マイクロアレイを使用した遺伝子発現解析は現在もっともポピュラーな方法で、発現比較研究やバイオマーカー探索に広く使用されてきた実績があります。近年も、選択的スプライシングやIncRNA解析を中心にアレイは広く使用されており、マイクロアレイは遺伝子発現解析の中心プレーヤーであるといえます。
今回のブログでは、GeneChip™ 3′ IVT PLUS Reagent Kit のサンプル調製に関する手引きをご紹介します。GeneChip™ 3′ IVT PLUS Reagent Kit は、総RNA量わずか50ngを1回増幅するだけで検出に進めることができ、GeneChip 3′ IVT Express Kit(3′ IVT Express Kit)を用いることで、前データを損なうことなく高品質データを継続的に取得できます。この簡易プロトコルを参考に、若い研究者さま方にも改めて、GeneChip WTアレイのサンプル調製に関するあれこれを広く知っていただければと思います。
対象製品:Applied Biosystems™ GeneChip™ 3’IVT Plus Reagent Kit
対象製品番号:902415(10反応分)、902416(30反応分)
公式ユーザーガイドと併せてご覧ください。
※3’IVT Plus Reagent Kitにはマイクロアレイは付属しません。3’IVT Plus Reagent Kitとマイクロアレイのセット品、もしくは3’IVT Plus Reagent Kitに対応するマイクロアレイをご購入ください。マイクロアレイと試薬の選択についてはExpression Microarray Reagent Guideをご参照ください。
▼もくじ
このキットのほかに、あらかじめご用意いただく試薬
・100%エタノール
・Applied Biosystems™ GeneChip™ Hybridizatoin, Wash, and Stain kit (製品番号 900720(30反応分))
アッセイに使用するRNA量
IMPORTANT:
Total RNA容量は5 μL以下にする必要があります(poly-A RNA controlsを使用する場合は3 μL以下)。
TIP:試薬調製に関して
・キットの凍結融解は3回以下で使用してください。
・酵素類は穏やかにボルテックスにかけて混合してください。バッファー類は沈殿物がなくなるまで、ボルテックスにかけてよく混合してください。
・マスターミックスやサンプルは穏やかにボルテックスにかけて、よく混合した後に素早くスピンダウンして、溶液を集めてください。
・マスターミックスはピペッティングによるロスに備えるために10%程度過剰に調製してください。
・反応後はサンプルチューブを簡潔にスピンダウンし、次のステップに進む前には氷上に置いてください。
・酵素をマスターミックスに加えるのは反応を行う直前に行うようにしてください。
Section 1:Poly-A RNA Controls、Total RNAの準備
1. 使用するTotal RNA量に応じて、Poly-A RNA Controlsを希釈してください。
TIP:希釈する時は正確性や一貫性を維持するために2 μL未満の容量でのピペッティング操作は避けてください。
2. 希釈したPoly-A RNA ControlsとTotal RNAサンプルを混ぜます。合わせて5 μLになるように調製してください。
Section 2:First-Strand cDNA合成
1. 氷上でマスターミックスを調製します。
2. 氷上で反応に使用するチューブへマスターミックス5 μLを分注し、Table 2で作成したTotal RNA/Poly-A Control Mixtureを加えます(Total volume 10 mL)。
3. First-Strand cDNA Synthesis program (Table B参照)に従って、サーマルサイクラーにて42℃で2時間、4℃で2分以上の反応を行います。
4. 反応終了後は速やかにSecond-Strand cDNA合成に進みます。
Section 3:Second-Strand cDNA合成
1. 氷上でマスターミックスを調製します。
NOTE:マスターミックスを調製している間にサーマルサイクラーのブロック温度を16℃にあらかじめ冷却しておきます。また、サーマルサイクラーのふたについては、加熱を止めるか、ふたの温度制御ができないサーマルサイクラーの場合はふたを開けたままで反応してください。
2. 氷上で反応に使用するFirst Strand cDNAサンプル10 μLにマスターミックス20 μLを加えます(Total volume 30 μL)。
3. Second-Strand cDNA Synthesis program(Table B参照)に従って、サーマルサイクラーにて16℃で1時間、65℃で10分、4℃で2分の反応を行います。
4. 反応終了後は速やかにIn Vitro Transcriptionに進みます。
Section 4:In Vitro TranscriptionによるLabeled cRNA合成
1. マスターミックス調製時、Second-Strand cDNAサンプルは室温に5分以上置きます。
2. 室温でマスターミックスを調製します。
NOTE:IVT Bufferを10分以上室温に置いてから、マスターミックスを調製してください。
