細胞培養を行う上で気を付けないといけないことにバクテリアなどのコンタミネーション(汚染)があります。一度コンタミネーションが生じてしまうと、その細胞は処分する必要があり、施設によっては使用している培地、試薬などもすべて廃棄するなど、自身の問題だけでは終わらないこともあります。
このブログの著者も学生時代にコンタミネーションを起こしてしまい教授にこってりと絞られた、あまり思い出したくない苦い経験があります。
話は変わりますが、細胞培養を行う際にウシ胎児血清:Fetal Bovine Serum (FBS)を使用されている方も多くいらっしゃるかと思います。このFBSはロット間の差が大きいと言われていますが、ロットが変わってから培養中にバクテリア様のうごめくものが発生し、コンタミネーションが多く発生するようになってしまったという経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
しかし、もしかすると、そのうごめくものはバクテリアではなかったかもしれません。
リンク:
ウシ胎児血清(FBS)の基礎
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▼もくじ
FBSだけを培養したらうごめくものが発生する?
FBSだけを培養するとバクテリアのようなものが大量発生してしまうとお客さまからご報告があったために同じロットのFBSを1週間培養してみました。
その結果が下の動画になります。
うごめくものが大量に発生しています。これだけ見るとコンタミネーションにしか見えませんね・・
コンタミネーションなのか培地の色で確認する。
培養中に発生したうごめくものがバクテリアなのか確認を行うためにpH指示薬であるフェノールレッド含有の培地で培養を行いました。
バクテリアなどのコンタミネーションが生じた場合、培地が酸性に傾き、フェノールレッド含有培地の色が黄色くなるはずです。
問題のFBSを2週間以上培養したものが下の結果になります。
その結果、培地の色の変化は観察されませんでした。
この結果からうごめくものはバクテリアではない可能性が高いと考えられます。
コンタミネーションなのか核染色で確認する。
うごめいている粒子がバクテリアであった場合、核酸を持つはずなので?核酸染色試薬であるヘキスト色素で染色することができるはずです。確認してみました。
その結果、ポジティブコントロールの大腸菌はヘキスト色素で染色されましたが、同条件ではFBSに生じたうごめくものは染色されませんでした。
この結果からも、このうごめいているものはバクテリアではない可能性が高いと考えられました。
コンタミネーションなのか無菌試験で確認する。
最後にコンタミネーションが生じていないことを無菌試験でも確認しました。
この検証では当社の製品の一つであるThermo Scientific™ Signal™ Blood Culture Systemという製品を使用しています。
この製品は液体培地部分にサンプル(血液、血清など)を加え培養を行います。コンタミネーションが起こっていた場合、細菌の発育が生じることでガスが発生し、ボトル内の内圧が上がることにより上のグロス・シグナル内に培養液が流入することで陽性かどうか判定することができる製品です。
無菌試験の結果がこちらです。
ポジティブコントロールの大腸菌では培地の濁り、液面の上昇が観察されましたが、FBSでは培地の濁り、液面の上昇とも観察されませんでした。この結果から、少なくても今回の検証で生じたうごめく謎の析出物はバクテリアではないと考えられます。
まとめ
FBSを培養したところ確かにバクテリアのように動いて見えるものが観察されました。しかしながら、培地の色の変化や濁りは観察されず、ヘキスト色素による核染色でも染色は見られませんでした。無菌試験でもバクテリアの増殖は観察されなかったことから、この粒子はバクテリアによるコンタミネーション由来の物ではなく、FBS由来の成分が析出し、ブラウン運動などで動いていると考えられます。一般的にこのような析出物が発生したとしても使用可能とされています。
FBSのロットが変わったタイミングでこのようなうごめく析出物が発生した場合には、培地の色や濁りを観察していただき、核染色などで確認していただければと思います。なお、コンタミでなかった場合、製品には問題ないので使用に問題ありませんが、この析出物が何かまでは今回は分かりませんでしたので、今後追究できればと思います。
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研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。