※自由研究テーマを探しているお父さんお母さんへ
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「ペーパークロマトグラフィー」は、自由研究でよく選ばれる実験のひとつです。
聞いたことがある方も多いかも知れません。ですが、この名前、なかなか耳慣れないですよね。「ペーパー」は紙、それはわかりますが、「クロマトグラフィー」って何というのが正直なところかと思います。
「クロマトグラフィー」とは、複数の物質が混ざったものから、物質の性質を利用して分離する手法のことです。では、ペーパークロマトグラフィーではそもそも何を分けるのでしょうか?どうして分離できるのでしょう。さらに、分離することで一体何がわかるのでしょうか。
こういった「なぜ」と「なに」を考えたり検証したりすることで、「お子さんだけ」の特別な自由研究を完成させることができます。
それでは、「ペーパークロマトグラフィー」の実験の流れをご紹介しながら、「なぜ」と「なに」を考えていきましょう!
ペーパークロマトグラフィーをやってみよう!
「ペーパークロマトグラフィー」の代表例として、「紙を使ってインクの成分を分離する方法」を説明しましょう。
用意するもの
- ペーパータオル
- コップ
- 水道水
- はさみ
- ピペット
- クリップ
- 水性ペン
・対象年齢は5歳以上です。小学生以下のお子さんが実験を試す場合は、必ずご一緒にお願いします。
・実験を行う際は、必ず手順を確かめてから実施してください。
・材料(溶液、はさみ、器具など)の取り扱いに十分に注意し、ケガのないように、個人の責任で行ってください。
・実験で作ったものや使ったものは飲んだり食べたりしないでください。
・材料や環境によっては記事通りの結果にならないこともあります。
実験方法
1. ペーパータオルを、幅3 cm、長さ15~20 cmに切り、短冊状の紙を作ります。
A. ペーパークロマトグラフィーでは、液体が浸透しやすい紙を用いないと、インクがうまく分離しないからです。
興味があれば、この実験を終えた後、コーヒーフィルター、コピー用紙、画用紙、半紙など、さまざまな紙で試してみましょう。
2. ペーパータオルの端から2~3 cmのところに、水性ペンで印をつけます。印は、丸でも横線でも構いません。丸の場合は、中を塗りつぶしましょう。
A. インクの成分を分離するには、インクを溶かす必要があります。この実験では水を使用するため、水に溶けるインクのペン(水性ペン)を使う必要があります。
興味があれば、この実験を終えた後、コーヒーフィルター、コピー用紙、画用紙、半紙など、さまざまな紙で試してみましょう。
ここで、水に浸す前と浸した後を比較するために、水に浸す前の短冊の写真を必ず撮影しておきましょう。さらに、水に漬けたらどうなるか、この段階で予想もしてみましょう。
3. 割りばしとクリップ(または洗濯ばさみ)を使って、印を付けた短冊を固定します。
4. 下図のように、3で作った短冊の下端が水に触れ、かつ印が水に触れない高さになるよう、コップに水道水を入れてください。その後、ゆっくりと短冊を浸します。
A. 印が水に漬かってしまうと、その場所でインクがにじんでしまったりコップの水に溶けだしたりして、「インクの成分の分離」ができないからです。
5. 印の様子を、30秒から1分程度、観察します。時間とともに様子が変化するので、時間を測定しながら観察するのがおすすめです。記録に残すために写真を撮るのもよいですね。
A. 紙の下端を水に漬けることで、まず水が少しずつ紙に浸透し、毛細管現象で上にあがっていきます。このとき、水の通り道にインクがあります。水性ペンのインクは水に溶けるため、水と一緒にインクも上にあがっていくという仕組みです。
ペーパークロマトグラフィーの実験操作はこれで終了です。
ですが、ここから先の「考察」が自由研究においてとても大切なポイントです。インクが上にあがった後の写真に気になるところがありますよね。そう、黒いペンだったのに、黒ではない色が登場しているのです。