3. 室温で各Second-Strand cDNA サンプル30 μLにマスターミックス30 μLを加えます(Total volume 60 μL)。
4. In Vitro Transcription cRNA Synthesis program (Table B参照)に従って、サーマルサイクラー(ふたの温度を40℃、または50℃に設定)にて40℃で4~16時間(Total RNAが250~500 ngの場合は4時間、50~250 ngの場合は16時間)行ってください。ふたの温度制御ができないサーマルサイクラーの場合は、Ovenを利用して40℃で反応を行います。5. 反応終了後はcRNA精製に進むか、速やかに冷凍保存します。
5. 反応終了後はcRNA精製に進むか、速やかに冷凍保存します。
TIP:STOPPING POINT~cRNAサンプルは-20℃で一晩保存できます。
Section 5:cRNA精製
cRNA精製を始める前に:
・少なくとも10分間はNuclease-free Waterを65℃にあらかじめ加温しておきます。
・精製ビーズは使用前によく混合しておきます。適当量を分割して室温で保持します。各反応サンプルに対して100 μL+10%過剰量が必要になります。
・80%エタノール洗浄液は必ず用時調製します。各反応サンプル対して600 μL+10%過剰量が必要になります。
NOTE:すべての工程を室温で行います。
精製ビーズへのcRNA結合
- 精製ビーズを再懸濁するためによく混合します。精製ビーズ100 μLを丸底ウェルプレートの未使用ウェルに移します。続いてビーズの入ったウェルに各cRNAサンプル60 μLを加えて、ピペッティング操作で混合します。
- ピペッティング操作を10回行ってよく混合した後、10分間静置します。
- 磁気ビーズを集めるためにプレートをマグネットスタンド上に移動させて、5分間程度静置します。
- 磁気ビーズを分散させないように注意して上清を回収して廃棄します。プレートはマグネットスタンド上に静置しておきます。
精製ビーズの洗浄
- マグネットスタンド上で各ウェルに80%エタノール洗浄液200 μLを加えて30秒間静置します。
- 磁気ビーズを分散させないように注意してゆっくりと80%エタノール洗浄液を回収して廃棄します。
- ステップAとステップBを繰り返し、計3回の洗浄を行います。最終洗浄液は完全に除去します。
- 液体が見えなくなるまで5分間マグネットスタンド上で風乾させます。状況によってはさらに時間を要するかもしれません。ビーズを乾かしすぎないように注意します。
cRNAの溶離
- プレートをマグネットスタンド上から下ろします。各サンプルに、あらかじめ65℃に加温しておいたNuclease-free Water 27 μLを加えて1分間静置します。
- ピペッティング操作を10回行って、よく混合します。
- 磁気ビーズを集めるためにプレートをマグネットスタンド上に移動させて、5分間程度静置します。
- 溶離されたcRNAが含んだ上清をnuclease-freeのチューブに移します。
- 精製されたcRNAを氷上に置き、定量に進みます。
TIP:STOPPING POINT~精製されたcRNAサンプルは-20℃で一晩保存できます。長期保存する場合は、-80℃で保存します。
Section 6:cRNA収量の確認
Thermo Scientific™ NanoDrop™ Spectrophotometerなどの測定機器で260 nmの吸光度測定を行って、cRNAサンプル濃度を測定します。次の工程に進むためには、7.5~15 μgのcRNAが必要です(Table 6参照)。
※ビーズ精製後の濃度測定による液量ロスなどを考慮すると、必要量を確保するために、吸光度測定時のcRNA濃度は目安として469~521 ng/μL以上必要です(Table 6参照)。
Section 7:Labeled cDNAのフラグメント化
1. Arrayのタイプに合わせ、氷上でNuclease-free Waterを使って、Labeled cRNAを各容量に調整し、必要量の3’ Fragmentation Bufferを加えてください(Table 6参照)。
(例:49 Formatのアレイであれば、15 μgのLabeled cRNAを32 mLに調整し、8 μLの3’ Fragmentation Bufferを加えます)
2. Fragmentation program(Table B参照)に従って、サーマルサイクラーにて94℃で35分の反応を行い、反応終了後はサンプルを氷上に置きます。
3. Hybridizationに進むか、速やかに冷凍保存します。
TIP:STOPPING POINT~Fragmented and labeled ss-cDNAサンプルは-20℃で一晩保存できます。長期保存する場合は、-80℃で保存することを推奨します。
Section 8:ハイブリダイゼーション
NOTE:
・試薬が使用前には完全に融解していることを確認してください。DMSOは2~8℃で保存すると固まるので、使用後は室温で保存した方が使いやすいです。
・ここの工程では別途購入していただいたGeneChip Hybridization, Wash and Stain Kitを使用します。
