース製品のE&L試験について知りたい方
・シングルユース製品のE&L試験結果の解釈にお悩みの方
・当社シングルユースバッグに使われているフィルムの性質を知りたい方
BPOGのE&L試験プロトコル
ここからは、BPOGの提案する抽出物試験プロトコルを見ていきましょう。BPOGは前編でもお伝えした通り、E&Lデータの比較を実現するため、BPOGに所属する20の団体はBPOGの抽出物プロトコルを採用しています。このプロトコルでは、シングルユースバッグ、チューブやコネクター、センサー、フィルターなど、それぞれに適した試験条件が示されています。
BPOGが作成した抽出物のマトリックスを表1に示します。縦が製品、横が試験の条件を示しており、溶媒、溶媒と製品の表面積比、抽出温度、抽出液を取得するタイムポイント、分析方法、単位、滅菌方法があります。まず溶媒ですが、表中の全製品についてWFI, 50%エタノール、0.1 M リン酸、0.5規定のNaOHについて試験を実施する必要があります。続いて溶媒と製品の表面積比はシングルユースバッグ各種とチューブ、コネクター、センサーは表面積6に対して溶媒1、フィルター類は1:1で実施します。インキュベーションは40 ℃で実施し、シングルユースバッグは24時間、21日、70日の3つのタイムポイント、滅菌フィルターとコネクターは24時間、7日、プロセスフィルターとセンサーは24時間、21日の2タイムポイントで抽出液をサンプリングします。分析方法はHPLCやガスクロマトグラフィーなど表中に記載されている方法で実施し、それらのデータはμg/cm2もしくはμg/cmとμg/cm2の両方の単位で算出します。各種製品はガンマ線照射もしくは蒸気滅菌にて滅菌する必要があります。
続いて、浸出物試験について説明します。浸出物試験もBPOGのガイドラインを参照することで、シングルユース製品からの浸出リスクを評価するための試験を設計や適切な分析手法の選定、さらには抽出物試験に関する推奨事項といった知識を得られます。
まず、浸出物のリスク評価を行います。表2に示すリスク評価項目を参考に点数化し、浸出物試験の要否を判断します。浸出物のリスク評価を行う際には、細胞培養などのアップストリーム工程から最終製剤化までのどの段階で使用されるものなのかを意味するプロセス段階、使用するときの温度、プロセス液と接する時間、プロセス液との相互作用、希釈率の5項目について点数化します。各項目について説明します。まず、プロセス段階ですが、アップストリーム工程のプロセス液から浸出物が検出されても、最終製剤になるまでの精製工程で取り除かれる可能性があるため、精製工程で検出されるよりもリスクは低いと言えます。反対に最終製剤化される段階で浸出物が検出されると、取り除くことが困難となるため、リスクは高くなります。続いて温度ですが、一般的に温度が高いほど浸出物が検出される可能性が上がるため、温度帯を細かく区切って点数化していきます。凍結と融解を繰り返すことでポリマー材へ与え得る影響も軽視できないため、温度帯は、0℃未満、0~8℃、8~30℃と30℃以上に分けて考慮することを推奨しています。つまり、プロセス液との接触時間が60分未満の一過性の処理や暴露では化合物がシングルユース製品から溶出されるリスクは低くなり、長ければ長いほどリスクが上がります。プロセス液との相互作用は高分子成分に由来する化学物質のプロセス液への溶解性が重要となります。極性有機化合物は本質的に極性のある水溶液に移行する傾向があります。一方、極性の低い有機化合物は、極性の低い水溶液に多く溶解します。また、液体のpHは有機物質の溶解性に影響を与えます。これはpH変化により、一部の有機物の極性が変わる場合があるためです。希釈率は、シングルユース製品とプロセス液との接触面積で評価し、プロセス液と接する面積が大きいほど、またプロセス液の量が少ないほど浸出物の濃度が高くなります。これら5項目を、表2に基づき点数化していきます。例えば、アップストリームで細胞培養に使用するシングルユースバッグの場合、製品化までの距離はアップストリームなので1点となり、比重が0.4であることから点数は1×0.4で0.4、次の項目である暴露温度は一般的な培養温度の37℃なので9に比重0.15をかけて1.35、といったように、各項目であてはまる条件の点数と比重をかけ、最後にそれらを合計した点数が浸出物のリスクレベルとなります。
浸出物のリスク評価表を用いて点数化した後、図3に示すLow、Medium、Highのどの段階に分類されるのかを確認し、それぞれのレベルで必要となるデータを取得します。例えば計算の結果、浸出物リスクレベルが1~3.6のLow Riskの場合にはUSPクラスVIなどの規格を満たすことが求められ、3.7~6.2のMedium Riskでは、Low Riskの要求に追加して抽出物データの取得が求められます。High Riskと判断された場合には、Medium Riskでの要件に加えてプロセス特異的な浸出物試験の実施が求められます。
浸出物試験を行う場合、できる限り実際にその製品を使用する条件に合わせてデータを取得する必要があります。実液を準備することが困難な場合には、できる限り実液と同じ組成の溶液を準備します。また、データを取得した際に浸出物が検出されているのかどうかを明確にするためにネガティブコントロールを準備することも大切です。温度や時間は実際のプロセスに合わせ、さまざまなポイントでサンプリングすることが望ましいです。試験時には十分な数量のサンプルを準備し、かつできるだけ高い表面積:体積比を得られるように考慮します。詳細はBPOGの浸出物に関するガイドライン「Best practices guide for evaluating leachables risk from polymeric single-use systems used ㏌ biopharmaceutical manufacturing」を参照ください。
フィルムやチューブ、コネクター、フィルターなどのサプライヤーは抽出物試験を実施し、お客さまのプロセスに適した製品であるかをご検討いただくための情報を準備しております。当社もAegis5-14やCX5-14フィルムといった製品の抽出物試験データを提供しております。リスク評価を実施される際には、ぜひあらかじめ抽出物試験データをサプライヤーから入手し、安全な医薬品の開発にお役立てください。
まとめ
今回は、シングルユース製品におけるE&L試験について紹介しました。当社で製造しているフィルムの抽出物試験データが必要な場合にはお気軽にお問い合わせください。
今回ご紹介した2Dシングルユースバッグおよび3Dシングルユースバッグをはじめとする当社シングルユースバッグは再生医療クリエイティブ・エクスペリエンス・ラボ(Thermo Fisher Scientific Creative Experience Lab for regenerative medicine: T-CEL)にて見学が可能ですので見学を希望される場合はこちらへお問い合わせください。
また、シングルユースバッグに関する関連資料は、下記リンクよりご確認いただけます。
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