一般的に赤外顕微鏡で用いられる検出器は液体窒素での冷却が必要なMCT検出器です。FT-IR本体での測定に比べ、測定サンプルに合わせてアパーチャーで赤外光を絞り込むため、DTGS検出器よりも感度の高いMCT検出器を使用します。一方、赤外顕微鏡Thermo Scientific™ Nicolet™ iN10には顕微鏡用のDTGS検出器(室温型検出器)が標準搭載されています。今回は、これらの検出器の特徴を踏まえつつ、Nicolet iN10赤外顕微鏡を用いた測定例をご紹介します。
繊維状異物1の透過測定
ダイヤモンドウインドウ上に繊維状異物1をピックアップし、MCTおよびDTGS検出器での透過測定を行いました。測定条件は分解能8 cm-1、積算回数64回、アパーチャーサイズ100×100 μmです。
図1:繊維状異物1の透過スペクトルと可視画像
ライブラリー検索結果から繊維状異物1はセルロースであることがわかりました。さらに、可視画像において粉状の成分が存在する様子が見られることからセルロース以外の成分も混在していると考えられました。これは、1100 cm-1付近のピーク(赤枠領域)の様子がライブラリーと若干異なっていることから、この領域にピークを持つセルロース以外の化合物の混在が推測されました。この粉状の成分はSiO2でしたが、1100 cm-1付近のピークはセルロースと重なるため判別を行うのが困難です。SiO2は815、475 cm-1付近にも特徴的なピークがあります。475 cm-1付近のピーク(青枠領域)はMCT検出器では観測ができませんでしたがDTGS検出器では観測できています。
繊維状異物2の透過測定
繊維状異物2についても同様の測定を行いライブラリー検索を試みたところ、異物はセルロースであることがわかりました。こちらでも可視画像と1100 cm-1付近のピーク(赤枠領域)の様子からセルロース以外の成分も混在していると考えられます。こちらのサンプルでは粉状の成分は硫酸ナトリウム(Na2SO4)でした。硫酸塩もSiO2同様 1100 cm-1付近のピークがセルロースと重なり判別を行うのが困難です。
Na2SO4は650~600 cm-1付近(青枠領域)にも特徴的なピークがあり、MCT検出器では観測ができませんでしたがDTGS検出器では観測できています。
図2:繊維状異物2の透過スペクトルと可視画像
MCT検出器とDTGS検出器の測定結果比較
今回のサンプル(繊維状異物1・2)においては複数成分が混在しており、さらに主なピークが重畳していることからMCT検出器の測定では異物1と異物2のセルロース以外の成分の違いの判別は困難ですが、650 cm-1以下に特徴的なピークを観測できたDTGS検出器での測定スペクトルを用いることで、違いを判別できました。
まとめ
セルロースなどの糖骨格構造をもつ化合物、硫酸塩系化合物およびケイ酸塩系化合物の赤外スペクトルは1100 cm-1付近に幅の広い強いピークをもちます。これらは身近な材料としても比較的よく用いられており、これらが混在して検出された場合には1100 cm-1付近のピークが重なり判別が難しくなる場合があります。硫酸塩系化合物やケイ酸塩系化合物は650 cm-1以下の領域に比較的強い特徴的なピークを持つものが多く、DTGS検出器を用いてこの領域を測定することにより、判別のヒントが得られる場合があります。
関連情報
関連製品Webページ→ Nicolet iN10 赤外顕微鏡
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