DNA型を得る前にDNAサンプルの質を評価する方法があったとしたらとても有用ではないでしょうか?犯罪現場より回収されるサンプルには、血痕、唾液、皮膚の細胞などさまざまな種類があります。得られたサンプルのDNA濃度を正確に見積もることができれば、このDNA濃度を基に信頼性の高いDNA型を得ることができます。一方でDNA濃度以外の影響により、適切なDNA型が得られなかったこともあるのではないでしょうか。この記事では、定量の過程で濃度以外にもDNAの質の情報が得られるApplied Biosystems™ Quantifiler Trio Quantification Kitをご紹介します。このキットはDNA濃度に加えて、DNAの分解、サンプル内に存在する阻害物質、男性遺伝子の存在を評価できます。
▼こんな方におすすめです!
・ヒト個人識別を実施している
・安定したDNA型を得たい
DNAサンプルの分解がDNA型データに与える影響
DNAの分解は光、熱や湿度などのサンプルが存在する環境の影響により生じます。以下の図はDNAが分解したサンプルで見られるパターンです。大きいフラグメントほどDNA分解の影響を受けて増幅できなくなるためこのようなパターンになります。
Quantifiler Trio Quantification Kitを用いた評価では、分解を評価する指標に分解指数Degradation Index(DI)を算出しています。分解指数とは以下の式の様にQuantifiler Trio kitで定量される小さい常染色体上のターゲットと大きいターゲットの濃度比から自動で算出されます。
この比が≤1であれば分解されていないDNAとして評価できます。一方1を超えた場合はDNAが分解しているサンプルとして、次のSTR増幅に使用するDNA量を決定する判断材料とすることができます。
DNAサンプルの阻害物質がDNA型データに与える影響
次にDNA増幅時の阻害物質について考えてみましょう。サンプル抽出時に混入してしまった阻害物質はその後のDNA型にも影響を与えます。以下の図のように分解DNAをサンプルとして使用したときと同様に大きいフラグメントに影響がみられます。
同じようなデータが得られたからといって分解と阻害を同様のものと考えてはいけません。たとえば分解が生じたサンプルはDNA量を増やすことによりピークのシグナルの増加がみられる場合がありますが、阻害がみられるサンプルはDNA量を増やすことにより、逆にサンプル内の阻害物質の持ち込みが多くなるため影響が大きくなってしまいます。Quantifiler Trio kitはインターナルPCRコントロールとして、テンプレートDNAとTaqManプライマーペアをキット溶液内に加えてサンプル内の阻害を評価します。サンプルに阻害物質が含まれる場合はインターナルPCRコントロールの増幅に影響が生じ、Ct値が大きくなるため、阻害を知ることができます。一方で、サンプルDNA濃度が比較的高い場合(5 ng/μL以上)においてもCt値がわずかに大きくなる傾向にあります。なぜなら高いDNA濃度により反応が飽和してしまっているためです。このためインターナルPCRコントロールのCt値とDNA濃度は同時に評価することが重要です。たとえば50 ng/μLのサンプルに阻害がみられる場合は、他の高濃度DNAのサンプルや同濃度のサイズスタンダードのインターナルPCRコントロールのCt値との比較が重要です。
前述したように、分解も阻害も共に大きいDNAフラグメントに影響を与えます。そのため分解なのか阻害なのかを評価することが必要です。たとえば、分解指数が高く、インターナルPCRコントロールのCt値が理想的であれば、分解のみが生じていると評価できます。しかし分解指数、インターナルPCRコントロールのCt値がともに高い場合は、分解と阻害の両方の可能性が考えられます。ひどい阻害がみられるサンプルについては、サンプルの希釈やクリーンアップなどの処理をして、阻害を除く操作を実施した後に再度定量をし、分解が生じているかを評価することも可能です。
まとめ
・Quantifiler Trio Quantification KitはDNA濃度に加え、分解、阻害の情報を得ることができる!
・これらの情報を考慮して次のSTR増幅のステップへ最適なワークフローを選択できる!
その他法医学関連の情報についてはぜひこちらのサイトもご参照ください。
who work with bone, and use real-time PCR analysis»
研究用にのみ使用できます。診断目的およびその手続き上での使用はできません。