では早速、この点について考察をしてみましょう。
考察
黒ではない色が現れた場所を拡大して見てみます。
よく見ると、「水色」「緑」「茶色」という複数の色が現れていました。
しかし、水に浸す前、紙に描いた印は間違いなく「黒」でした。
では「なぜ」と「なに」を考えてみましょう。
A. ペーパークロマトグラフィーという「物質を分解する方法」で、「黒」が複数の色素に分解されたからです。
つまり、ここで使った水性ペンの「黒」には、「水色」「緑」「茶色」という複数の色素が混ざっていたのだろうと、この結果から推測できます。絵の具で複数の色を混ぜると黒くなるのと同じです。
A. それぞれの色素の「水に溶けやすさ」や「紙への吸着しやすさ」が異なるためです。
ペーパークロマトグラフィーでは、毛細管現象に応じて水(移動相と呼びます)が上に移動していきます。このとき、水によく溶ける色素は、水の流れに沿ってどんどん上に移動していきます。しかし、水に溶けづらい色素は、水とともに上に移動しているうちに、紙(固定相と呼びます)に吸着して、途中でその場にとどまります。水に溶けづらければ溶けづらいほど、より早くとどまります。
この「水に溶けやすい」と「紙に吸着しやすい」は、相反する性質で、以下の図のように表すことができます。
今回の実験では、水性ペンの黒を構成する色素のうち、水に溶けやすい順番は「水色」「緑」「茶色」だった(つまり紙に吸着しやすい順番は「茶色」「緑」「水色」だった)ため、この順に並んだと考えられます。
A. はい、どちらのケースもあります。
「失敗した」と落ち込むことはありません。こんなときは考察と再実験のチャンスだからです。
もしかしたら黒一色でできている水性ペンなのかもしれませんし、世の中には「水ににじまない水性ペン」という優れたものも存在するようです。また、顔料インクは乾くと水に溶けにくくなります。そういったペンで描いた印は、上にあがっても黒のままだったり、短冊につけた印が黒のまま動かなかったりすることがあります。
使用したペンでなぜそうなったのか、ペンの側面の仕様欄を見たり、メーカーのホームページから情報を収集したりして考えてみましょう。

左:色素は上にあがったけれど色が分かれなかった例
右:色素が上にあがらなかった例
また、色素が上にあがらないときは、移動相(短冊を漬ける液体)を変更して試してみると、何かわかるかも知れません。たとえば、移動相をエタノールに変更したら、何が起こるでしょうか。水に溶けないペンでも、油を溶かす液体(エタノールなど)には溶けるかもしれませんよ。
ペーパークロマトグラフィーは、短時間で終わる簡単な実験です。これだけだと物足りないと感じる場合は、ぜひ実験を発展させてみましょう。
実験を発展させるためのヒント・まとめ
- ペーパータオルのほか、コーヒーフィルターやコピー用紙、画用紙、書道用の半紙、いろいろな紙で試してみましょう
- 紙によってペーパークロマトグラフィーの結果が異なった場合、なぜ結果が異なるのか考えてみましょう
家庭用の光学顕微鏡をお持ちの場合は、ペーパークロマトグラフィーで使用した複数の紙を顕微鏡でのぞいて比較すると、考察の幅が広がるかも知れません
例:コーヒーフィルターを200倍に拡大したもの - メーカーや種類の違う、いろいろな水性ペンで試してみましょう
- 油性ペンで試してみるのも面白いです。そのとき、移動相(短冊の下端を漬ける液体)は何がいいのか、考えてみましょう
- ペンだけではなく、カラフルなお菓子(原材料欄に「着色料」と書かれているもの)で印を描いて試してみましょう
- 移動相(短冊の下端を漬ける液体)もいろいろと試してみましょう。塩水、砂糖水、酸性(水にレモンの汁を加える)やアルカリ性(水に重曹を加える)、エタノールなどが試しやすいです
応用実験:ペーパークロマトグラフィーで花を作ろう
