CAR T 細胞実験ワークフローにおすすめのPhospho-CD247:どのようにして T 細胞受容体(TCR)機能性マーカーを T 細胞パネルに加えるか

実験にどの T 細胞刺激プロトコルを使えばいいですか?

末梢血単核球細胞(PBMC)の刺激は、免疫細胞集団の増殖と分化に有用です。多くの場合、休止細胞またはナイーブ細胞と比較して、刺激を受けた細胞は異なる細胞表面受容体を発現します。さらに細胞内サイトカインの発現をアップまたはダウンレギュレーションします。刺激物質にはphorbol 12-myristate 13-acetate (PMA)、lipopolysaccharide (LPS)、staphylococcal enterotoxin B (SEB)、抗体、またはペプチドプールが用いられます[2]。適切な刺激物質および刺激条件は、標的とする細胞の種類およびサイトカインによって異なります。

CD3 zetaのリン酸化は、TCR 複合体を介する T 細胞活性化の指標です。また、TCR に結合したモノクローナル抗体による T 細胞の処理は抗原誘導性活性化モデルとして行われてます[3.4]。このプロセスの最初のステップでは、TCRと結合させるため抗 CD3 抗体で細胞を処理し、抗 CD28 抗体で共刺激シグナルを与えます。その後、抗 CD3 および抗 CD28抗体のホストIgG を認識する二次抗体で TCR 複合体のサブユニットを架橋することで、最適なシグナル伝達が行われ T 細胞が活性化されます。

使用する T細胞刺激プロトコルが十分にワークしているか、どのように確認すればいいですか?

TCR 活性化には次の CD3 サブユニットの細胞質尾部が関与します:CD3 gamma、CD3 delta、CD3 epsilon ならびにCD3 zeta(CD247とも呼ばれる)。TCR カスケードの初期ステップのひとつは、CD3 zetaのリン酸化です。これはLck 活性化のすぐ下流、ZAP-70、LAT および SLP-76 の上流で生じ、TCR の結合を直接識別できます。Lck 活性化は CD3 zetaのリン酸化の上流で起こりますが、これには IL-2、CD2 などの他の受容体シグナル伝達経路も関与しています。そのため、CD3 zetaは TCR特異的にT 細胞活性化を識別するよりよい方法といえます。

既知の発現パターンに基づいて、phospho-CD247(Tyr142)は、 T 細胞特異的な刺激後に刺激を受けた CD3+ T 細胞では発現が認められCD3-細胞では発現が認めらません(図 1A)。また B 細胞特異的な刺激を受けたCD19+細胞やCD19-細胞についても発現が認められませんでした(図1B)。

図1. 刺激後のヒト末梢血細胞の細胞内染色。(A) 青のヒストグラム:刺激なしのヒト末梢血細胞(青のヒストグラム)。紫のヒストグラム:CD3(クローン OKT3)(ファンクショナルグレード)とCD28(クローン 28.6)(ファンクショナルグレード)で 15 分間刺激した後、F(ab’)2-ヤギ抗マウス IgG(H+L)二次抗体(ファンクショナルグレード)で 5 分間インキュベートしました。IC Fixation & Permeabilization Buffer Setでプロトコルに従い固定および透過処理後、CD3(クローン UCHT1)およびPhospho-CD247(Tyr142)(クロ-ン 3ZBR4S)で細胞内染色しました。Phospho-CD247 (Tyr142)で染色したCD3+ 細胞を左に、CD3- 細胞の染色を右に示します。刺激後のCD3- 細胞での発現は認められませんでした。リンパ球ゲート内の細胞を解析に使用しています。(B) 青のヒストグラム:刺激なしのヒト末梢血細胞。紫のヒストグラム:F(ab’)2-Goat anti-Human IgG, IgM (H+L) 二次抗体(ファンクショナルグレード)で 5 分間刺激しました。IC Fixation & Permeabilization Buffer Setでプロトコルに従い固定および透過処理した後、CD19(クローン HIB19)およびPhospho-CD247(Tyr142)(クローン 3ZBR4S)で細胞内染色しました。CD19+ 細胞をPhospho-CD247 で染色したヒストグラムを左に、CD19- 細胞の染色を右に示しています。この B 細胞特異的な刺激後、どちらのグループも発現は認められませんでした。リンパ球ゲート内の細胞を解析に使用しています。

どのような研究にPhospho-CD247 を使用できますか?

Phospho-CD247 抗体を使用する研究としては、T 細胞活性化および CAR T 細胞の研究が考えられます。CD3 複合体のzeta鎖は T 細胞受容体の結合で始まるシグナル伝達カスケードの要因のひとつです。これは TCR の活性化に伴い Tyr142 がリン酸化され、ZAP70 のシグナルが続き応答を増幅します。Phospho-CD247 による染色は、TCR 受容体の活性化と機能性を実証します。特にこの抗体は、遺伝子操作された TCR が機能を保持しシグナルを受け伝達するかを判断する方法として、キメラ抗原受容体CARを用いた遺伝子改変T 細胞 (CAR T 細胞) のワークフローに有用と考えられます。

CD247 をフローサイトメトリーパネルに組み込む場合、他におすすめのマーカーはありますか? またその理由は?

パネルに他のマーカーを加えるのであれば、古典的な T 細胞マーカーである CD3、CD8、CD28 などが適切です。当社には T 細胞シグナル伝達に関与する他のリン酸化タンパク質抗体としてPhospho-ZAP70、Phospho-LCK、Phospho-SLP76 などがあります。

CD247 の相対的発現および蛍光色素の選択について教えてください。

CD247(CD3 Zeta)  は発現強度が高く、PE、APC、PerCP-eFluor 710 のようなより明るい蛍光色素で染色できます。また、蛍光強度の低い FITC または eFluor 450 なども使用できます。

T 細胞マーカーに対する主要な抗体の情報はどこで入手できますか?

初めに推奨するリソースとしては、サーモフィッシャーサイエンティフィックのウェブサイトです。リスト化されたすべての抗体について、それを認識する抗原、ヒトまたはマウスの初代細胞に関するドットプロットが記載されています。ゲーティング設定から詳細なプロトコルとガイダンスを含むアプリケーションノートも閲覧できます。T 細胞パネルの構築には、10 カラー T 細胞パネルを含むアプリケーションノートがお奨めです。また、包括的なパネルビルダーで、ご自身の免疫表現型解析パネルを構築できます。

主な T 細胞参考文献:
1. Lin J, Weiss A. (2001) T cell receptor signaling. J Cell Sci. 114: 243-4.
2. Kay, J.E. (1991). Mechanisms of T lymphocyte activation. Immunology Letters. 29, 51 – 54.
3. Trickett A, Kwan YL. (2003) T cell stimulation and expansion using anti-CD3/CD28 beads. J Immunol Methods. 275(1-2):251-5.
4. Risueño RM, Schamel WW, Alarcón B. (2002) T cell receptor engagement triggers its CD3epsilon and CD3zeta subunits to adopt a compact, locked conformation. PLoS One. 3(3):e1747.
研究用のみに使用できます。診断目的およびその手続き上での使用はできません。

サーモフィッシャーの科学者であるNatalie Oxford は、フローサイトメトリーに適した抗Phospho-CD247 抗体の開発を担当しています。Oxford は、11 年以上のR&D経験を持ち、抗Phospho-CD247 抗体などを複雑な免疫表現型フローサイトメトリーアプリケーションに関するガイダンスを提供しています。

 

研究用にのみ使用できます。診断目的およびその手続き上での使用はできません。

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