アガロースゲル電気泳動は、DNAなどの核酸を検出する一般的な方法です。その歴史は1960年代後半にまでさかのぼることができます(核酸ゲル電気泳動の歴史)。1960年代初頭の電気泳動では溶液中でDNAの移動度を調べていたようです。その後、数年のうちにポリアクリルアミド・寒天(Agar)・アガロース(Agarose)などのゲルマトリックスが有効であることが見いだされました。
はじめに
現在では、アガロースゲルを使用して電気泳動しDNAをサイズごとに分離することが一般的です。アルファベット順に試薬を整理しているラボでは、アガロース(Agarose)の近くに寒天(Agar)があるのではないでしょうか。アガロースは電気泳動に、寒天は大腸菌の培養に使用されるのが一般的かと思います。この寒天はアガロースとアガロペクチンから構成されています。電気泳動が利用され始めた当初は、寒天を使った電気泳動も行われていたようですが、アガロペクチンに硫酸基などが含まれているため電気浸透現象を起こして泳動を妨げていました。そこで、寒天からアガロペクチンを除いてアガロースを精製して電気泳動に使用したところ、良好な結果を得られるようになり今日の電気泳動にまでつながっています。
では、当初の寒天を使った電気泳動像は、どのような感じだったのでしょうか?また、ゲルの準備をする段階でアガロースの在庫が無いことに気付いてしまった非常事態の時でも、大腸菌培養用の寒天があれば実験を継続できるのでしょうか。やってみました。
結果
1%アガロースゲルと1%寒天(Invitrogen™ Select Agar™)をそれぞれ用意しました。同じ条件にて、PCR産物(856 bp)とDNAサイズマーカー(Invitrogen™ 1 Kb Plus DNA Ladder)を泳動した結果がこちらです(図1)。
左側が通常の1%アガロースですが、バックグラウンドも低くマーカーのバンドもややシャープなように思います。一方で右側の1%寒天ではバンドがややぼやけており、PCR産物の泳動像が乱れてしまいました。また、同一泳動槽にて同時に同条件で泳動したにもかかわらず、DNAのバンドの移動度が異なっていました。寒天の方が移動度が低下したのは、アガロペクチンの硫酸基などにより電気浸透の影響があったのかもしれません。ただ、移動度の違いはありましたが、寒天ゲルでもバンドの検出はでき、1960年代に思いをはせることができました。
実は、図1の結果は2回目のチャレンジでした。1回目では寒天ゲルを割ってしまったのでした。アガロースも寒天も、溶かす時やトレーに流し入れる時などのゲル作成過程では大きな違いを感じなかったのですが、手に持ってみた時に硬さとツルツル具合に若干の違和感を感じたので慎重に作業しました。そのため、寒天ゲルの扱いには気を付けていたつもりでしたが、せっかく電気泳動まで行ったゲルが滑って落ちてしまい、あっさり割れてしまいました(図2)。私はさまざまな濃度のアガロースゲルを取り扱ってきましたが、割ってしまうことはほとんどありませんでした。アガロースと比較して寒天はゲル強度が低いのかもしれません。パズルのように復元しようとしましたが、うまくできませんでした。
まとめ
アガロースのラボ在庫が無くなっていても、大腸菌用の寒天で代用することでバンドの有無を確認するくらいは可能なことが分かりました。今回は当社の培地用製品の寒天(Select Agar™)を使用しましたが、スーパーマーケットなどで市販されている寒天でも同様の結果が得られるのか気になるところです。
当社では、アガロースゲル電気泳動やPCRなど実際に実験(実習)を行いつつ学べる各種ハンズオントレーニングを開催しています。他にもRNA抽出やリアルタイムPCRといった核酸関連だけでなく、細胞培養やウェスタンブロッティングといったコースのご用意もございます。ハンズオントレーニングでは、今回のような実験結果もご紹介していますので、これから新しい実験を始められる方、より理解を深めたい方はぜひご参加ください!
今回の記事に関連する、過去のBlog:
【やってみた】電気泳動のバンドが太くなる原因は「バンドが斜め」
【やってみた】アガロースゲル電気泳動でDNAが分離していく動画を撮影してみた
核酸ゲル電気泳動―概要と歴史
核酸電気泳動ワークフロー―主な 5 つのステップ
核酸電気泳動の7つの注意点
核酸電気泳動のトラブルシューティングガイド
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