1. 20×Hybridization ControlsをHybridization Control program (Table B参照)に従って、サーマルサイクラーにて65℃で5分加熱します。
TIP:キットご購入後、最初に65℃で5分加熱した後は1.5 mLチューブに150 μLずつ小分けにして保存しておくことをお勧めします。凍結融解を3回以内に抑えるためです。
2. 室温でHybridization Master Mixを調製します。使用するアレイによって量が異なるため、Table 7に従って調製してください。
3. Arrayのフォーマットに対応した量のPre-Hybridization Mixを Arrayに注入し(Table 8参照)、Hybridization Ovenで45℃、60 rpmで10~30分のPre-Hybridizationを行います。
4. 室温で、使用するArrayのフォーマットに対応した量のビオチン標識されたcDNAサンプルが入ったチューブにHybridization Master Mixを添加して、Hybridization Cocktailを調製します。
TIP:STOPPING POINT~Hybridization Cocktailは-20℃で1カ月程度、-80℃で1年程度保存できます。
5.穏やかにボルテックスにかけて、よく混合します。
6.Hybridization CocktailをHybridization Cocktail program (Table B参照)に従って、サーマルサイクラーにて、99℃(チューブの場合)または95℃(プレートの場合)で5分、45℃で5分加熱します。
7. 加熱後、短時間の遠心を行います。
8. 各フォーマットに対応した量をArrayに注入します。注入後は注入口のSeptaにタフスポットを貼ります。
TIP:169 or 400-Formatの場合、英文プロトコルでは注入量が80 μLとなっておりますが、90 μLの注入をお勧めします。これは、ハイブリダイゼーション中の蒸発による析出を防ぎやすくするためです。
9. Hybridization Ovenで45℃、60 rpmで16時間のHybridizationを行います。
Section 9:洗浄と染色、スキャン
・サンプル情報登録方法やApplide Biosystems™ GeneChip Fluidics Station、Scannerの操作方法については、GeneChip™ Command Console (GCCまたはAGCC) クイックスタートガイドで確認してください。
・ここでは洗浄と染色作業で使用する試薬類の分注作業などを記載します。
1. Fluidics Stationの電源を入れ、Wash A、Wash B、超純水の入ったボトルをセットして、GCC Fluidics Control※を起動し、Primeを開始します。
※AGCC Fluidics Controlとも呼びます。
2. Hybridizationを行っているArrayの枚数に合わせて、Stain Cocktail 1、Stain Cocktail 2、Array Holding Bufferをそれぞれ分注したvialを準備します。
・Stain Cocktail 1 600 μL (遮光チューブ)
・Stain Cocktail 2 600 μL (透明チューブ)
・Array Holding Buffer 800 μL (透明チューブ)
TIP:Stain Cocktail 1用に遮光チューブのご用意が難しい場合は、透明チューブに入れ、使用直前まで遮光の環境下に置いておいてください。
3. Hybridizationが終了したArrayをHybridization Ovenから取り出してタフスポットをはがし、Hybridization Cocktailを回収します(データが確実に取れたことを確認できるまでは-20℃で保存)。
4. GCC Fluidics ControlでWash and Stainを開始します。
ArrayのFormatによって使用するプロトコルが異なります。
また、このタイミングでScannerの電源を入れておきます。
5. Fluidics Stationの液晶画面にEJECT & INSPECT CARTRIDGEが表示されたらArrayを取り出し、ガラス面に気泡がないことを確認し、Septaにタフスポットを貼ります。もし、気泡が認められたら、マイクロピペットを使ってArray Holding Bufferを気泡が入らないように入れ直してからタフスポットを貼ります。
6.GCC Scan Control※を起動し、ArrayのScanを開始します。
※AGCC Scan Controlとも呼びます。
7. Fluidics Stationを続けて使用する予定がなければ、Wash A、Wash Bのボトルを超純水の入ったボトルに交換し、GCC Fluidics ControlでShut Downを行います。Shut Down終了後、GCC Fluidics Controlを閉じ、Fluidics Stationの電源を切ります。
8. ArrayのScanが終了したらGCC Scan Controlを閉じ、Scannerの電源を切ります。
まとめ
プロトコルに関するご不明点や気になる点はテクニカルサポートまでお問い合わせください。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。