はじめに
近年、蛍光染色は細胞観察の技法として非常に身近なものとなっています。しかし、実際の実験に使用するサンプルは貴重なものが多く、基本的な実験手技を学ぶのが難しいという問題点があります。
例えば、ヒトの検体であれば 、練習に使うことはなかなか難しく、マウスのサンプルであってもマウスを解体する必要があり、入門者には敷居が高いです。また、実験に用いる抗体も貴重なものが多く、入門者が手技の練習のために消費してしまうと、本番の実験までに貴重な抗体を使い果たしてしまうという問題点もあります。
そこで今回は、入手が簡単な食肉サンプルを用いた蛍光染色実験例をご紹介します!動物種を選ばない染色試薬を使用するため、蛍光染色入門者の手技の練習や、学生実習などに最適な実験方法です。
材料および方法
サンプルは、スーパーマーケットで市販されている豚タンを購入した(図1)。購入した豚タンをカッターで約1cm角に切った。この豚タンをクリオスタット内にセットした試料チャック上に静置し、クリオマトリックスコンパウンドで包埋した。そして Thermo Scientific クリオスター NX70の凍結バー機能を利用して、凍結を行った。切片の作成にはMX35 Ultraの替刃を用い、厚み10μmの切片を薄切りした。試料ヘッドと替刃は-20°Cで温度制御した。切片をカラーフロストプラススライドホワイトに乗せたものを蛍光染色に用いた。
蛍光染色の手順
切片を風乾
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4% パラホルムアルデヒド in PBS, 15 min で固定
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10 mM Glycine / PBS, 3 min×3 回 で洗浄
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0.5% Triton X in PBS, 10 min で膜透過処理
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10 mM Glycine / PBS, 3 min×3回 で洗浄
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200 μL の染色液で染色
・Alexa Fluor 594-phalloidin (final 5 units/mL)
・Alexa Fluor 647-Wheat Germ Agglutinin (final 5 μg/mL)
・Hoechst 33342 (final 2.5 μg/mL)
(1% Normal Goat Serum/PBS に溶解)
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Incubation 1 hour
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1% Normal Goat Serum/PBS, 3 min × 3 回で洗浄
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SlowFade Gold でマウント
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EVOS FL Auto Cell Imaging System で観察・撮影
結果および考察
Invitrogen EVOS FL Auto Cell Imaging Systemで蛍光観察を行いました。それぞれの蛍光を別々のフィルターで検出し、重ね合わせたのちに、それぞれの蛍光を擬似色で表示したものを図2に示します。豚タンでも、部位によっては複数種類の細胞が存在しており、核:青、細胞膜:緑、F-アクチン:赤で染め分けることができました。今回使用した蛍光試薬は、哺乳動物であれば幅広く使用できるものですので、宿主特異性がありません。今回は豚タンを用いて実験を行いましたが、豚以外の食肉であっても、またタン以外の臓器であっても、実験が可能だと思います。
切片作成、そして蛍光染色の手技を学ぶためには、繰り返し実験を行い手技を身につける必要があります。食肉サンプルは比較的手に入れやすいサンプルなので、入門者でも実験に取り組み易いはずです。十分に手技を身に付けた後に、ヒト、あるいはマウスのサンプルで本番の実験を行うことができれば、本番の実験での失敗のリスクを低減できると思います。ぜひこの実験で切片作成、蛍光観察の基礎を身に付けて、より難しい実験にステップアップしてください!
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