ところで、ペーパークロマトグラフィーはなぜ自由研究として人気があるのでしょうか。
まず、下の写真を見てみましょう。いずれも淡い色合いが美しい花に見えますよね。
実はこの花たち、いずれもペーパークロマトグラフィーを利用して作られたものなんです。
ペーパークロマトグラフィーが人気なのは、実験方法が簡単という理由ももちろんあるでしょうが、このようにきれいな模様を作り出せるからという理由もありそうです。さらに、水性ペンの色がどのように分かれるか試してみないとわかりませんので、新鮮な驚きが得られる楽しさもあります。
それでは、応用実験のひとつとして、水性ペンを用いて花を作ってみましょう。
用意するもの
- 円状のコーヒーフィルター
- コップ
- 水道水
- ピペット
- クリップ
- 複数色の水性ペン
実験方法
1. 円状のコーヒーフィルターに、いろいろな色でいろいろな印を描いてください。
下図の印はあくまでも例です。思いつくまま描いてみましょう。
描いた模様は、後で確認できるよう写真に撮っておくのがおすすめです。また、どのような花が咲くのか、このステップで考察もしてみましょう。
2. 印を付けた円状のコーヒーフィルターを、四つ折りにし、図のように丸く広げ、円すいを逆さにした形にします。
3. コップに水道水を入れ、円すいの頂点を水に漬けます。印が水に漬からないよう注意しましょう。
4. インクの色が動かなくなったら、コーヒーフィルターを取り出して広げてください。
花は咲きましたか?
出来上がった模様を最初に描いた印と比較してみて、どの色がどう動いたかなどを考察してみましょう。
さて、最後に少し、ペーパークロマトグラフィーという手法に関する「なぜ」と「なに」をご紹介します。
A. クロマトグラフィーを英語で書くと「Chromatography」になりますが、この「Chroma」はギリシャ語で「色」、「graphos」はギリシャ語で「記録」という意味です。つまり、「色の記録」がクロマトグラフィーという言葉の正体です。
100年以上前に、ロシアの植物学者であるツヴェットが、植物の葉の中に含まれる色素を分離したのがクロマトグラフィーの始まりで、彼が名付け親です。この色素は、中学や高校の理科で習う「クロロフィル」です。植物が光合成をするときに欠かせない色素のひとつですね。
ところで、「ツヴェット」もロシア語では「色」という意味だとか。面白い偶然の一致です。
A. クロマトグラフィーは「ペーパー」だけではなく「高速液体クロマトグラフィー」「ガスクロマトグラフィー」「アフィニティクロマトグラフィー」など、さまざまな「固定相」や「移動相」を使い、たとえば水質分析などの環境測定や、食品の品質検査など幅広い用途で使われています。また、分析するだけではなく、複数の物質が含まれている状態から目的の物質を分離することもできるので、バイオ医薬品と呼ばれる、タンパク質を有効成分とした薬の精製にも使われています。
こちらから、ペーパークロマトグラフィーの実験動画がご覧いただけます。
楽しくペーパークロマトグラフィーができましたか?
定番の実験であってもなくても、いろいろな場面で「なぜだろう」「これは何だろう」と疑問を持ち続けることが、科学への興味を湧きたたせます。自由研究は、お子さんが科学への興味を持つためのきっかけのひとつです。そしてその小さなきっかけが、いずれ世界の科学の進歩へとつながっていくかも知れません。
・対象年齢は5歳以上です。小学生以下のお子さんが実験を試す場合は、必ずご一緒にお願いします。
・実験を行う際は、必ず手順を確かめてから実施してください。
・材料(溶液、はさみ、器具など)の取り扱いに十分に注意し、ケガのないように、個人の責任で行ってください。
・実験で作ったものや使ったものは飲んだり食べたりしないでください。
・材料や環境によっては記事通りの結果にならないこともあります。
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