シーケンシングは、遺伝子の機能解析ために目的のDNA領域をクローニングしたベクターや、ゲノム編集のために構築したベクターが、正しく構築されているかを確認するために利用されています。一方、複数サンプルの特定遺伝子を直接(ダイレクトに)PCRした後にシーケンスし、得られた塩基配列を比較することによって、疾患等に関連する変異の解析にも利用されています。このクローニングを介さずダイレクトにゲノム領域をシーケンスできる方法は、ダイレクトシーケンス法と呼ばれ、短時間で簡単に結果が得られる方法として広く用いられています。
本記事では、PCR産物のダイレクトシーケンスの概要から、PCRクリーンアップの三つの方法、さらには短時間でダイレクトシーケンスを行うための新規ソリューションをご紹介します。
▼こんな方におすすめです!
・ダイレクトシーケンスやPCRクリーンアップに興味がある方
・ダイレクトシーケンスをこれから行う人、または既に実施したことがある人
・なるべく短時間でターゲットシーケンスやPCRクリーンアップを実施したい方
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そもそもダイレクトシーケンス法とは?
ダイレクトシーケンス法とは、大腸菌を用いたクローニングやプラスミド精製などのステップを介さず、PCR産物を直接鋳型として塩基配列を決定する方法です。
ゲノムの特定の領域を直接読むことができるため、ヘテロ変異や体細胞変異など遺伝子変異の探索に利用されます。クローニングに関わる時間やコストが不要であるため、素早く、かつ低コストで塩基配列を決定するのに効果的です。
シーケンス前処理の方法 | プロセスにかかる時間 |
サブクローニング後にシーケンスする方法 | 3日から1週間
(最短でもプラスミド構築、精製に1日要します。その後シーケンスを行うので最短3日を要します。) |
ダイレクトシーケンス法 | 抽出から解析まで1日で可能 |
ダイレクトシーケンスを素早く行うために
時間とコストを軽減できるダイレクトシーケンスですが、効率よく行うには下準備が必要です。それは、過剰なプライマーやヌクレオチドの除去です。PCR反応後のサンプル内に未反応のプライマーやヌクレオチドが過剰に含まれていると、酵素反応の妨げとなったり、バックグラウンドのシグナルが大きくなったりしてしまい、シーケンスの結果に悪影響を与えてしまうからです。したがって、このPCR産物のクリーンアップをいかに早く行うかが、ダイレクトシーケンスを短時間で実施する上での鍵となります。
また、当社ではM13の共通配列をPCRプライマーに付加し、ダイレクトシーケンスに最適化させた独自のPCRマスターミックスとシーケンス試薬をパッケージした『Applied Biosystems™ BigDye™ Direct Cycle Sequencing Kit』も販売しています。
このキットは、PCR クリーンアップのステップを排除することで効率的なワークフローを実現し、5´ 末端におけるシーケンスデータを改善します。また、BigDye を用いるダイレクト PCR シーケンスワークフローは 1 つのプレートで反応できるため、ステップ間のサンプルの移動が不要です。そのためハンズオン時間が短縮し、ピペット操作ミスが減り正確さが向上します。
『BigDye™ Direct Cycle Sequencing Kit』の商品詳細ページはこちら
さらにBigDye Xterminator精製キットを組み合わせると最初のPCR反応からランの実施まで1つのプレートで反応させることができるため、ステップ間のサンプルの移動が不要です。そのためハンズオン時間が短縮し、ピペット操作ミスが減り正確さが向上します。
『BigDye Xterminator精製キット』の商品詳細ページはこちら
従来のPCRクリーンアップ法
ここからは、PCR産物のクリーンアップ法を3つ紹介します。
1. 磁気ビーズを利用する方法
磁性ビーズが核酸に結合する性質を利用。全部で9ステップあり、トータルで45分間を要します。
2. 酵素反応を利用する方法
プライマーやヌクレオチドを分解する酵素の性質を利用(ExoSAP-IT™ PCR Product Cleanup Reagent)。全2ステップでトータル30分間を要します。
3. スピンカラムを利用する方法
核酸がシリカゲルに結合する性質を利用。全8ステップありトータルで20分間を要します。
以上のように、これまで最短でもPCRクリーンアップ法は20分を要するとされてきました。
新製品!5分でできるPCRクリーンアップ法のご紹介
そこで、新たに登場したのがApplied Biosystems™ ExoSAP-IT™ Express試薬です。他のPCRクリーンアップとほぼ同等の精製クオリティやシグナル強度、シグナルノイズ比を保ちつつ、最短5分でのPCRクリーンアップを可能にしました。
これは主に、従来のエキソヌクレアーゼの改変型が開発のベースとなって、熱感受性が向上したことに起因します。また、多サンプルであっても1回のピペット操作で反応が完了でき、ハイスループットな実験が行えるのも大きな特長です。
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まとめ

ExoSAP-IT Express 試薬とスピンカラムおよび磁気ビーズとの比較
ExoSAP-IT Express 試薬に使用されている新しいテクノロジーによって、最小限のステップでサンプルのクリーンアップ時
間を大幅に短縮し、簡単なワークフローを実現します。
・ダイレクトシーケンスをより素早く行うには、PCRクリーンアップの効率化が鍵となる
・PCRクリーンアップには磁気ビーズや酵素反応、スピンカラムの利用などがある
・ExoSAP-ITを利用すれば、最短5分でPCRクリーンアップができる
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