小麦粉のタンパク質、水分、灰分などの成分は品質を決定する主要な項目です。小麦粉の従来の定量分析には、熟練した分析者や化学薬品の使用が必要であり、試料の前処理に時間がかかり、結果を待つ時間が長くなるという課題がありました。従来の分析法をフーリエ変換近赤外分光法(FT-NIR)に置き換えることで、より迅速な結果と正確な定量が可能となり、小麦粉が仕様に適合しているかを確認することができます。
こんな方におすすめです
- 食品、飲料などの製造現場
- 原料受け入れ検査、製品管理検査で活躍
近赤外スペクトルの測定
積分球を備えたThermo Scientific™ Antaris™ II FT-NIRアナライザーを用いた拡散反射法により、小麦粉の近赤外スペクトルを測定しました。試料ステージにはサンプルカップスピナーをセットしました。
小麦粉を詰めたサンプルカップを回転させながら、試料から反射してくる拡散反射光を積分球で測定します。カップを回転させることでサンプルに由来するバラつきを低減し、平均的な拡散反射スペクトルが得られます。測定条件は波数分解能 8 cm-1 、積算回数32回、1回の測定は20秒以内でした。
小麦粉の粒子サイズやサンプルの詰め具合の違いによってスペクトルのベースラインがオフセットしますので、その影響を軽減するためにスペクトルの処理として一次微分と標準正規変量(SNV)処理を行いました。
定量モデルの作成
Thermo Scientific™ TQ Analyst™ ソフトウエアを用いて小麦粉のタンパク質、灰分、水分の定量分析に用いる定量モデルを作成しました。
~分析精度の高い定量モデルPLS法~
PLSは最も使われている定量モデルの一つで、小麦粉のスペクトルに代表されるような幅広いピークや重なり合ったピークでも良好な検量線が得られる特徴があります。
PLS法は、PLS回帰分析とも呼ばれ2つのステップを経て検量モデルが作成されます。1つ目は多変量データであるスペクトルを主成分分析して変数を10個程度の「主成分」に要約するステップです。2つ目は主成分のうちのいくつかを組み合わせて回帰分析により最適な1つのモデルを導き出すステップです。導き出されたモデルで計算された計算値と実測値の関係が検量線として表されます。このブログでは、小麦粉のタンパク質の定量について見ていきましょう。
検量線の作成
成分の濃度は従来の一次分析法により求めた値を実測値として入力し、PLSモデルを作成して検量線を得ました。相関係数は0.998、検量線の平均二乗誤差平方根(RMSEC)は0.114、検証後の平均二乗誤差平方根(RMSECV)は0.116と良好な結果でした。
回帰モデルに使うファクター数
10個程度に要約された主成分ですが、最適な数を決定するために、予測残差平方和(Predicted Residual Error Sum of Squares, PRESS)プロットを見てみます。PRESSプロットはファクター数の増加に関する予測精度の変化を示しています。誤差が十分に小さくなるような最少のファクター数を選択しモデルを最適化します。ソフトウエアが最適な数を自動で選択することもできます。
視覚的ツールの活用
TQ Analystソフトウエアは、外れ値、傾向、パターンを特定するための視覚的ツールとして、2次元(2D)と3次元(3D)の主成分スコアプロットの表示ができます。下記に3Dスコアプロットを示します。分析者はどの主成分がターゲットと最も相関があるかを視覚的に確認することができます。
まとめ
小麦粉の定量モデル作成により、FT-NIR アナライザーが小麦粉の主要成分であるタンパク質を正確に定量できることが確認できました。TQ Analystソフトウエアは検量線のほか、PRESSプロット、3D主成分スコアプロットなど視覚的な診断ツールにより、定量モデルの最適化ができます。FT-NIRでの分析は、化学薬品を使用せずに簡単に、より速く、正確な結果が得られます。リアルタイムで品質情報を提供することで、生産効率と収益性を高めることが期待できます。
Thermo Fisher Scientificが販売しているFT-NIRの詳細は下記をごらんください。
FT-NIR製品についてのお問い合わせをお待ちしております。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。