佐伯亘平氏(東京大学農学部獣医外科学)
「検査試料の尿には、膀胱炎の時と同じくらいに非常に多くの炎症細胞が含まれることがあり、わずかにこぼれ落ちた腫瘍細胞を病理的に診断するには経験を要します(図1)。一方、腫瘍細胞だけに含まれる遺伝子変異を検出しようとしても、シーケンシング法では感度的に厳しく、感度が高めの制限酵素断片長多型(RFLP)法では品質管理が必要なステップが多く、再現性に不安を感じていました。そこでリアルタイムPCR法とデジタルPCR法を試してみることにしました」と佐伯氏は振り返ります。「コントロールサンプルで、この2つの検出法を比較した結果、デジタルPCR法の感度が50倍ほど高く、しかも尿中のBRAF遺伝子の変異を100%の正確性で見事に検出できました(図2)」。
炎症を伴うイヌ腫瘍の尿検体のHE染色画像。矢印は、多くの炎症細胞中の典型的な腫瘍細胞を指しています。この検体のデジタルPCR法での検出結果は、変異遺伝子0.17%でした。
イヌの症例から検出したBRAF変異遺伝子と正常遺伝子を段階希釈し、4種類の方法で遺伝子の変異検出率を比較しました。PCRダイレクトシーケンス法では13,2%、RFLP法では0.52%、リアルタイムPCR法では6.8%、デジタルPCR法では0.14%までの変異を検出できました。
アプリケーションデザインサービスで時間とコストをカット
最初はリアルタイムPCR法による検出法だけを想定していた佐伯氏。「TaqMan法を使うのは初めてだったので、テクニカルサポートに問い合わせたところ、アプリケーションデザインサービスを勧められました。サービスの担当者に実験目的やサンプルの状況や従来法の問題点を説明すると、リアルタイムPCR法とデジタルPCR法による比較検討を提案されたんです」とこのサービスを知ったきっかけを話します。「TanqManプローブとプライマー構築に試行錯誤する時間やコストを考えると、今回はこのサービスで実験が効率化できました」と佐伯氏は語ります。
2016年春、佐伯氏は日本獣医内科学アカデミー(JCVIM)学会において「犬尿路移行上皮癌と前立腺癌におけるdigital PCRによるBRAF遺伝子変異検出法の確立とLiquid biopsyの有用性評価」というタイトルで発表し、研究アワード受賞しました。「この方法と従来の細胞診断を併用すれば、イヌの膀胱移行上皮がんの9割を診断可能になります。今後は、研究室の学生やテクニシャンだけでなく、他の施設にもこの検出法を広げたいですね。デザインサービスで、きめ細やかなプロトコールが提供されているので、誰でも再現性の高いデータが得られると安心しています」。さらに異なるがんの診断法開発や血中DNAによる遺伝子変異の検出など、新たなアッセイ系の開発も進めていきたいと語る佐伯氏。ペットのQOL向上を目指した研究が続きます。
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